「副長、ただいま戻りました」


巡察から帰り、何事もなかった旨を報告するため副長室へと赴く。


「あぁ斎藤、入っていいぞ」

「失礼します」


襖を開け、中に入ったところで俺は固まった。


「ふ、副長………それは…」

「ん?あぁ……………なんか、帰ってきた途端にこうなって、そのまま寝ちまった」


副長の腰に腕を回し、胡座をかく足に頭を乗せて眠る総司。

仕事が出来ないから離れろと叱ったらしいのだが、まるで子供のように聞き分けがなく、強引にくっついたまま寝入ってしまったのだという。

あの後すぐに一番組とは別れたから、総司がいつ帰ったのかは知らない。

だが、脳裏に早々に巡察を切り上げて帰り、副長に無理やり抱き付いて駄々をこねる総司の様子が浮かんできて、俺は憐れみの目を副長に向けた。

副長は辛うじて文机に向かい書類をしたためているが、非常にやりにくそうだ。

しかし、本気になれば引き剥がすことも、叩き起こすこともできるはず。

それを敢えてしないのだから、副長もまんざらではないということなのだろう。


「はは……俺も大概に甘いよな。こんな姿、平隊士…いや、本当は幹部にだって見せたくねぇ」


言いながら、ばつが悪そうに頭をかく副長に、何と切り返せばいいか分からない。

この二人、とにかく片想い期間が長く、左之に言わせれば「色恋沙汰には疎い斎藤ですら焦れちまう奴ら」らしいから、お互いに好きあって、幸せならそれでいいような気もしてくる。

それにこうして副長に甘えていてくれれば、あの些か気味の悪い総司を見なくて済むと思うと、忙しい副長には申し訳ないが、ずっと甘えていてほしいと思ってしまうのもまた事実だった。


「副長、俺は別に……」

「んぅ……うるさい、な、……」


まずい。

総司が起きてしまった。

甘えたような声を出して、総司が副長の腹部に顔を埋め、ぐりぐりと擦りつける。

俺がいる手前、これ以上放っては置けないと思われたのか、副長が総司の肩を揺さぶって「いい加減に起きろ」とおっしゃった。


「んー、……土方さぁん…」

「総司、ほら、仕事ができねぇんだよ」

「やだぁ…」


茶色い頭がもぞもぞと動く。

あ……緑色の目がこちらを見ている。

前髪から覗くつり上がった目が、若干怖い。


「一君邪魔しないで」

「う………」

「こら、しゃんとしろ!」


副長が無理やり総司の肩を掴む。

すると渋々起き上がることに決めたのか、むくっと頭を起こした総司が、ごんっ、と後頭部を文机にぶつけた。


「あ…………」

「いたっ……」

「総司、大丈夫か!?」

「………うわぁぁん!痛いー!痛いー!」

「うっ…お前はまた……ピーピー騒ぐんじゃねぇって」


明らかにわざとだが、再びギュッと副長に抱きついてしまった総司に、ついつい呆れた視線を向けてしまう。

普段どんなに刀傷を拵えようとも泣き言一つ言わないくせに、と心の中で思う。

あんたはどうしたいのだ。

副長によしよしと撫でてもらいたいのか?

痛いの痛いの飛んでけーっとやってもらいたいのか?


「総司、わきまえねぇか!斎藤が報告しに来てるんだぞ?邪魔するんじゃねぇ!」

「ぶーぶー!一君が邪魔ぁ!」

「総、司………」


これにはカチンときた。


「総司!邪魔なのはあんただ!これでも読んで大人しくしていろ!」


俺は咄嗟に、文机の隅にあったものを総司に押し付けた。


「…………大人しくする」


総司はいそいそと部屋の隅に移動して、小さく座ってそれを読み始める。


「さ、斎藤………」


この場合、一番の被害者は副長だろう。

しかしそんな風に、裏切ったな、という目で俺を見ないでほしい。


「副長がお困りのご様子だったので、強硬手段を取らせていただきました。あの状況ではやむを得なかったと思いますが」

「だ、だからってな……!選ぶに事欠いて句集はねぇだろう………」

「一君、土方さんのこと虐めちゃ駄目だよ」

「総司!」

「土方さんを虐めていいのも僕だけだからね」


総司の発言を聞いて、これはもう末期だと俺は悟った。

以前のように一日中言い合いされるのと、今のように一日中総司にデレデレされるのと、一体どちらがましなのか。

俺にはもう分からない。





その夜。

厠に立って部屋へ戻ろうとした折に、副長室に群がる長身二人と、数人の平隊士を目撃した。

気配を消して近づき、何をしているのか探ってみると。


「ん……土方さん…もっとちゅーしてください」

「ちゅーってお前……」


これは…確実に夜伽だ。

昨日もしていたはずなのに、また今日もするのか。

随分と愛し合っているらしい。

人知れず溜め息が出た。

それにしても、こんなものを見せ物にされては副長の面目がなくなる。

俺は先頭を切って覗き見している左之と新八に制裁を加えてやるため、隊士たちをかきわけて、二人の後ろに立った。

二人とも、朝餉の時はあんなに気味悪がっていたというのに、無粋なことだ。

拳骨をお見舞いしようとした瞬間、再び中から声が聞こえてきた。


「…土方さん、早く脱いでくださいよ。僕だけなんて、恥ずかしいです」

「なら、お前が脱がせてくれりゃあいいだろ」

「んもー、仕方ないなぁ…………」

「………」

「………土方さん………好き」

「…ん、あっ!………って総司!いきなりそんなことすんなよ!変な声出ちまっただろうが!」

「あはは、土方さんが照れてるーかぁわいい!」

「ふざけんな!あんまり調子に乗ってる奴はこうしてやる!」

「ひゃ!やぁだっ!土方さん!」

「俺を怒らせた罰だ!」

「やーん!けだものー!」

(こうしてやるとは、一体何をなさったのだろう……)

「斎藤、鼻血出てるぞ」


いつの間にか、左之と新八がこちらを向いていた。

ミイラ取りがミイラになった瞬間だった。


翌朝、すっきりした顔の副長に、俺たち三人はこてんぱんに叱られた。





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