コスモ―仲間ということ―

体育館に、近藤校長の声が響く。

『…皆に話さなければならないことがある…』

人が倒れる騒ぎが起きて、校長も黙ってはいられなくなったんだろう。

PTAとか、他の教師や生徒だって知りたがるのが目に見えている。

実際、僕の回りでも事情を聞きたがる人たちが何人もいた。

あの場での僕や原田先生なんかの態度から、皆薄々はあれがただの貧血だけじゃないと気がついているみたいだった。

そんな中で不思議だったのは、僕の一番近くにいる筈のはじめ君や平助は、あの日以降も何かを僕に求めることはなくただ翌日に会った時に一言。

「大丈夫か?」

たったそれだけだった。

…だからだろうか。

全校集会が開かれる前に、僕は僕らのことを二人にだけは話しておこうと考えた。





話終えた時、二人の反応はあの日見た永倉先生の反応とほぼ同様のものだった。

「…先生が…」

「土方先生…」

まるで自分のことのように気落ちする二人の姿を見て、改めて土方さんが皆に好かれ慕われていたかがわかる。

けれど僕は、それだけで終わらせるつもりもなかった。

「…僕、前に言ったことがあったよね。僕の将来の夢は、先生になることだって」

これから口にする内容を聞いて、二人は今まで通り変わらぬ友人でいてくれる保証はどこにもない。

僕や土方さんが気にならなかったことが、他の人がそうとは限らない。

それでも僕は、僕たち以外の人に僕たちのことを知っていて欲しかった。

何がどうということはないけれど、ただ土方さんがいなくなる前に…と。

「僕がなりたいのは、ただの教師になりたい訳じゃないんだ。…僕がなりたいのは、土方先生…土方さんみたいな先生なんだよ」

「…そうか」

「うん。土方さんは、僕の人生を変えてくれた。僕が生きる意味を与えてくれたんだ…」

「総司…」

「僕はね…土方さんが好きなんだ。…それで、土方さんも僕を受け入れてくれた」

流石にこれは吃驚したみたいで、二人とも目を見開いて言葉を失っている。

それに苦笑を洩らして、それから真っ直ぐ二人を見た。

「二人が僕を軽蔑しちゃっても仕方がないと思ってる。…でも僕は、今でも好きなんだ…あの人のことが」

きっといなくなってしまっても、ずっと覚えてる。

この気持ちを失うこともないだろうし、それどころか益々好きになっちゃうかもしれない。

二人の前だと言うのに、気づかぬ間に僕はまた涙を流していた。

「…すげぇな、お前」

最初に口を開いたのは、平助だった。

泣いている僕の肩を宥めるように叩いて、感動したと呟いた。

「俺だって今まで好きな奴の一人や二人はいたけどさ…。お前みたいに考えたり出来なかったかもしれない。すげぇよ、お前」

平助の言葉に、今度ははじめ君が頷く。

「軽蔑などする筈がないな。お前は…俺たちなどより余程強い。尊敬こそすれ、軽蔑などしない」

互いを想い合うことを肯定して貰えることが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。

僕はまた、二人に助けられたんだ。

「…有り難う、二人とも」

いつかは僕が、二人の助けになりたい。

口にするのは照れ臭いから、心の中だけで思った。





土方さんは数日で退院した。

ただの貧血とは言え、原因が原因だけに普通だったらそんなに簡単には出てこれない筈なのに、結果を見れば医者も引き留める術がないってことなんだろう。

それでも以前に比べて、明らかに不調を訴える日が増えていった。

近藤校長が全校に向けて話をしたお陰か、休みが増えていく土方さんを咎める人もいない。

…まぁ、全くではないのだけど。

何か言うものがあれば、原田先生や永倉先生が締め上げ…もとい説得を続けてくれた。

生徒の方は、僕ももちろん平助やはじめ君が話をしてくれている。

僕もそうだけど、土方さんはこれだけ愛されて幸せだと思う。

人と人の絆をはっきりと感じることが出来たのは、僕はこれが初めてだった。

…僕らは、皆一緒に生きてるんだ。

そう感じることが出来るようになった秋頃のこと。





とうとう土方さんは、学校に来ることが出来なくなった。



―――

どーしよーかなー


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