大きなお世話

最近、斎藤がしつこい。

こんな言い方をして、まさに恩を徒で返すの典型ではあるのだが。

ことの始まりは、剣の訓練をつけてくれるという斎藤の有り難迷惑な提案だった。

何度断っても俺の部屋にやってきては強引に連れだそうとするその圧力に負けたある日から、何故か斎藤は訓練以外の殆どの時間を俺に割き始めたのだ。

ある時は、起床の時。

ある時は、食事の時。

ある時は、芹沢さんのお遣いの時。

ある時は、風呂の時。

そしてある時は、これから寝ようって時に……。



「…って、何で俺の布団で寝てるんだよっ!?」

「…何で、だと?こうして俺が四六時中お前の傍にいれば、お前の健康管理も一目瞭然だ。刀には、お前の心身状態も影響するのだからな。わかったら、さぁ…早く寝るぞ」

「…はぁ…。って、わかるかっ!!」

こんな風に、全く持って意味の分からない理由を理路整然と述べた上に、その理屈を平然と俺に押し付けるのは最早日常茶飯事。

喚く俺のことなどまるで目に見えないかのように、今も布団を開けて自らの脇をぽんぽんと叩く素振りを見せている。

曰わく、ここに入れ、と言いたいのだろうが。

「…あのなぁ。そんな四六時中一緒にいなくたって俺ももう覚悟を決めたし、そんな簡単に逃げないよ。健康管理だってちゃんと自分で出来るって」

「…ならば、他のことに現を抜かさぬように見張りを」

「いや、少しくらい抜かしたっていいだろ!?」

平助や原田のように島原通いを日課にしたり、沖田のように土方さんに悪戯したりする訳でもない。

一体俺の何がそんなに気にくわないのか、やたらと真剣な斎藤の眼差しに中られて知らず溜め息が零れた。

ここまで来ると、流石の俺もまさか嫌われてるのかと考えなくもない。

しかし本気で嫌いな相手が何をしていようとも、なるべく関わらないようにしたくなるはずだ…少なくとも俺は。

そう考えると、嫌われている訳ではないのかもしれない。

じゃあ一体…?なんて考えては堂々巡りがここ最近の俺だった。

「…なぁ、斎藤」

「何だ」

「…お前、どういうつもりなんだ…?」

「…どういう、とは?」

訊いてんのはこっちなのに、まさか質問返しで来るとは思わず。

こいつ実は無自覚なのか…と思い当たって、こいつなら有り得そうだと頭を抱えた。

「どうした?頭でも痛いのか?」

俺の悩みの元凶は、何も知らない風を見せつつ本気で心配そうに傍に近づいてくる。

斎藤の長くて男にしては綺麗な指が、自分の頭に触れたのを阿呆みたいにただ見つめながら、ますます読めなくなった相手の心理に困惑した。

ただ、撫でられる感触はどこか懐かしいような気がして、くすぐったいどころかちょっと気持ち良かったりして、そんな自分にも少し困る。

「頭は…痛くない」

「そうか…?なら良いのだが」

離れてしまう指先に後ろ髪引かれているなんて、絶対に認めたくない。

もやもやした自分でもよくわからない感情にとりあえず蓋をして、それよりも何にも変化のない現実に嘆息した。

「とにかく、斎藤はちゃんと自分の部屋で寝ろよ。何かあった時にお前を捜しに他のやつが来るかもしれないじゃないか」

「…確かに。では、俺の部屋で一緒に…」

「行かないからな」

一体どうやったら、俺と別に寝るという選択肢に行き着いてくれるのか。

大体何でそういう思考に達するのかも理解できない。

「何故、俺を避ける…?」

溜息していると、今度は返ってきた言葉がよくわからなくて頭を上げた。

見れば何処か不満そうな、傷ついたかのような目とぶつかる。

「いやいやいや。俺は別に避けてねぇだろ?むしろよく付き合ってるというか…」

「俺のことは嫌いか」

「…え!?あ、いや…嫌いじゃねぇけど…」

どうしてこんな話になっているんだろうか、皆目見当もつかないままとりあえず正直に答えておく。

斎藤はしつこいしお節介だし厳しいしよくわからない奴だが、悪い人間でないことはわかる。

好きか嫌いかで測るのは難しい話だが、どちらしか選べないなら嫌いじゃないとしか言いようがない…そんな感じだ。

「…そうか。ならば良い」

「あ、そう…」

何が良かったのか、乏しい表情からは推察も出来やしない。

ただ納得はして貰えたのか、立ち上がって真っ直ぐに襖の方に歩いてくれたことには凄くホッとした。

「仕方がないから今日はお前の我儘も聞くが、明日からはちゃんと傍にいるのだぞ」

「…は?」

「朝の稽古前にまた来る」

そう言って閉められた襖をそれこそ穴が空くかもしれないほど見つめながら、自分の立場を考えてみる。

果たして、今の俺の主張の何処が我儘だというのか。

しかも当たり前のように傍にいろと言う。

「…女じゃあるまいし…」

あれじゃまるで口説き文句だ、と考えて身体が震えた。

怖い考えは止めよう。

思いついた一つの可能性にきっちりと蓋をして、床に入る。

「明日は早く起きよう…」

何となく、寝姿を見られてはまずい気がした。



―――

斎藤君の愛の形を書きたかっただけ。

…ストーカー…?

オチナシはリカイシテマス。


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