コスモ―出逢い―
世間では、今日という日は特別なものだとされているんだろう。
15歳の子供を持つ親はみんな、我が子の新しい門出だと浮き足立っているだろうし、張本人である子供自身だって多少の不安はあれど、期待やら希望やらで胸を躍らせている。
メディアだって、どっかの有名な学校に取材に行ったりして今日の夕方にはそれを放送する。
―――入学式。
そんなもの、ただの節目であって大した意味なんてない。
普段だったら何の感慨もなく、あぁまた学校始まっちゃう面倒臭いで済ます内容も、いざ自分が当事者になってくると機嫌だって悪くなる。
「…かったるいなぁ…」
ゆうに十時間は寝ているというのに箍が外れているのか一向に止まる気配のない欠伸を存分に繰り返して、回らない頭を叱咤することもなくもそもそと動き出す。
二十分くらい経った頃だろうか。
憂鬱な気分でやっと布団から抜け出し、式が始まるであろう時間が過ぎてもゆっくり身支度をして家を出た。
とりあえずはホームルームは出て担任の顔くらいは拝んでやろうかという、そんな上から構えた考えで割り当てられた自分の教室に向かう。
このタイミングでは、流石に教師とも生徒とも鉢合わせることもない。
友達なんて要らないし、知り合いなんかもなるべく作りたくない。
今この瞬間もこれから先も、煩わしいのは勘弁だったのでこれは幸いだった。
入学式なんかとっくに終わって、多分出欠を取った時点で全てを悟った担任は頭を抱えるに違いない。
自分が受け持つこのクラスには、早くも問題児がいる…と。
想像するとなんかちょっと可笑しいな、なんて思いながらたどり着いた教室の扉を躊躇なく開けた。
その瞬間案の定、室内のそこら中から好奇の視線がびしびしと向けられているのを全身で感じる。
「おはよーございまーす」
そんなのどこ吹く風って見せて、僕は悠々と唯一空いていた…どう考えても自分のだろう席に腰を下ろした。
「…入学早々、重役出勤の上にその態度…いい度胸じゃねぇか…」
静まり返った室内に響く、大人の男の人特有の重低音。
ちらと教壇に目をやれば、黒髪でスラリとスーツを着こなした…いかにも女の人が放っておかなそうなイケメンが、あたかも怒りを表しているかのようにわなわなと拳を震わせていた。
歳は…二十代から三十代にかかるくらいだろうか。
格好いいを絵に描いたような、そんな人がそこにはいた。
よく女子生徒が騒ぎ出さないものだと、まるで他人事のように考える。
「…沖田総司…!てめぇ、後で俺のところに来い!絶対来い!いいな!?」
初日からボイコットしたのは、やっぱり僕だけだったらしい。
その人は、しっかり僕の名前を頭に入れたようで、惑うことなくその名を口にした。
「…あなた誰ですか?」
「てめぇの担任だよ!見てわかんだろ!」
「さぁ…?だって僕、今来たばっかりだし?」
「この野郎…!」
あぁ、こんなやり取りはなかなか心地いいな…なんて思っていたのはどうやら僕だけのようで、笑いを噛み殺すほんの数人を除いた生徒の殆どは、来て早々仮にも教師に突っかかる僕に退いているみたいだった。
担任だというその先生は、眉間にしわを寄せて憎々しいと言わんばかりの、怒りと恨みの篭った視線を向けてくる。
とは言えそんな時間も長くは続かず、直後に大きな溜め息を一つ溢しただけで終わった。
「…とりあえず、話の続きにもどるぞ」
いつまでも僕みたいなやつに時間は割けないってところだろう。
相変わらず眉間にそれはあったものの、僕だけに注がれていた視線はみんなに移ってしまった。
(…なんだ、つまんないの)
それだけでさっきまでの面白さなんて一瞬で霧散した。
当然ながら、続きだったという先生の話なんて興味もないから全く耳には入ってこない。
ただ何となく、顔と同じで声もいいな…なんて思っていたかもしれない。
手持ち無沙汰になって仕方なしに手元にあった紙を開いて、これから先僕の相手をしてくれるであろう担任の名を確認する。
(土方歳三…か)
高校生活も悪くはなさそうだ…もう一度教壇に立つ男を見て、そう思った。
―――
ちょっと文体を変えてみた。
学園なら定番な感じ。
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