コスモ―告白―
直接はやっぱり訊けないから、とりあえず観察…することにしたものの。
学校では女子生徒やら女性教諭から大層おモテになっていらっしゃって、淡いものから濃いものまで向けらる好意全てを然り気無くかわしている姿しか見ない。
しかも驚いたのは、女子だけじゃなく一部には男子生徒からも色眼鏡で見られているようで、案外この世の中性別が壁にならないことを感じた。
初めての友人…斎藤君にその話をした時には、彼も先生が好きだと発言してくれたので思わず持っていたシャープペンを手の甲に突き刺してやろうかと思ってしまった。
ただし彼の場合は、どうやらただの羨望や尊敬だったみたいだけど。
問題はそれがいつ、違う意味に変わるかって話。
そしてそれ以前に、結果的に先生に相手がいるかどうかがわからないってことの方が大事だった。
おそらくいたとして、その様子から同僚にはいないと思う。
だとすると外の人か。
考えあぐねて悶々としていたちょうどその頃、同級生のある男の子が先生に本当に直球でナイスな質問をしてくれた。
「先生さ、彼女とかいるのか?」
まさかその子も先生のこと…ともちろん勘ぐってしまったものの、ソイツはキラキラした瞳でいかにも青少年的な興味ですって顔をしていた。
だからだろうか、先生もいつもだったら巧く言葉を操って逃げてしまうのに、今日は引き吊った笑みを溢して『いねぇよそんなもん』と一言告げた。
(…いないんだ…!)
内心そう思ってガッツポーズを掲げた生徒が、今ここにいるだけで何人いるだろう。
考えただけでゾッとしたが、答えた後の眉間に寄る皺と質問をした子にしっかり雷を落とすことを忘れない先生に、躊躇なくアタック出来る子がいるのかと問われれば、きっと自ずと数字は減ると思われる。
やはりこの気持ちを伝えようか…悩んでいる自分が自分じゃないみたいで、それでも砕けるのが怖くて前に踏み出せない。
そんな風にもやもやしながら、今日も二人きりになって近くから顔を見たくて、先生の『カウンセリング』を受けるために準備室に向かった。
本当に、告白するつもりなんてなかった。
けれど準備室の扉を開けた瞬間、見知らぬ女の子が先生と一緒にいるのが目に入って頭が真っ白になった。
恋は、決して甘くて綺麗なものじゃない。
中には純愛や自己犠牲的精神とかあるのかもしれないけど、僕が持つものは違う。
この好きには、独占欲が存分に含まれている。
「先生…なんで」
顔を紅くした女の子が慌てて部屋を出ていってしまったから、矛先は自ずと先生に向かってしまった。
そもそも僕には、会話内容を問いつめたり無理矢理言わせたりする権限なんてないのに。
「…何がだ?」
「何か、言われたんですか…?まさか、告白でもされました?」
言うつもりなんか端からないのが見てわかる通りで、先生は前みたいに僕じゃなくてパソコンを見ていた。
(こっちを見て…僕だけを見ててよ…)
口から出そうになる醜い言葉を必死に抑えながら、無理に笑う。
昔からの得意技だから、きっとバレないと思っていたのに。
ふと画面から視線を外して窺うようにこっちを見た先生は、眉を下げて困ったように訊いてきた。
「…どうした…?そんな泣きそうな顔して…」
人が良い、とはこの人のことを言うのだろう。
先生の優しさが、胸に出来た黒い傷にじんわりと滲みていく。
「先生…僕は…」
狡くて卑怯で醜くて、真っ黒で賤しい僕をそのまま受け入れて欲しいなんて、本当は願っちゃいけない。
わかってはいるけど、この大切な想いを消さないで欲しい。
色んな気持ちがぐちゃぐちゃに入り乱れてそれぞれ主張しているけれど、身体は勝手に先生を求めてしまう。
僕は、僕を止められなかった。
「僕は、先生が好きです…」
―――
今回はちょっと短め。
ちなみに質問者は、平助のつもり。
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