濃紅が望む限り、傍らに


…ずっと、俺はあんたが心配だった。

壊れていくその姿が、まるで新選組の…俺たちのこれからを暗示しているように思えて。

そして、人であることを自ら放棄する…俺とは正反対である筈なのに、どこか俺に似ている…そんなあんたを放って置けなくて。

そうして口に出してしまえば、あんたは薄く笑ってこう言った。

『…だったら、永遠に私のものでいて下さい』



その日から俺は、あんたの下僕になった。





「…ぅっ、あっ…ぁ、っつぅ…!」
「えぇ、そうですね…。今の私にはもう、あなたとこうしている間だけしか熱を感じられない…」

剣を操る腕を喪って自棄になったようにあの薬を求めた結果、遂に羅刹となってはや数ヶ月。
そうなったのは救いを願ってのことだった筈なのに、俺を犯すその瞳には今も深い哀しみが宿っている気がしてならない。

浅葱を纏った奴らによる辻斬りの噂を聞いた後、問い詰めたその瞳が余りにも暗くて驚き、もう俺は堪えられなかった。
そうして望まれるままに開いた懐に今もずっと、闇を抱いてしまったこの人を受け入れている。



座っている山南さんの上に同じ体勢で腰を下ろし、立派に勃っていたそれを中に収める。

…最初にした時は、羅刹でもちゃんと勃つんだな…なんて思った程、それはしっかりと熱を持って俺を蹂躙したものだ。

挿入直後、身体全体が震えている俺に構うことなくバコバコとやりたい放題に貫いてきた山南さんを一度気をやってから静かに睨めば、相変わらず人を落ち着かせるような優しい声音で言葉を耳元に吹き込んでくる。
しかも後ろからべったりと甘えるように懐かれてしまえば、俺は何も言えずに黙って堪えるしかなかった。

「ぁ…う、ちょ、も…はや、く…」
「…達きたいですか?」
「しゃ、べ…ない、でっ、う…ご、てく…っ」

身を襲う激しい吐精感と必死に闘う俺のことなど露知らず、俺を抱きながら至福の溜め息を洩らす相手に無性に苛立ちながら、何とか動いて貰おうと必死になって腕に縋りつく。
しかし一向に聞く耳を持たない様子のその人にいい加減痺れを切らして、仕方なく自ら動こうかと緩く腰を揺らし始めた直後。

「…っ、う…ぐ、あっ…!」
「…!?な、さ…山南さん!?どうしたっ!?」
「す、みませ…」

肩口で苦しそうに息を詰める音が聞こえ、次いで荒くなる呼吸音と言葉にならない叫びを耳にしてその異変に気づく。
顔が見えないことが、いつも以上に不安を煽った。

「…発作か?だったら…」

ふと視界に映った白によって山南さんの状態が自ずとわかり、即興の解決策を提案しようとする。

…この人を、このままにしておく訳にはいかなかったから。

しかし、それを口にする前に山南さんに遮られてしまった。

「い、いえ…。すぐ…戻ります、から…」

「…いや、だけどな」
「私は、あなたのこの…綺麗な肌に、傷を付けたくないんです…」
「山南さん…」

俺には、羅刹を襲う発作の苦しさがわからない。
しかし、まだ俺の中にいるそれが萎えていく感覚と、俺にしがみつくように前に回された腕の力が増したことから辛さが少しわかった。

…いくらそれが山南さんの望みであろうとも、俺はこの人の為だったら出来ることをする。
もしそれが出来ないのなら、今こんな風に身体を繋げていたりしないから。

「…悪ぃ、今回ばっかりはあんたの言うこと聞けねぇわ」
「…っ、トシ…!」

目に入った小太刀を握り、ちょうど山南さんの目線になるような場所…首筋から肩にかけてのところに、浅く一本の線を作る。
小さな痛みが走るが、これで山南さんを一時でも助けられると思えば、こんなこと大した問題じゃなかった。

「…いいんですか…?今口にしてしまったら…きっとこれからも欲しくなって求めてしまう」
「…だったらそのたびに呼んでくれよ。苦しむなら…俺の見えるところで苦しんでくれ」
「…全く、…あなたは優し過ぎる…」

昔、騒ぐ平助たちや悪戯ばっかしやがる総司を怒鳴っていた俺を、近藤さんと一緒に苦笑しながら見守ってくれたあの時のように、その言葉は包み込んでくれるように静かに胸に響いた。
人間としての理性か羅刹としての本能かで常に苦悩しているその姿を見ていた者として、俺はそんな山南さんを再び感じることが出来て嬉しく思い、安堵の吐息を洩らす。

…その直後、生温かい感触が傷を塞いだ。





「…もう、大丈夫です…。ありがとう、トシ」

体内を流れる血潮を吸われるという滅多に出来ない経験に一人で揺らいでいた俺は、山南さんの声で現実に戻る。
視界に入ってきた髪は元に戻っていて、その言葉が偽りではないことを教えてくれた。

しかし、良かった…と安堵したのも束の間。

戻ったのはそれだけじゃなかった。

「…それは…俺も嬉しいんだが…。…まだ、続き…が」
「…ふふ、そうでしたね。余りにもトシの血が美味しくて、さっきより元気になってしまいました」

軽く笑って返すその神経は尊敬に値するが、俺としては余り嬉しくない。
嫌だなんて思っている訳じゃもちろんないが、ついさっきまで苦しんでいたこの人に血を与えたその後で、また直ぐその気になれる程の切り替えの良さは生憎持ち合わせていなかった。

「…では、続けましょうか」
「…え!?や、ちょ、まっ…んぁっ!?」

制止の声も虚しく、再びゆっくりと腰を回されて思考が置いていかれる。
素直な身体だけが山南さんを追い、しつこいくらい露を飛ばした。

「…ずっと、傍にいて下さい。トシ」
「…ん、ああぁぁっ!!」

二人きりの時にしか使わない昔からの呼び名を心地良く聴きながら、俺は応えるように山南さんを締め付けて果てた。





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