喫茶・誠屋にてM

どうしよう、どうしたら良いんだ。

これは俺が悪いのか…?



「…っ」

携帯で何とか助けを求めた相手がまさか振った相手であることは、今のこの現状ではもう気にしてなんていられなかった。

今のこの、俺んちの玄関で人が倒れている…現状では。

何故こんなことに…と混乱した頭で考えればやはりこの男…沖田総司が、俺の部屋の前で出てくるまで待つなんて阿呆なことを抜かし勝手に居座ったのが全ての原因であり、決して俺に非があった訳ではない。

…ないのだが、まさか本当にほぼ丸一日そこで過ごすとは思わず、扉の向こうにいるかもしれない奴のことをわざと意識から遠ざけて休日を過ごしたことで起きた結果でもある訳だし、しかもちょっと買い物でも…と扉を開けた瞬間に倒れ込んできたそいつが真っ白な顔して意識までも飛んでるなんて誰が思うのか。

焦りつつもとりあえずはと玄関まで入れたが、そこから先はまさにパニック状態で誰かに助けを求めようと電話した相手は医師である旧友ではなく、あろうことかつい最近自分が振った相手だった。

まぁ、頼りになる…という点では、他に誰も思い付かないのは少し冷静になった今でも同じなんだが。

冷静になったついでに山南さんにも電話を入れる。

そして仕方なく、総司の身体を担いでベッドまで運んだのだった。



はぁはぁ、と荒々しい息をしている顔は、今では白じゃなく真っ赤だった。

触れなくてもわかる、明らかに風邪を拗らせて熱を出している。

しかも、高熱。

とりあえずはと、氷水とタオルを用意してそれを額に乗せてやり、後は寒がらないようにと布団を厚手にして肩まで掛けてやった。

「…と言うか、何やってんだ俺は…」

追い回されて迫られてコクられて振ったのにまだ追い回してくるストーカーみたいな奴なのに、気がつけば何故かそいつの看病をしている。

まぁ顔見知りだしあのまま軒先に放っておいたら人としてどうなんだという話になるので、結局はこうなる運命だったのかもしれない。

「…はぁ」

堅く閉じた目蓋と、反対に呼吸をするために開かれた口許を眺めながら、いつもこうして大人しくしていてくれたら扱いやすくて楽なのに、なんて思ってしまう。

正直言って、総司のことは嫌いじゃない。

ただそれは、単に知り合いだとか弟分だとか…そういった類いの括りで、だ。

だから余計に、その関係を積極的に壊そうとする総司に苛立ちを覚えた。

悪戯したり嫌味を言ったりして、怒った俺がお前を追いかける日常以外はいらない。

俺を追いかけるお前なんて、嫌いだ。

なんて、普通に考えれば自分勝手過ぎると思われることを平気で考えている俺は、もしかしたら総司以上にオコサマなのかもしれない。

そんなことをぐるぐる考えて一人で悶々としている間に結構な時間を費やしたのか、呼び鈴が鳴ってドアを開ければ目の前に左之がいた。

「あ、左之」

「あ、じゃねぇよ!大丈夫なのかあんた!?何があった!」

「え、…あぁ」

何でこんなに慌ててんだこいつは、何て考えて直ぐに、さっき自分が掛けた電話を思い出す。

あの喋り方じゃ、誰だって心配になるかもしれない。

「わ、悪い…。ちょっと取り乱してな…」

「…何かされた、訳じゃあないのか…?」

「え?」

「あー、いや。何もないならいいんだけどよ」

「…総司がな」

「え!?」

「倒れてて、慌てた」

「………は?倒れた?」

来てもらったからには伝えなければと、有りのままを口にする。

始めの内はわからないとばかりの顔をしていた左之も、寝室に連れて行けば直ぐに状況を理解してくれたらしい。

「医者に…って言うか、山南さんに見せた方が良さそうだな…」

「あぁ、連絡は入れてある。直ぐに向かうと言ってくれてたが」

「…そうか。ならこのまま待つしかねぇよな」

やはりこういう時に直ぐにその結論に持っていけるところは、左之の良さだと思う。

若い割りには、仲間内では多分意外に冷静に物事を考えられる人間だ。

だからこそ、頼りになると言うか。

「ありがとな。お前のお陰でだいぶ落ち着いた」

「そうか?それなら良いんだけどよ…。…って言うかさ、あんたのそれ」

「…え?」

「あんたは気づいて無いんだろうけど、そうやって無意識にちらちら優しいとこ見せられると、みんな勘違いしちまうぜ。…俺とか総司みたいに」

左之の苦笑混じりの言葉の中に、決して聞き逃してはいけない単語があったような気がする。

勘違い…そして、総司。

「総司!?な、何言って…!」

「どうせ迫られでもしたんだろ。ついでに追いかけられて居座られて、暫くして見てみたらぶっ倒れてた」

「……よく、わかったな…」

まるで見ていたかのような物言いに、ぐうの音も出ない。

何を考えているのか相変わらず苦笑している左之は、それでもこっちに警戒心を持たせないから不思議だ。

「どれだけあんたを見てきたと思ってんだよ。大体同じような奴は嗅ぎ分けられるぜ。…まぁ、もう未練はありませんが」

最後のその言葉がどこまで本当なのかはわからなかったが、それでも一回り強くなったような相手を見ていて悪い気はしない。

良かった、と素直にそう思えた。



「あー、それよりな…ちょっと訊きたいことが」

「ん?」

安心したと心からそう思っていた矢先、左之は訊きにくそうに俺を見る。

何だと目で問えば、暫しの間の後。

「土方さんは、井吹とは…何もないよな?」

「…は?」

「いや、気にしてる奴がいてさ…」

何故俺と井吹が。

しかも気にしてる奴って誰だ。

訳がわからなくてまた混乱し始めた頃、丁度タイミングを見計らったかのように再び呼び鈴が来客を知らせた。

「山南さんか?出てくるよ」

そう言って玄関に向かう背中を呆然と眺めながら、変わらない…なんて無理なんだということを思い知る。

日々、どいつもこいつもそれぞれの時間を過ごしていて、それに伴って色々変化していくのは自然なこと。

井吹や斎藤に出逢ったり、左之や総司が告白してきたり。

「それでもやっぱり、このままが良かったよ…」

苦し紛れに出てきた呟きを聞いていたのは、今俺のベッドに寝込んでいる奴だけだった。



―――

ちょっと長くなりました。

切り時がわからない(泣)


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