(うぅ…、集中出来ない)



自宅の勉強部屋でソワソワと視線とシャーペンを動かす総司は、先程から全く問題文が頭に入らず困っていた。


それもその筈、すぐ隣には長年密かに想いを寄せている相手が座っていて。


問題集にペンを走らせて解説する時等は、吐息まで意識してしまって眼が回りそうだ。



(あぁあ…!もうダメ!)



総司は眉を寄せて頬を染め、半泣きで必死に教科書に視線を戻した。



………ー……ー……ー……



事の発端は、前回の定期試験終了後に遡る。


総司の姉のミツが、成績とやる気にムラのある弟をどうにか出来ないかと頭を悩ませていた時。


偶然買い物帰りに幼なじみの土方と、道端で再会した。



土方は地元の大企業に勤める、いわばエリートだ。
勿論、名を挙げれば誰もが知る有名大学を卒業している。

休みの日で都合の良い時で構わないから、総司の勉強を見てやってくれ。

ミツにそう頼み込まれて、少し困った顔をしつつも土方は承諾した。



「……事情は分かった。総司とは随分会ってねぇからな…、俺も気になってはいたんだが…。」


「……本当、悪いわね。こんな事頼める人が、なかなかいなくて…。」


「……ま、やるだけやってみるか。だが…、あまり期待はしないでくれよ?」


「承諾してくれるだけで、十分有難いわ!」



そんなこんなで、総司の家庭教師として土方が時々勉強を見る事が決まった。



それを聞いた総司がポカンと呆けた後、耳まで真っ赤になり自室に駆け込んだのは、ここだけの話である。



そして迎えた、初日。



「……今日から不定期ではあるが、ミツさんに頼まれて俺が勉強を見る。ま、宜しくな。」


「………は、はい…」



久し振りに会った土方は、最後に見た大学生の時から更に容姿に磨きが掛かっていた。



切れ長の紫電の瞳。

柔らかそうな黒髪。

細く長い指先。


そして、低く通る声。



机の上に用意した教科書をパラパラ捲り、指導法を考えている土方の様子に、総司は釘付けになった。







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