見えない情念

※藍緋様のみお持ち帰り可。





土方さんは、わかってない。

如何に自分が、周りに影響を与えているかってことを。

役者みたいなその容姿も、ちょっと恐いけど男らしくて繊細で優しいあの性格も。

あの人の『本当』に触れれば、誰だって惹き付けられてしまう。

土方さんは、自覚があるようで自覚がない。

だから僕は毎度、こんな風にやきもきする羽目になるんだ。





きっかけもいつも通りで、隊士募集で入ってきた数人の内の一人が、平助君よりも少し幼い顔で『土方副長』と辿々しく呼んだことからそれは始まった。

新八さんや左之さんが可愛いなんて言い出して照れて頬を赤らめるその様子から、あっという間に幹部から気に入られたその子の名は、田村銀之助と言う。

幼くてまだ戦うことが出来ないような子は、意志だけは尊重して入隊を認めていたけれど仕事は殆ど雑用ばかりだった。

その子ももちろんそんな役回りで、まあ正式な立場としては近藤さんの小姓。

別にそこまでだったら、僕も何かを思うこともなかった。

けれどある日、事件が起きた。





以前から隊内では、所謂衆道が流行っていた。

幹部はともかく、平の隊士たちは給金を貰えても大した金額じゃないから、外で遊びまくることは出来ない。

だから、近場で手っ取り早く…なんて考える単純な奴が何人かいた。

もしかしたら、そんな中でも僕たちみたいに本当に想い合ってる人たちもいたかもしれないけど、殆どはそうじゃない。

そういう奴らは、用を足すなら出来るだけ弱そうで顔とかも可愛い子を選ぶ。

田村君は、運が悪かったのかもしれない。

彼は、そんな下衆な奴らに目をつけられた。

嫌がる彼を力で捩じ伏せ、彼から男としての矜持を奪おうとした。

それを未遂に止めたのが、土方さんだった。

偶々だったのかはわからないけれど、切腹まではさせなくても散々の説教と謹慎と他にも色々罰を与えたみたいだった。

土方さんは哀れに思ったのか、田村君を局長附きという肩書きを差し置いて、その日から暫く傍に置いてよく目をかけてやっている。

助けられた彼からしてみれば、土方さんは自分にとって恩人だったろうし、どんな理由があっても重用してくれることに奪われた矜持や存在意義を見出したとしてもおかしくない。

土方さんがかけてあげた温情が、彼の中にある土方さんへの心に変化を与えた。





「ねぇ、土方さん。いつまであの子を傍に置く気なんですか」

「…あの子?」

「田村君のことですよ!」

「…あぁ…」

多分土方さんにとっては、あの子を助けたことも傍に置いていることも他意はない。

ただいつもの、お節介で世話焼きで…優しい気持ちがそうさせていることくらいは僕にだってわかってる。

けれどそうやって、誰にでも構わず優しさを振り撒くのには少なからず苛立つこともある。

常が恐い分、たまに見せるその優しさに勘違いしてしまう人だって沢山いるのに。

それに恋仲である以上、僕以外に愛想を振るのも頂けなかった。

「土方さん、もう充分なんじゃないですか?」

「まぁ、そうだな…」

何て口では言いつつも、その後も彼を使うのを止めなかった。

それから暫くして、僕は自分があの有名な死病に侵されていることを知る。

寝込むことが多くなって仕事もろくに出来なくなった僕と、副長として多忙な日々を送る土方さん。

そして、そんな土方さんに附いて傍で世話をする田村君。

必然的に僕たちの時間はずれていって、気づいた時には逢えない日々が何日も続いていた。

「もう、無理かな…」

そう思うことだって当然ある訳で、一度考えたらどうしても駄目だと思えてきてしまう。

僕には病があるし、これから先の未来はない。

だったら、未来があって若くて初々しい田村君を選んだ方が土方さんにとってもきっといいだろう。

何より、剣を握れないどころか自分の面倒すら見れない僕は、土方さんや近藤さんの世話くらいは出来る田村君には勝てない…。

その事実が、どうしても僕を苦しめた。





夕暮れ時の茜色が差し込む室内で、実際に口に出して言ってみた。

当然言われた方は、何を唐突にと目を見開いている。

「突然じゃないんですよ…。僕は、前から考えてました」

「何でだよ。病のこと気にしてんなら…」

「それだけじゃないんです…。土方さんにとって、僕って何ですか?」

久々に僕の目に映るその姿は、相変わらず綺麗であり凛々しい。

でも前に見た時よりも少し痩せたような気がする。

そうやって、段々僕の知らない人になっていってしまう。

「一体どうしたんだ…?お前らしくもない」

「僕らしいって、何ですか?」

ちゃんと答えをくれない土方さんに、投げやりに言い放つ。

言われた方は、はたと気づいたかのように何度か瞬きをした後。

「まさかお前…。あぁ、そういうことか…」

ふっと笑うその顔が、やけに格好よくて惚れ直しそうになるのに慌てて目を逸らす。

「ヤキモチ焼きは、相変わらずだな…」

僕が散々持て余していた気持ちは、布団の上で重ねられた手のひらから伝わるその温度で、あっという間に霧散していく。

やっぱり僕は、土方さんと離れることが出来ないみたいだ。





それからすぐ、土方さんは田村君を近藤さんの専属に戻してしまった。

お前の勘違いだ、なんて相変わらず口にしていたけれど、それでも僕の為に行動を起こしてくれたことが嬉しかった。

「ほんと、土方さんは仕事がお早い」

動くのが辛くなった僕の為に、合間を縫って顔を見せに来てくれる土方さんは、何言ってやがると笑う。

「これからも、俺の傍から離れるなよ」

「もちろん、あの世まで追いかけてやりますよ。覚悟していて下さいね」

叶わないかもしれない軽口を溢しながら、僕も笑った。



―――

シリアスっていう部分は、田村君の入隊時期を考えればすぐに思いついたのに、甘くなるところが難しかった!

纏まらない文で申し訳ないです…!

ちなみに、田村君と鉄ちゃんで悩んだ!

とにもかくにも、リクありがとうございました!

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