あいうえお作文/う
『売り上げ』
「…土方さん、これ今日の売り上げです」
「あぁ、すまねぇ」
閉店後の閉め作業を終え、多忙な土方さん…副店長の為にと纏め上げた本日の実績を開示した。
これは最早定例のことで、土方さんも当たり前のように受け取って目を通している。
「…おっし、楽勝だな」
「連勝ですね」
「そうだな」
ここ最近、店長が変わり店の雰囲気が変わりつつある。
…悪い意味で。
以前の店長はある程度何でも自由にさせてくれるのもあり、またその天然が入ったような憎めない人柄からかスタッフからも人気がそこそこあった。
しかし今の店長は、一言で言えば横暴。
余りにも無茶で滅茶苦茶な態度と言動でこちらを振り回すタイプで、はっきり言ってほぼ全員に嫌われている。
それだけなら未しも、その傍若無人振りに疲れ果てているスタッフは、みんなモチベーションを下げてしまっていた。
その結果店舗成績は著しく低下し、それが故にまた店長の雷が落ちるという始末。
まさに悪循環でしかなかった。
「…誰かさんがいないお陰でこの二日、平和でしたからねぇ」
「…言うな、総司」
連敗に連敗を重ねていたこの数日間だったが、それに歯止めを掛けたのは『店長の連休』。
不思議と彼がいなかったこの二日は、特に苦労することもなく勝ちを取れた。
「この紙、店長に見せたらどんな顔するかな」
「…見たって気づかねぇだろ、あの人だったら」
確かに土方さんの言う通り、勝ち負けの要因に自分の存在なんて結びつけて考えそうもない。
そんなに繊細で敏感な人間だったら、場も弁えずに怒声を上げたりしないだろう。
そこまで考えて、明日からの毎日にまた溜め息を吐く。
するとほぼ同じタイミングで、土方さんもこれまた大きな溜め息を零した。
多分僕と同じ考えに行き着いたんだろう。
「…一生来なくていいのに」
最後に言い放った僕の真の願いは、きっとこの店の誰もが願っていることに違いない。
その証拠に、いつもだったら僕の発言を諌める筈の土方さんはもう何も言わなかった。
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