コスモ―高揚―

告白なんて、考えていなかった。

先生の心は確かに欲しかったけれど、もし拒絶でもされたら発狂して誰かを殴っちゃうかもしれない。

そんなことを考えている時点で、僕は飛んだ異常者だ。

けれど、もし。

万が一にでも、僕の心が通じて先生と付き合うことが出来たとしたら。

僕たちはどんな恋人同士になるんだろう…そんなことばかりを考えているようになった。

不思議と、男同士であることは壁にはならなかった。

やっぱり僕が『変なやつ』だからだろうか。

「沖田」

「はい?」

「この間のテスト…ありゃなんだ」

「何って…似顔絵ですよ。先生の」





遡ること、三日前。

中間テストで古典の答案用紙に自分で書いた、ラフ調に描いた土方先生の絵。

ラフなんて格好よく言ったものの、僕には絵心なんて無いからただの落書きなんだけど。

問題文なんて見向きもせず、名前とそれだけをしっかり書いて提出すれば、案の定この呼び出し。

内心ガッツポーズを取ったのは言うまでもない。

「テストだろ、テスト!!何で答案用紙に落書きすんだよ!」

「芸術的でしょ?」

「お前には常識ってのは無いのか!?答案には答えを書くっていう常識が!」

今にも地団駄を踏みそうな先生は、進級するつもりがあるのかと真剣に問うてくる。

入ったからにはもちろん、卒業の意思だってある。

けれどそれを上回るくらい、先生との時間も大事だ。

(そっか。…先生と一緒にいられるのは、たった三年間なんだ…)

もしこの三年間、ずっとこうやって先生に絡み続けたとしても、きっと卒業してしまえばすぐに数ある教え子の一人として、簡単に忘れられてしまうだろう。

後から振り返ったとしても、そういえばそんなやついたな程度で記憶の片隅にほんのちょっといるかもしれないレベルに違いない。

(そんなの嫌だよ…)

だから、言ってしまったのかもしれない。

「…先生」

「何だよ」

「僕は、卒業したくない…」





「将来に夢や希望が持てないのは、社会にも問題があるって言うからな…」



そんなこんなで、現在人生相談の真っ最中。

どうやら土方先生は、僕が社会進出することに躊躇いがあるのだと思ったらしい。

例えば本当に僕がそう悩んでいたとしても、多分それ以上に今の先生は悩んでくれているに違いない。

目を瞑って眉根を寄せて腕を組む姿は、その辺の学園ドラマの熱血教師さながらだ。

「あー、いやその…。僕はそういう意味で言ったんじゃないんですけど…」

社会に出るのに戸惑いが無いわけではないけれど、正直そんなものはどうでもいい。

傍にいたいなんて思ってしまった今は、このまま留年してしまおうかとちょっと誘惑に負けそうになっただけだ。

「まぁ、悩みがあるなら話くらいは聞いてやるから、とりあえず真面目に高校生活を送れよ」

「…じゃあ、またここに来てもいいんですか?」

遅刻したりテストを放棄しても、ちゃんと傍にいられるなら…少しでも僕を構ってくれるなら、多少なりとも真面目になってみてもいい。

あまりにも期待を込めた眼差しを送り過ぎてしまったのか、先生は苦笑していたけど仕方ねぇなと頷いてくれた。

「…やった」

「何がそんなに嬉しいんだよ」

「…えっ!?う、嬉しくなんか…ないですよっ」

今の僕の耳はきっと真っ赤に違いない。

どうしてか不思議なくらい、先生の前だと無防備になってしまう。

慌てて繕おうとしても、いつものように巧く出来ない。

だから下を向いて必死に否定するしかないのだ。

「…本当、変なやつ」

「ちょ、ほんと失礼…」

照れ隠しの抗議は、続けられなくなってしまった。





…先生が、優しく頭を撫でてくれたから。





自分の鞄を取りに教室に戻った時、ただ独り黙々と勉強をしていたらしい、不本意ながら最近出来た友人に言われてしまった。



「総司、何故顔が紅いのだ」



…と。

―――

斎藤君と友達になったとこも省略。

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