喫茶・誠屋にてG
俺は今、壮絶に困った状況に置かれていた。
今から約一月ほど前、ずっと気の良い仲間だと思っていた奴から告白なるものをされた。
色気を歩きながら振り撒ける奴からのそれは、こっちが女ならこれ以上ないくらい嬉しい申し出だったのかもしれないが…生憎と俺は男だ。
こんな俺のどこがいいんだと考えながら、同時に俺の返答は決まっていた。
『悪いが、俺には好きな奴がいる』
今までそれで貫き通してきた。
じゃあ誰だと言われれば、長年親友やってる相手だと返してやる。
しかしそれは本当のことではない。
今の俺には、誰かいい相手を作るつもりがなかった。
近藤さんには悪いが、大体の奴はこれで納得してくれるから相変わらず使わせてもらっていた。
今回も、もちろんその手を使った。
彼奴が俺に対してそんな感情を抱いていたとは考えたこともなかったが、しかし『ずっと前から』と頭に付けられて驚かされた。
そして意外にも、彼奴は諦めが悪かった。
この間なんて近藤さんの店に寄ったら、新八とつるんで仲良く現れて場も弁えずに諦められないと宣いやがった。
何も知らない近藤さんも新八も首を傾げていたが、何とかバレずに彼奴を諭すことが出来た…筈だった。
事もあろうに、まさか一番疎そうなあのバイトに俺たちの会話の内容を察知されるに至り、慌てた俺は奴を引き摺る羽目に陥る。
店の外に出たところで、どこまで気づいてるのかを尋ねれば。
「…別に。ただ、原田さんがあんたに好意があって、あんたはそれを拒んでる。俺にはそう見えた」
と、殆ど違わずに状況を把握していやがった。
誰にも言うな、そう迫ってやれば、別段気にした様子もなく興味ないからと他言の意志がないことを伝えてくる。
あの小僧、要注意だと念頭に入れ、ある意味ではこれ以上ないくらい近藤さんの補佐に向いている奴なんじゃないかとも思った。
更に言えば、山南さんより扱いやすい。
奴の置かれた本当の状況を理解していない現状にはまだ問題はあったが、これはこれでという打算も浮かんだのは事実だ。
それよりも今、問題になっていたのは他にある。
本人の意思とは裏腹に人生のモテ期かとも感じられるほど、今の俺には至難続きだった。
第二の原田が、現れた。
奴も昔馴染みの奴で、近藤さんが可愛がっていた後輩だった縁で知り合った。
憎たらしいあの口と、猫みたいな気紛れが俺の平穏を奪っていく。
嫌われてるんだろうな、なんて思ったりしていたのがうって変わって、やけに真剣な顔して俺に迫ってきた。
「…好きです」
たったそれだけの、ひどくシンプルな告白。
何ふざけたこと言ってやがる、俺には近藤さんが…何て言う隙もなく、気がついた時にはあの腕に囚われて唇を塞がれていた。
沖田総司というその男は、そのままなし崩しに俺の貞操を奪おうとしてきた。
その件に関しては何とか力ずくで守り通したが、これは原田よりも質が悪いと思った。
「…何、しやがる」
やっとのことで言えたのはそんな言葉でしかなく、自分で自分が情けなかった。
更に言えば、奴はもっと黒い笑みを浮かべて俺を追い詰めてきた。
「貴方が皆に言ってる、近藤さんが好きだって話。嘘だって知ってますよ」
「な…!?」
「左之さんは騙せても、僕は騙されない」
―――悪魔。
まさにその言葉がぴったりだった。
堪えきれずにその場から逃げ出した俺を総司は追うこともしなかったが、家に着いた頃に丁度携帯が鳴った。
『僕は、必ず貴方を手に入れる。覚悟しておいて下さい』
メールに僅かそれだけを乗せたことが、余計に怖かった。
どうしたものかと考えてはみたものの、直ぐに妙案が思いつく筈もない。
誰かに協力を仰ごうにも、その相手に全部話さなければならないというリスクも背負わなければならない。
相談出来そうな面子は山南さん、近藤さん、左之…と来て、駄目だと頭を振る。
左之だけは駄目だ、絶対に。
山南さんも、得体が知れない部分が多すぎて抵抗がある。
近藤さんは、一番総司を可愛がっている人だし何となくしにくい。
そこまで考えてふと、あの小僧のことを思い出した。
彼奴は昔馴染みじゃない。
最近逢って、この頃になってやっとまともに話をするようになった。
第三者的な立場に、一番近い存在のように思える。
味方は、一人でもいた方がいいかもしれない。
相談だとか、細かい話はあまり期待出来そうにないが、それはまあ仕方がない。
とにかく今は、総司とは出来るだけ距離を置きたかった。
そんな風に考えている時点で、俺は既に捕らわれているのだと思いもせずに、気がつけば足は誠屋に向かっていた。
―――
総司、私にしてはちょっと怖目☆
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