幻想を見ていた
部屋に、どこから出ているのかわからないかん高い声が響く。
「はぁ、あっ…」
「斎藤、ここか…?」
「あっ、ん、い、い…!」
太いもので中を抉られ、蹂躙される。
本来排泄にしか使用しない結合部は限界まで広げられ、しかし今はもう痛みなどなく、ただ快感だけが占めた。
「んぁっ、ひじ、かたさ…もっ…」
「あぁ……いいぞ」
「はぁっ…あぁぁあっ!!」
「……っ」
目を瞑ったまま欲望の証を腹にぶちまけ、中には勢いよく同じものを注がれる。
荒れた呼吸を整えながら、ゆっくりと目を開き……俺はまた後悔する。
………また、やってしまった。
俺の上で俺と同じように息を整えるそいつは、俺の求める人ではない。
「総司……」
総司はゆっくりと俺の顔を見て微笑み、俺の上からどいた。
「……また、後悔したの?」
「……したに決まっているだろう。俺は、俺たちはあの人を汚している」
「……そう?まぁ、確かに、いつも目を瞑りながらやるのには不満かなぁ。それに僕、本当はあの人に抱かれたい方なんだよね」
そんなこと、どうでもいい。
今の俺にとって、一番大事なのは土方さんのことだけ。
それなのに、総司は自分のことしか頭に無いように俺に無垢な瞳を向けて言った。
「ねぇ、斎藤君。今度は……逆でやってみない?」
「今度は……もうない」
「毎回そう言ってるよね」
「うるさい!」
耐えられず、ろくに身なりも整えずに部屋を飛び出す。
次こそは、誘いには乗らない。
そう固く決意して。
「斎藤、あとで俺の部屋に来てくれ」
「…………はい」
翌日の朝、食事の後に土方さんに声をかけられた。
今までならば頼られている気がして嬉しかったものが、今は辛い。
土方さんのあの誠実な瞳に自分が映ることが、死ぬより怖かった。
ただでさえ、土方さんは勘の鋭い人だ。
いつ、その瞳に罪を暴かれるのかわからない。
それでも、副長の命には逆らえない。
覚悟をして副長室に向かう。
きっと……大丈夫。
何の根拠もないことを自分に言い聞かせることしか、今の俺には出来なかった。
「副長、斎藤です」
「あぁ、入れ」
入室の許可を得て襖を開ける。
俺を確認する為に振り返ったその顔に浮かぶ微笑みは、己の心を揺さぶる。
「斎藤、早速だが頼みがある」
そうして任務のあらかたを聞いていた俺はその間、冷や汗をかくほどの緊張感を抱え、それでも土方さんの真剣な顔が格好良いなどと考えていた。
しかし、土方さんを見れば常に総司の顔が浮かんでしまう。
それがまた、俺を追い詰めた。
さすがに表情が乏しいと言われ続けてきただけあり、心中の動揺を悟られはしなかったが、まさにその時間は拷問に近かった。
だが、そんな俺に追い討ちをかける言葉。
「斎藤、いつもお前に頼ってばかりな俺が言うのも難だが、少しは休めよ。顔色、いつも以上に悪いぞ。左之たちほどとは言わねぇが、たまには羽目を外したっていいんだからな」
「ふ、くちょ……」
傍に来て、俺の頭を優しく撫でるそのしなやかな手。
思わずそれに身を委ねたくなり、それでも脳裏には総司との蜜事が浮かんで思いとどまる。
……俺は、既に汚れている。
こんな人間は、土方さんには似合わない。
そもそも、俺は男なのだから絶対に未来などない。
何を考えているんだ、俺は。
………でも、好きだ。
どうしても、欲しくなる。
しかし、手には入らないもの。
副長室を出て自室に向かう。
その途中、俺の前に総司が現れた。
「……ね、今夜また、君のところに行くよ。次は、逆でお願いね」
「………わかった」
もう、後戻りは出来なかった。
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