死神と契約者

深夜、日付が変わってすぐの頃。



僕は今日も『狩り』をした。



人生の最期を壮絶な断末魔で締め括った男の身体が、力なく僕の足元に横たわっている。

足を動かそうとして俄に動き辛かったから見てみれば、醜い死体が僕の左足を掴んでいる。

「…ちっ」

イラッとしたから蹴飛ばしてやった。

この世で最も汚い存在が、僕の行く手を阻むなんて許さない。

この際だから、身元もわからないくらいぐちゃぐちゃにしてやろうか。

そんな考えが頭に浮かんだ。

考えたら即実行、が僕の主義。

仁辺もなく、持っていたナイフを掲げて思い切り顔面に向かって降り下ろす。

ざく、ざくっと小気味いい音が、静かな夜更けに響いて思わず口角を上げた。

もちろん、死んでしまった無意味な血がそこら中に飛び散ったけど、それが僕を汚すことはない。

ちゃんと計算して、一滴たりとも被らないように行動してる。

それはこの『狩り』を始めた時から変わることのない僕の習性みたいなもので、ある意味では芸術だとも思う。

自画自賛みたいであまり好きではないけれど。

「…ん、これくらいで許してあげようかな」

完成した立体絵画は、僕を充分に満足させた。

さて、と立ち上がって再び足を踏み出す。

壊れた玩具に、もう用はなかった。





死んだのは、社会的地位を持ちそれに胡座をかいて周囲に横暴を働いていた、悪代官。

その道の専門家と手を組んで、法律を掻い潜ってしたいようにして、何かあれば金で解決しようとする。

挙げ句気に入らないとなれば平気で他人を切り捨て、そのせいで切り捨てられた人は行く宛がなくて自殺した。

前から何とかしようと考えてはいたけど、その話を耳にして僕は決意した。

『狩ろう』と。

殺人が悪いことだと理解はしてる。

誰だって死にたくはないだろうし、どんな相手だって殺せば僕も犯罪者。

でも、何もしないでいるなんて堪えられなかった。

最初に罪を犯したのは、僕が高校生の時だった。

気がつけば僕の手にはナイフが握られていて、目の前には友人を弄んで棄てた担任が血だらけで倒れていた。

幸い、僕がやったことだと気づかれることもなく通り魔殺人で犯人不明で迷宮入りになった。

翌日、複雑そうな顔をしながらどこかほっとした様子の友人を見て、僕は気づいた。

これが、僕の役割なんだと。

世に蔓延る悪漢を『狩る』ことが、僕の生きる意味なんだと。

とは言え一丁前の自身の定義を立て付けたところで、今の僕は真っ黒。

人を消すことに何の抵抗も感じないし、寧ろ穢らわしい存在を抹消出来ることに密かな悦びさえ感じている。

結局のところ、所詮僕もそっち側の人間だってことなんだろう。



殺人事件発生のニュースを無表情で眺めながら、出勤の仕度をする。

今日は会社の社長が事件に巻き込まれたから、きっといつもとは違う雰囲気の中で仕事をすることになるだろう。

そう言えば、僕がいる部署の部長が異動になって新しい人が来るから、それも相まって慌ただしい一日になるに違いない。

願わくば、いい上司であるといいんだけど。

そういう人間でなければ、興味なんて浮かばない。

どうでもいいとさえ思いつつ、僕は家を出た。





案の定、出社してすぐに社長の話は上がった。

全ての内容を右から左に受け流し、紹介を待つこともなく書類に目を向ける見知らぬ顔を眺める。

あの人が新しい部長であることは一目瞭然で、ぱっと見では何か仕出かすようには見えない。

ふっと吐いて出た溜め息は、安心から出たものか残念に思って出たものか。

嫌に綺麗な顔をしているななんて思っていると、ふと目が合ってしまった。

普段から愛想のいい僕は、どうもと口の形だけで挨拶してみたが、向こうには特に興味も関心も無かったのかすぐに視線を外された。

(…何あれ)

良く言えば裏表のない性格なのかもしれないが、それにしても愛想の欠片も感じられない。

それまで無かった好奇心が、沸々と沸き上がるのが自分でもわかる。

傍に近づいて、あの人の内側を暴いてあのお綺麗な顔を苦痛で歪めてやりたい。

上がりそうになる口角を必死に押さえて、僕はまた新部長様の顔をそっと眺めた。



―――

いつもイイコ目な総司を、何とか黒くしようとした駄文。

続くかは未定。


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