コスモ―身体の痛み、心の痛み―

総司が、一年の最後のテストで学年のトップを取った。

「見て見て!凄いでしょ!!」

「あ、あぁ…すげぇな…」

目の前で、胸を張って褒めてとばかりに掲げられた今期の期末テストの総合結果。

よほど嬉しかったのか、総司は五限目終了後のホームルームで配られてすぐに、俺のいるここにやってきた。

「何その反応。もっと喜んで下さいよ」

「いやそれ纏めたの俺だからな…」

各クラスの生徒の成績管理が誰の仕事だと思っているのか、そう暗に告げれば頬を膨らませて駄々をこね始める。

「そういう問題じゃないでしょ!?せっかく僕頑張ったのに…」

確かに、意図的に悪かった古典を含む以前のテストの結果は、悪くはなかったが良くもなかった。

それはもちろん、ちゃんと勉強をしてなかったに他ならなかったが、今回この表を作った時には正直驚いたものだ。

まさかこんなに早く、成果が表れるなんて思わなかったから。

「今までが勿体ねぇな…」

「何か言いました?」

「…いや、良くやった」

せっかくやる気になったのだから、もう何も言うまい。

幸いなことに、一年のこの時期から進路に向けて真面目な方向に軌道修正したのなら、この調子でやっていけばきっと問題なく行きたいところに行けるだろう。

「本当に、頑張ったな」

「うん!だって、先生になるには学力が最重要項目でしょ?それに、古典なんて一番頑張ったんだから」

最後の言葉が、胸を揺さぶる。

「土方さんみたいな先生になるには、やっぱり古典は外せないからね」

聞くんじゃなかった、と思ってしまった。

総司の何気ない一言が、こんなにも俺を救ってくれるなんて。

気づいてしまったらもう、俺には逃げ場がない。

「…っ、…たく、お前には敵わねぇなぁ」

最近の俺は、自分でも驚くくらいに怖がりだし涙脆い。

また、心が『生きたい』と叫んでしまいそうだ。

そう、思った瞬間だった。

「…っ!」

「土方さん…!?」

腹の中から、突き刺すような痛みが身体中に響く。

身体を捩っても腹を掻きむしっても収まらないあの激痛が始まる、その予兆。

咄嗟に引き出しにある筈の薬を求めて右手を伸ばすが、思うように身体が動かない。

「…っ、く…そっ!!」

「引き出し?待って!」

そんな俺に気づいたのかすぐに行動を起こした総司が、引き出しから目的のものと水を用意してくれた。

「落ち着いて…大丈夫だから…」

「はぁ、はぁっ…」

総司の呟きは、まるで自分に対しての物のようだった。

その証拠に、今にも泣きそうな不安そうな顔をしている。

「だ、いじょうぶだ…。あんしん、しろ…」

「土方さん…!」

いくら即効性のある薬を飲んだからと言っても、そんなにすぐには効くものではない。

いつものように深呼吸を繰り返せば、堪らず抱き着いてきた総司も合わせて深呼吸を始めるのがわかった。

「…はぁ、はぁ…。すまねぇ、心配させて」

「何、言ってるんですか…!僕にはもっと、ちゃんと頼って下さいよ!」

「…悪い」

幾分か楽になってきた頃には、総司も何とか余裕を取り戻したらしい。

それでもまだしがみつかれたまま、俺は説教を甘んじて受け入れた。

総司という存在が有り難いと、今ではそう心底実感していたから。

だから言われた言葉には甘えさせてもらおうと、渇いた唇を無理矢理動かす。

「…なぁ、総司。頼みがあるんだ」

「…何…?」



「俺を、校長室まで連れて行ってくれねぇか」





校長室に来る理由なんて一つしかない。

あの人がここにいるであろう時間は把握しているし、少しくらいなら話も出来るだろう。

「…総司、悪いな…。ちょっと話してくる」

「…うん…」

総司は近藤さんと俺の関係を、俺の過去を知らない。

俺が何故教師になったのか。

教師に拘るのか。

帰ってろだとか、時間を潰してろだとかを敢えて言わないのは、今からこの中で話すことを総司にも知ってもらいたかったから。

選択の余地は残したまま、俺はノックと共に扉に手をかける。

「…近藤さん、俺だ。今大丈夫か」

「ん…?トシか。入ってくれ」

入室の許可をもらって開いた扉の先、穏和ないつもの笑顔を見て覚悟を決めた。

「近藤さん…話があるんだ」



―――

土方さんの過去。

きっかけは近藤さんだゼ☆


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