フローライト―第二―

俺は今、人から相談されやすい自分の質を非常に疎ましく思っている。

「どうしたらいいと思う」

どうしたらって、こっちが訊きたいくらいだ。

「あいつと会話すんのもすっげぇ緊張する。こんなんじゃあ隊務に支障が出ちまう」

そんならさっさと告っちまえよ。

とは自分もそうだから流石に言えない。

「今まで女が好きだとばかり思ってたが、まさか俺にそんな趣味があったなんてな…自分でも驚いてるんだが」

そうだな俺も充分驚いてるよ、まさかあんたが男もイケるなんて。

「いやでも、あいつはきっとそうじゃねぇだろうしな…。…どうしよう」

俺ならあんたが言う前に告白してあっさり両想いだけどな、世の中ってのは上手くいかねぇもんだよな本当…。

「なぁ、聞いてんのか。左之」

「あー、はいはい聞いてるよ。それで、とりあえずあんたはどうしたいんだよ」

「どーするも何も…。…とりあえずは、話がしてぇ。駄話でも何でもいいんだが…」

俺とは駄話出来てそいつには出来ないなんて、あんたはどんだけ俺を傷つければ気が済むんだ。

そんな詰るような言葉ばかりが頭に浮かぶ癖に、好きな相手故に言えない。

これはもう、素直に諦めて相手の幸せを願って相談に乗るべきなんだろうか。

考えあぐねて溜め息が出る。

「駄話ね…。何かないのか、話のネタになるようなこと」

「…んなもん、隊務に関してくらいしか…」

隊務…つまり相手はこの組織にいる訳か。

思わぬ近場に恋敵がいるなんて、こりゃ名前もすんなり言える訳もないだろうな。

「好きなもん聞き出すんでも良いだろ。例えば、食いもんやどんなやつが好きになるかとか…」

「食いもんはともかく、好きになる相手なんか訊いて『気が利く女』なんて言われた日には、俺は脱走するな」

気が利くんならあんたは該当してるよ、って言ったら目を丸くして黙りこむ。

そういうところが可愛いんだよな…脱走なんか俺が許す訳がない。

「じゃあ食いもんでいいだろ。好きな食いもん」

「…食いもん、か。それくらいなら行けそうな気がする」

ありがとな左之、なんて嬉しそうに部屋を出ていく姿を見て俺も嬉しいと思っていたりして、そんな自分が笑えた。

土方さんの幸せは俺の幸せ。

やっぱり相談役は、降りられそうにはなかった。





それから日付が変わって、翌日。

「左之、左之!」

今までにこの人がこんな慌てた様子を見せたことがあっただろうかと思うほど、随分勢いよく現れた土方さんは俺にとってはどうでもいい情報を提供してくれた。

「あいつ、甘いもんが好きらしい。しかも結構な!」

「あぁ、そうかい」

それしか言いようがない。

これが土方さんの好みだってなら即頭の中に記録されるんだろうが、よりにもよって恋敵の情報なんて覚えたくもないし知りたくもない、即効で却下だ。

しかし俺がげんなりしているのも今の土方さんには通じないようで、知らぬ間に今度甘味処に誘えないかと算段を始めていた。

「普通に…出来るだけ普通に。そうしたら変な勘繰りはされねぇよな…」

甘いもんが好き、ってことは結構該当者がいるよな…総司、斎藤、近藤さん、平助も…入るかな。

そんなことをつらつら考えて、新八に行き着いた時点で頭を振る。

新八はあり得ない、と言うかだったらいくら殺しても許せそうにない。

「そんな誘いにくい相手なのか、そいつは」

「いや、なんつーか…どう誘ったらいいかわかんなくてな…」

「あんた、そういうのは玄人だろ。逢い引きに誘うのに男も女も関係ねぇだろうし」

逢い引きという言葉に頬を薄く染めるのを見てしまうと、土方さんには悪いが胸糞悪い。

散々やってきたことも出来ないくらい、この恋は本気なんだと改めて思い知らされているように感じる。

事実、土方さんは俺でも稀にしか見ない優しい笑みを浮かべて、『真面目だから色々考えちまう』と言った。

「困ったもんだ。この年になって今更本気なんてな…」

俺だって、こんな年であんたに本気だよ。

そう言えたらどんなに良いだろうか、しかし今の俺に玉砕がわかっていながら告げる勇気と気力はない。

「んなこと言うなよ…あんたはまだまだ若いし、美人だよ」

「…若いはともかく、美人ってなんだよ」

きっとこの気持ちを届けられるのは、土方さんの恋が実った時なんだろう。

その時俺は、笑って過去の出来事としてあんたに実は…なんて話をするんだ。

今一番可能性のありそうな未来を思って、らしくもなく涙が出そうになった。



―――

左之さんのらしくないっぷりが萌え。

あと左之左之言う土方さんが萌え!


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