あいうえお作文/お
拍手ありがとうございました!
今回のお題は、お。
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『汚部屋』
総司とは、恋人同士として付き合う前から幼馴染みという名目で家族ぐるみの付き合いがあった。
俺の家に毎日のようにやってくる彼奴には、時には勉強を教えてやったり、男ならではの遊びを教えてやったりした。
それから色々と紆余曲折があって今に至る訳だが、俺は今だかつて彼奴の部屋を訪ねたことはなかった。
きっかけが無かったっていうのもあるし、ある時期から一人暮らしである俺に比べ、向こうは家族と一緒に暮らしているという引け目もある。
だからと言う訳ではないが、いざ招かれると何だかいても立ってもいられなくなった。
総司が一体どんなところで生活しているのか。
気にならない筈は無かったから。
「ようこそ、我が城へ!」
「…」
そう言われて通された部屋で、俺は絶句した。
「あれ、反応なしですか?」
何故そこで、へらへらと笑っていられるんだ。
そう思い至った次の瞬間には、自分はもう声を張り上げていた。
「汚ねぇ!!何なんだこの部屋は!?物はグチャグチャだし埃はすげぇし!一体いつから掃除してねぇんだ貴様は!!」
この時点で既に眉間の皺がどうとかの次元ではなく、頭の上部から角が二本しっかりと生えてくるんじゃないかと思うほどキレた。
俺も長く生きてきたが、ここまでキレたのは無いかもしれない。
そんなレベルでキレた。
それくらい、汚なかったのだ。
まず、入り口から続くモーゼの十戒のようなゴミの通り道。
万年床なのは良しとしても、その周囲は最早絨毯みたいに成り果てた洗濯物だかもわからない服たちに敷き詰められており、雑誌やらチラシやらがばら蒔いてある。
無造作にその中の一つを拾ってみれば、埃というか細かい塵みたいなものが表面に付着しているらしくざらざらしていた。
およそ人の住むところとは思えない混沌たるこの場所は、心なしか息もしづらい気がする。
「そんな怒んないで下さいよー。これでも土方さんが来ると思って片付けたんですよー」
「これでか!?昨日までの惨状が想像もつかねぇ…。て言うか、なんだこの『教師を落とす方法』ってのは!ピンポイントだな!」
「えへへ、お陰さまで…」
自分が訳のわからないツッコミを入れていることは、もう全部この場所のせいだ。
これは片付ける気にもならないが、とは言えこれ以上ここにいるとどうにかなりそうな気がして、摘まんでいた雑誌を捨てて部屋の出口に向かう。
「あれ、どこ行くんですか」
あぁ、早く新鮮で綺麗な空気を吸いたい。
東京のど真ん中で、しかもヘビースモーカーの俺がそんなことを思う日が来ようとは。
「…帰る」
片付けが出来ない恋人に、結局手を貸すことになるのはまた別の話。
ーーー
もっとキレさせたかったんだけども、長くなってしまいそうだったので割愛。
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[mokuji]
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