幻想を抱く


ずっと、初恋の相手を見ていれば、他に誰がその人を見ているのか、自ずとわかってくる。

僕は土方さんが好きだ。

そしてそれは……斎藤くんも。



だけど、新選組副長として毎日を過ごす今の土方さんには、真正面からぶつかることなんて出来ない。

………いや。

ただ単に、嫌われたくないからかもしれない。

だから出逢った時から、この想いは封じている。

それでも、ふとした時にあの人が欲しいという欲望は、僕の許可なしに勝手に顔を出すこともある。

例えばそう。

性欲なんて……そのままだ。



僕はいつも、自分を慰める時には土方さんを想って抜いている。

……あの人はどんな風に相手を口説くんだろう。

……あの人はどんな風に触るんだろう。

……あの人はどんな風に口づけるんだろう。

……あの人はどんな風に抱くんだろう。

それらは全て想像でしかないけど、その夢の中では僕はあの人の恋人になれた。

そういった罪を日に日に積み重ねていくと、だんだん本物が欲しくなる。

だけど、嫌われたくない。

だから僕は、身近にいて、僕と同じ欲に支配されているであろう斎藤君に、ある提案を持ちかけることにした。





「ねぇ、斎藤君。君、土方さんのこと好きなんでしょ?」
「……!」
「実はね、僕も好きなんだ」
「お前、が……?」
「僕さ、本格的にヤバいんだよね………なんだか、土方さんを見てると身体が熱くなるんだ。斎藤君もない?そういうこと」
「俺は……」
「でも僕たちは、それを解消出来ない。だからさ……」





「お互いを、土方さんだと思わない?」





それがどういう意味なのか計りかねるという表情の斎藤君を、ならやってみればわかるよ、と自室に連れて行った。

部屋に入るなり、既に敷いてあった布団に斎藤君を押し倒す。

「そう、じ……何を……」
「大丈夫大丈夫。君は僕を土方さんだと思って素直に感じてればいいんだ。僕も君を……土方さんだと思って抱く」

抱く、の一言で事態を飲み込めたらしく、斎藤君は必死になって抵抗し始めた。

暴れる腕を面倒だから縛ってしまいたいと思ったが、土方さんならそんな酷いことをしないだろうと思い直して斎藤君の耳元に顔を寄せた。

「……斎藤。愛してる」

出来るだけ土方さんの声に似せて囁くと、見事に抵抗が止まった。

意外にも、似ていたらしい。

止んだ動きに今が好機と一気に合わせ目をはだけさせ、胸の突起に触れた。

体格は土方さんよりも華奢だが、肌の白さは負けていない。

「…ん、あぁ…」

上げられる声音も、顔を見ないでおけば土方さんのものだと思えそうだった。

現に、胸に唇を這わせれば自分のものが変化をし始めていることがわかる。

「土方さん……」
「んっ、あ、はぁっ……あ、ひじ、かたさ……ん」

互いに同じ人の名前を呼びながらの蜜事。

それから前を解放して射精するまで、僕たちは幻を共有した。





「………」

こちらに背中を向けたままの斎藤君に、僕は何も言えなかった。

………罪悪感。

でも、斎藤君はともかく僕は後悔していない。

「ねぇ、斎藤君」
「話しかけるな。俺は……最低だ……」
「………真面目だなぁ、本当に」

僕の一言に反応したように、斎藤君は潤んだ瞳をこちらに向けて睨んできた。

僕は黙ってそれを受け止める。

「お前は!!……お前はこの後、土方さんにどんな顔をして逢うつもりだ!?」
「どんなって………いつも通りだよ。いつも通り……あの人には気づかれないようにするだけ」
「そんなこと、出来るわけ……」
「出来るよ。今までだってやってきたんだから」

そう言って斎藤君に口づける。

目を閉じれば、相手は斎藤君じゃなくなる。

最初抗った斎藤君も、交わりを深くすれば最後には腕を回してきた。





そして僕たちは、部屋を出る前に約束した。

………次の逢瀬の時を。


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