喫茶・誠屋にてN

目を覚まして一番最初に視界に入った、お日様に照らされて白く輝く綺麗な土方さんの顔。

何度見ても、やっぱり美人だ。

思わず手を伸ばそうとすると、それまでびくともしなかったのにパッと目を開けて僕を見た。

「総司!」

「あー…残念。この機会に、触りまくってやろうと思ってたのに」

「何を馬鹿なこと言ってやがる。…山南さん!」

呆れたように言われてしまったが、それでもそれは僕の本心だ。

部屋の入り口に向けて声を上げ出てきた名前に、僕と土方さん以外に人がいることを察してちょっと落ち込む。

部屋の前で待ち続けて挙げ句にぶっ倒れて、やっと入ることが出来たこの場所にいとも簡単に入った人がいる。

何もない…むしろ倒れた僕の為に呼ばれて来てくれたであろうことは容易に想像出来たが、やっぱり何であれムカつく。

とは言え、考えもなしに山南さんに喧嘩を吹っ掛けるほど僕は馬鹿じゃなかったから、その時点ではまだ仕方がないからと受け入れる体勢ではあった。

けれどそれが崩壊したのは、山南さんの後に姿を現した左之さんを目にした瞬間だった。

「…むぅ」

「総司、目ぇ覚めたのか。…ったく、心配させやがって」

「…そうですね。熱は…だいぶ下がったようです」

「そうか」

本当に心配なんかしてたのかなんて邪推する意味もなく、この人なら嘘は言わないとわかってしまうから質が悪い。

僕とは正反対の、僕のライバル。

そう認めてやることすら、許せない。

「…僕、もう大丈夫なんで左之さんは帰っていいですよ」

「はぁ…」

「あのな、コイツは俺が呼んだんだよ。何かの役に立つかと思って」

「傷つく言い方だな」

「いいじゃねぇか、実際役に立っただろ。買い出しとか」

軽い調子で言葉を紡ぎ合う様子は、僕の目には仲睦まじい様にも見える。

二人に置いていかれたような気分になって、それが更に嫉妬心を沸き上がらせた。

「………」

「…二人とも。一応沖田君は病人なんですから、騒ぐのも程々にして下さい」

「あ、あぁ…そうだな」

この場に山南さんもいてくれたことは、正直良かったと思った。

とは言えそれ以上に、左之さんと同じく『邪魔者』ではあるのだけど。

指摘されたことで大人しくなった二人は、そのまま部屋を出ていこうとする。

それを見て慌てた。

「土方さん!」

「ん?」

「…僕、土方さんが作ったお粥が食べたいなぁ」

「ったく、仕方がねぇ奴だな…。ちょっと待ってろ」

本当はお腹なんか空いてないし食欲も無いけど、こうやって甘えた声でお願いすれば生来が面倒見のいい土方さんは動いてくれる。

その優しさが心地好くて、何時までも浸っていたくなる。

そして、独り占めしたくなる。

人間の欲は果てしないものだと、僕は最近知った。

「…絶対、左之さんなんかに渡さないんだから…」

例えあの人のように、土方さんと対等な立場には立てなかったとしても、僕は傍にいて全てを許される位置に就いてみせる。

その為だったら、風邪でも熱でも何でも、目一杯利用してやる…それくらいの意気で一人気合いを入れ直した。





入れ直した…ものの。

それから程なくして現れた土方さんお手製の玉子粥を食べ、そして僕の更なるお願いにより土方さんの見守る中で一寝入りに入った僕が次に目を覚ました時、一段落したとばかり思っていた風邪の猛威が再発した。

「…っ、うぅ…。…ごほっ」

下がったばかりの熱がまた上がり、頭痛、悪寒、目眩、咳と喉の傷みの五拍子がしっかり揃って襲ってきた。

これじゃあいくら土方さんと一緒にいられても、ちっとも楽しくない。

やっぱり風邪なんてなるんじゃないもんだ…と、さっきとは意見をころりと変えて唸る。

「土方さぁん…土方さぁ〜ん」

「あー、はいはい。俺はここだ」

譫言のように名を繰り返し呼べば、如何にも仕方なしに来てやったという感じで僕の近くにやって来る。

具合が悪過ぎるのは計算外だったけど、それを盾にこの際だから甘えに甘えてやる。

その辺の意気込みは変えないまま、邪魔者もいなくなったし本当ならこのまま襲い掛かりたいのにと心底残念に思った。

「…傍にいて下さいよ…。ずっと…」

「…あのなぁ。それは…」

「良いじゃないですか…。どうして僕じゃ駄目なんですか」

特別好きな相手もいないのに、少しくらい絆されてくれたって良いのに。

尤も好きな相手がいたところで、そんなこと気にせずに無理にでもこっちを向かせるつもりだったけど。

「お前だからとか関係なく、今はそういう相手を作るつもりがねぇんだよ」

「…何でですか」

「何でって…何でもだよ」

「それじゃわかりません」

曖昧な答えで線引きされて、僕との間に距離を作りたがるその態度が苛立ちを生む。

誰のものにもならないなんて、そんなことは許せないと思ってしまうのは、僕がまだ子供だからだろうか。

「僕が幸せにしますから。だから、僕にしませんか」

熱に浮かされながらも必死に口説く、僕の身にもなって欲しい。

望んだ答えなんてきっと返ってはこないだろうなと考えながら、とりあえず逃げられないように裾を握り締めて再度の眠りに就いた。



―――

絆されるのも時間の問題。


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