欲するものは


…最近、思うことがある。



負傷し、新選組のお荷物となった自分が嫌で、変若水を飲んで羅刹となった。

毎晩、血を欲する衝動に駆られて、隊務と称して町を徘徊する。


そして他者の血を口にする時。
…本当に欲しいものはこんなものではないのだと。

そんな時に決まって思い浮かべるのは、新選組副長…土方歳三。

そして、私は気がついたのだ。

私が欲する、本当のものは……土方君の…血なのだと。





…今日の彼の運は、最悪なのかもしれない。

今目の前で、これからの新選組のことを真剣に話す、役者のような顔をぼんやりと眺めながら、私の脳裏には彼に流れる熱い血潮のことしかなかった。

「…さん、山南さん?」

そんな私を心配してか、彼の顔は少し不安そうだ。

「…大丈夫ですよ。…ただちょっと、考え事をしていただけです」
「…そうか。ならいいんだが。…それで、何を考えてたんだ、良かったら聞かせてくれないか」

…あぁ、君はなんてお人好しなんだ。

…だからこんな私に、こんなことを言わせてしまう。

「…どうやって、君の血を手に入れようか、ですよ」

土方君の顔に、驚愕の色が浮かんだ。

その表情を見て、私の心は満たされる。

…我ながら、なんて歪んでいるのか。

きっと、変若水で変わったのは身体だけじゃない。
…心も変わってしまったのだろう。

「…すまない、土方君。今夜、君の血を私は手に入れるよ。…絶対に」

そう言って、私は彼を押し倒し、その白い首筋に牙を当てた。


口を満たす禁断の果実。

その味は、最高の美食だった。



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