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昔から、酔っぱらいの世話は嫌いだった。
友人である永倉新八という男がこれまた大の酒好きであり、酔う度に他人に迷惑をかけるヤツだというのが理由の一つ。
あとは、自分も酒好きの癖にすぐ酔って馬鹿をやるからってのもあった。
まぁそんな俺だったから、会社での呑み会なんてきっとろくでもないし行きたくねぇな、なんて考えていた訳だ。
それでも上司である近藤さんがどうしてもって言うし、ちょっとお近づきになりたい人も今回は珍しく行くって話だったから、とりあえず参加してみた。
そして今、俺はこの呑み会に参加出来たことに喜びを感じている。
「…左之ぉ。みんなどこ行ったんだぁ…?」
「みんな帰ったんだよ。後はあんたと俺だけ」
盛大に酔っぱらった土方さんを誰かが介抱しなきゃならないって話で、どうやら帰る方向が一緒らしく俺が抜擢された。
密かに憧れていた人と二人になれたことは普段なら素直に嬉しかったはずだが、生憎この人は下戸だったようで見事に出来上がってしまった。
正直、世話役なんて土方さんじゃなければ断固として拒否させて頂いたのだが、俺はそれよりも二人で話をする機会を選んだ。
「そうか…ヒック。じゃ、帰るか…」
ふらふら歩き出す後ろ姿を黙って見つめて一秒。
覚束ない足取りが小石に引っ掛かり倒れそうになったところを、慌てて支えに走る。
「本当にあんた、大丈夫かよ」
「だぁいじょぉぶだってんだよぉっ!あ、う…」
普段スーツをスマートに着こなしてバリバリ仕事をこなすこの人のこんな姿を見られるのは、ある意味稀少だ。
寄りかかってくる身体から、酒の匂いに混じって土方さんの香りを感じた。
(…やべぇ)
そんなつもりなんて更々ないし、俺は断固として女子が好きだ。
しかしこの人の色香は、それを超越してしまうほど妖艶だった。
「…送ってくよ」
「…ん…」
送り狼になる、そんな下衆な選択肢が頭を過る。
そういう悪い自分に首を振って、とにかくこの酔っぱらいを放っておく訳にもいかないと細い肩に腕を回した。
「土方さん…」
結局、引きずるように帰り道を歩いた結果完全に意識を飛ばした彼の人を背中に背負うことになり、しかも意識がないので家もわかるはずもなく、仕方なしに自分の家に連れていくことにした。
温かい吐息が首から耳にかけて掠め、さらには酒のせいで明らかに上がった体温が俺の理性を揺さぶってくる。
もういっそ頂く前提であれば、自分の家に連れ込むのも抵抗なんてなかったのに。
懐から鍵を出しながら、部屋に入ったらとにもかくにも早々にベッドに寝かして、一刻も早く傍を離れようと決める。
そうでなければマズイ、非常にマズイ。
余裕なく扉を開いて靴を脱ぎ捨て、土方さんの荷物も俺の荷物もその辺に投げる。
深夜を回った結構いい時間だから、下の階に気を使ってなるべく音を立てないように…なんていう配慮は頭からすっぽり抜け落ちていた。
ドタドタと早足で寝室に向かい、急いで背中の人をベッドに下ろした。
「…よし」
計画通りに後は退室し、朝までこの部屋には入らない。
そう心に固く誓って、名残惜しさには敢えて目を背けてベッドから離れようとした。
…したかったが、出来なかった。
「…のわっ」
引っ張られる感覚と共に、一度は離れた体温が身体を包む。
見れば、土方さんの腕が俺の腕に絡みついてしっかりがっちりと引き寄せられていた。
「…さの」
「…っ」
無防備な姿で寝言のように名を呟かれ、しかも火照ったように赤い頬といつも強気な瞳を隠す目蓋。
香り立つような土方さんの匂いが鼻を擽り、もはや視線はうっすらと開かれた薄目の唇に釘付け。
マズイ。
だが誘ってきたのはそっちだ。
でも…。
頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、それでも身体は本能に忠実だった。
「土方さん…」
腕を引っ張られたのと同じように、けれど今度は単に腕の力ではない別の力で引き寄せられるように近づく。
唇を重ねた瞬間には、もう既に頭の中は静かだった。
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