フローライト―終話―
「…土方さん、今…なんて?」
信じられない状況に、俺は自分が都合のいい夢を見ているんじゃないかと考えてしまう。
頭を殴られた衝撃で、一時的に錯乱でも起こしてるんじゃないかと。
「…だからっ、お前が好きなんだよ!…って、何してんだお前は」
「え?いやだってさ…信じられなくて」
夢かどうか確かめるのに頬をつねるという古典的な方法を使うが、やはり痛い。
どこをどう曲がってそういう結論に達したのかがいまいちわからなかったが、とにかくもっとちゃんと現実を知りたくてとりあえず手を伸ばしてみる。
「…何だ、頭痛むのか?」
そう言って屈んで俺の額に手を宛ててくる土方さんの温もりが心地よくて、ずっとこうしていたいと思ってしまう。
その為にはまず、ちゃんと俺も自分の気持ちを伝えなければ。
「土方さん…。俺も、あんたが」
「副長、斎藤です」
「…ん、入れ」
「………」
あまりにもいい頃合いに現れた斎藤と、俺の言いかけの言葉を然り気無く無視して入室の許可を出す土方さん。
いやいや、ここは俺の部屋だろ。
「…どうした、左之?」
「…いや…」
「目が覚めたんだな、左之」
無表情の中にも僅かに心配の色を見せられて、毒気を抜かれる。
斎藤に悪気がないのは理解していたが、それでもちょっと邪魔だと思ってしまう自分を戒めた。
「…あぁ。まだ少し頭が痛ぇけどな」
「…そうか」
今度は安堵した、という顔。
こんなに心配してくれる仲間に、勘違いとはいえあんな不躾な態度を取ったことを反省する。
まぁ、土方さんの気持ちがわかった今だから、それだけの余裕が出てきたってことなのかもしれないが。
「…まぁ、ゆっくり先に進めればいいか…」
この男所帯ではこうやって幾度も邪魔が入るのは予想できるし、そうじゃなくても俺たちはいつ死ぬかわからない。
でも、互いに互いの存在が戦場において少しでも生き抜く力になれば、それだけでいい。
「…土方さん。俺は、何があっても必ずあんたを守るからな」
「何言ってんだよ、突然」
「いや…ほら、俺は副長助勤だからさ」
はっきりと言ってしまいたいが、照れ屋で不器用で、悩みを誰かに相談できない秘密主義な土方さんの為に今は止めておく。
傍らで、斎藤が不満そうに声をあげた。
「俺も副長助勤だが」
「お前らと俺は違うんだよ」
「何が違う」
「何がって、想いの深さ」
「何を言っている。俺の想いを馬鹿にしているのか」
「あー間違えた。種類だよ種類」
「…む…」
「お前ら何言ってんだよ…」
呆れたように笑う土方さんの顔が眩しくて、やっぱり斎藤がいなくなったら一番に言ってやろうと思う。
先を越されてしまったのが悔やまれるが、島田に取られるのは絶対に嫌だからな。
『俺も、ずっと前から土方さんが好きだよ…』
―――
一応、終わり。
斎藤君は天然。
そして島田さんは名前だけ(笑)
お付き合いありがとうございました。
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