幻想の中で


あれだけ嫌がっていた斎藤君が、ついに陥落した。

きっかけは土方さんとの接触。

自分の罪悪感に押し潰された形で、僕との行為を了承した。

今夜、僕は斎藤君に抱かれる。

そしてそれは、僕の中では土方さんに変わるんだ。

土方さんは、僕がどうしても手に入れられない人。

だから斎藤君は、土方さんの代わり。

もちろん僕は、そのことに罪悪感なんか湧かない。

だって、僕たちは土方さん自身には手を出していないんだから。





「斎藤君」
「………総司」
「いい子だね、ちゃんと待ってたんだ」
「……約束、だからな」

自分の部屋なのに、敷かれた布団の隅に正座して俯くその顔には、どうやら未だに拭い去れない罪悪感がありありと浮かんでいる。

……そんなに悩むことないのに。

僕はそんな斎藤君の傍らに座り、早く目的を果たそうと自らの服に手をかけた。

着物を脱ぐときの乾いた衣擦れの音が、無音の室内に響く。
その音に斎藤君の身体が跳ねた。

ゆっくりと顔をこちらに向け、でもその場から一向に動こうとしないその意固地な手を取って、僕の胸に持って行く。

「んっ……」

着流しの下に滑り込ませて突起に触らせると、斎藤君は目を閉じて僕に乗り上げてきた。

体重をかけられてそのまま押し倒され、胸の突起物を弄られ息が荒くなる。

……もう、斎藤君は斎藤君じゃなくなった。



「…次は、どこがいい?」
「んっ、あ…した、を…」

取り出されたそれはもうビンビンに張り詰め、少し触られただけで吐精感が全身を襲う。

実際、達くこと自体はなんとか耐えたが、先走りはその度を超すほどの量を出していた。

無慈悲な手はそれを煽るように筋を擦り、先端にカリカリと爪を立てる。

「んぁっ……はっ、もうやだぁ」
「…じゃあ、うつ伏せに」

言われた通りにし、先を望むその心情を露わにするかのように膝を立ててお尻を突き出す。

少し冷たい手がそれに添えられ、より中が見えるように割れ目を開いた。

「中が丸見えだ。卑猥だな」
「も……何でも、いいからぁ…はやっ、く」

土方さんのものが早く欲しい。

僕のここに入れたい。

早く……繋がりたかった。

けれど、そこに何かを入れるのはこれが初めて。

先を望む心と、湿った指を飲み込む遅さ、そして異物感に苦しむ己。

相反する現実が襲ってきて、胸が苦しい。

さっきまで起ち上がっていた僕のものは、もうかなり萎えていた。

「ふ……う、ぇ……」
「なかなか上手くいかないな……どうする?」
「……も、いい…。いた、くて……いい、か…ら」

……早く入れて。

その言葉に、一瞬の間の後に熱い塊がそこに宛てがわれた。

そして、一気に貫かれた。

「ひあぁぁあああっっ!!!」

強引に押し入ってくる灼熱の凶器に、中を犯される。

それは、まさに拷問。

結局、その日僕に望んだ快感が訪れることは無かった。





「……すまない、総司」

横たわる僕のすぐ近くで頭を下げる斎藤君に、僕は苦笑を洩らす。

「大丈夫だよ、まぁちょっと痛かったけど……初めてだからね」
「しかし…。総司は、その……上手く、やれるだろう。それなのに俺は……。気づいたら、自分が抑えられなくなっていた。お前が痛い痛いと泣き出すまで、俺は完全に何も見えなくなっていたんだ…」

そうしてまた、すまないと頭を下げる。

何か出来ることはないか、と問うその瞳には抗えず、じゃあ水が飲みたいと伝えると、斎藤君は素早く部屋を出て行った。



独りになって、人知れず涙が頬を伝う。

……あれがもし、本当に土方さん相手だったら。

受け入れられなかったということが、僕の土方さんへの愛が否定されている気がして苦しい。

「土方さん……」

風に当たろうと、重い腰を上げて障子を開ける。

「あ…」

中庭を挟んだ向こうに、見覚えのある面影。

長くて綺麗な黒髪を高く結い上げ、藤の色の着物を纏った美しい僕の想い人。

月明かりに照らされたその姿は、淡くて儚くて、僕は思わず手を伸ばした。

「土方さん……土方さん」

何度呼んでも声は届かず、いくら手を伸ばしてもあの人には届かない。

そうこうしているうちに、土方さんは部屋へと戻っていき、その姿は見えなくなってしまった。



僕はその時、思い知った。

いつの間にか、土方さんとの距離がこんなにも開いていたことを。

傷ついた身体より、何故か胸が痛かった。



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