メーデー


仕事仕事で、日に日に目に見えてやつれていく想い人を目撃する度に、自分がいかに不甲斐ないかを思い知る。

もう既に、近藤さんと斎藤辺りは少しは休めという言葉くらいはかけているみたいだったが、あの人は聞く耳を持たない。

実はあの総司ですら、あまりの惨状にここ最近例の悪戯を控えていた。

土方さんはよく怒鳴ってばかりで厳しい自分はみんなに嫌われていると口にするし、陰でこんなにも気遣われているなんて知りもしないだろう。

いつも怒鳴られている平助と新八だって、土方さんに余計な面倒をかけないようにと島原も行かないし隊務もちゃんとこなしている。

しかし、会う度に酷い方に変わっていく姿に心を痛めながら、結局は大人しくしているだけで誰も何も出来ないでいた。

(やっぱり、ここは…)

俺が動くしかないだろう。

まだ片想いみたいな幼い状態ではあるが、それでも一応は恋仲であるのだから。





「土方さん、原田だ。入るぞ」

中からの返事など待たず、勝手知ったるなんとやらといった感じで障子を開けた。

とは言え、誰であろうと許可なく自らの領域を荒らされるのを嫌う少々潔癖気味な土方さんにとっては、やはり不愉快だったんだろう。

こちらを見る瞳の少し上、綺麗な顔にくっきりと浮かぶ眉間の皺が、何も言わなくてもその心情を表していた。

「声をかけるだけ、総司よりはマシだろ?それに…」

拙い言い訳を述べながら、そっと近づいて頬に手を伸ばす。

見た目通り絹のように柔らかくてすべすべしているそれは、やはり以前触れた時よりも痩けたように思えた。

「…やめろ」

「聞けねぇな」

「ぶっ飛ばすぞ」

「やれるもんならやってみろよ。今のあんたには無理だと思うけどな」

ツレナイ恋人は可愛くない言葉を紡ぎながらも、今の自分の状態に自覚症状だけはあるのかここまで言えば無言で睨むだけ。

そんな顔すら、今は何の迫力も持たない。

だから俺は悠々としたいようにさせてもらった。

「…なぁ、何であんたはいっつもそんななんだよ」

「何がだよ」

「言わなくたってわかるだろ。どうせもうみんなが言ってんだろうし」

「…知らねぇな」

目の下に隈なんか作っている癖に、あくまでもしらを切るつもりらしい。

嘘なんかこの新選組の中じゃ誰より得意なはずなのに、視線を反らして口を尖らす様は完全に子供の言い訳。

この人のこんな姿を見れるのは非常に稀で、俺にとっては何より幸せな一時ではあるがそれはそれ。

「そんな顔したって無駄だからな。この新選組は、あんた一人が少し変わっただけでもみんながガラッと変わっちまうんだよ。だからもっと自分を大切にしてくれ」

「そんなこと言ったってしょうがねぇだろう。こりゃ誰もやれねぇ仕事なんだから」

新選組副長ともなると流石に頑固でほとほと困る。

まぁこの人の場合、新選組だからだとか副長だからだとか関係ないんだろうが。

「嘘つけよ、俺達には無理でも山南さんなら出来るだろ」

「………それは」

「よし、じゃあ早速総長様にお願いしにいきますか」

「まっ、待て…!」

問答無用で卓上に広げてあった書類を集めて回収し、脇に抱えて立ち上がる。

部屋を出ようとしたところで慌てたような土方さんの、腰に縋りつくという妨害に遭った。

「おいおい、誘ってんのか?」

「はぁ!?これの何処が誘ってるってんだよ!いいからそれを返しやがれ!」

「まだ諦めねぇのかよ。本当に頑固だな…あんた」

諦めの悪さは戦場では一種の希望として仲間には好意的に映ることもあるかもしれないが、こういった場面では邪魔にしかならない。

今すぐ押し倒してその気にさせて、無理にでもこの書類とおさらばさせてやろうかと本気で考える。

それでも幾らかの理性が、着物から見える細くなった腕を見てとって己を制御していた。

こんな今にもぶっ倒れそうな恋人に、どんな理由があっても無体は出来ない。

どうするのが一番得策か悩みあぐねていたちょうどその時、副長室の前を何故かいい頃合いに山南さん本人が通った。

あまりにも偶然とは思えないちょうど良さに流石に首を捻りたかったが、しかしこの機を逃す訳にもいかない。

「あっ!山南さん!」

「あぁ、お二人とも。どうかしましたか、そんな面妖な体勢で」

さも自然を装って微笑む姿が相変わらずそら恐ろしいと俺は思ったのだが、土方さんの方は俺に縋る格好の今の状態を指摘されたのが恥ずかしかったのか急に大人しくなった。

居住まいを正してしまったことを残念に思いつつ、これ幸いに抱えていた書類を山南さんに渡す。

「明日までこの人を休ませたいんだ。だからこれをあんたに頼みたいんだが…」

「なるほど、わかりました。終わり次第土方君にお返しすればいいんですね?」

「あぁ、頼んだ」

いやに物分かりがいい上に驚くほどすんなりと話が進んだことに、やはり山南さんも全てを承知でここを通ったのだと確信する。

去っていく背中を見送って直ぐ、今度は不貞腐れたような背中を見つめた。

「…やっぱり、あんたはみんなに愛されてるよ」

嫉妬混じりの呟きになってしまうのは否めないものの、やはりそれよりも今はこの人の休養の方が先決な訳で。

「山南さんが来るまでここにいるから、ゆっくり休んでくれよ」

「お前がいると休めない」

「手は出さねぇって、今日は」



どうか、この不器用で頑固で可愛い恋人に…一時の安らぎを。



―――

愛されてるよー

個人的には山南さんが神

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