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「うぅ…」
「土方さん…?」
寝起き特有の微睡みの中で、微かによく知った声が耳を掠める。
頭が、異様に痛い。
確か、以前にもこんなことが…。
「おはようございます、土方さん?」
「……総司」
重い瞼を必死に上げて、視界に映った存在を認める。
…何で総司がここに?
まず思ったのはそれだった。
まぁ、俺たちはそういう仲なのだからそれはいい。
しかし問題は、互いに一糸纏わぬ姿で一つの布団を共有し、明らかに昨夜何をしていたのか丸わかりなはずなのに、そのこと…むしろ、昨日一切の出来事が全く思い出せないということ。
そう。
これも、以前あったことだ。
確かあの日も、一日皆が変だった。
態度も、言動も、人を見る目も。
不愉快で睨みつけたり怒鳴ったりして、安心したように息を吐かれるのはあの時が初めてだった。
……嫌な予感がする。
いつものように甘えてくる総司を無視してさっさと身なりを整えた俺は、素早く部屋を出た。
……やっぱり。
道場に顔を出すなり、幹部を含む全ての隊士が俺の顔を凝視する。
怯えているならいい。
しかしコイツらのそれは、明らかにどう接したらいいのか、という目。
……どうしたらいいのかわかんねぇのは俺だ!
と叫びたいが、下手に発狂すれば現状がさらに悪化するのは目に見えている。
道場の入り口で頭を抱えて固まっていると、稽古をしていた新八と左之助が恐る恐る寄ってきた
「…土方さん?えーっと、今日は…」
「おい新八、そんなんじゃわかんねぇだろ。な、土方さん。訊きたいんだが……。総司の良いところは?」
「はぁ?ねぇよ、そんなもん。まぁ、百歩譲ってあるとしたら…」
「「あるとしたら?」」
なんでんなことを訊かれなきゃならないのかわからないし、本当なら素直に答えてやる義理もないのだが、二人の顔があまりにも真剣過ぎたから頑張って答える。
「…………剣の腕?」
「他には!?」
「ねぇよ!というか、あいつは悪いとこばっかじゃねぇか!稽古や隊務はサボリまくるし、暇さえありゃあガキと遊ぶし、人の大事なもん勝手に持ち出すし、人の仕事邪魔するし、口は悪いし…」
「土方さん!土方さんなんだな!戻ってきてくれたんだな!俺は、普段の土方さんがいいんだ!良かった〜、戻ってきてくれて!」
「おい、新八!抱きつくな、暑苦しい!それに…気色悪いんだよ!」
引き剥がそうとしてもくっついてくる新八と、あからさまに安堵している左之助に、俺はまた訳がわからないまま頭を悩ます羽目になったのだった。
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