冬化粧の屯所にて

「見て下さいよ、土方さん!雪ですよ、雪!」
「あー、はいはい。………うー、さむっ」

庭を走り回る犬の如く、一面を白く彩った雪を見てらしくなくはしゃぐ総司に適当な相槌を打ちながら、肌寒い朝に若干の苛々を滲ませる。
吐いた息が、思った以上に白かった。

「銀世界とはこのことですよね!雪合戦出来ますよ!」
「…やるなよ」

江戸とは違う雪の質を寒さに耐えながらそっと手に取り確かめつつ、機嫌が急降下していく俺に反して急上昇した総司の子供みたいな発言を速攻で却下した。
距離を置いた向こう側で、頬を膨らます様子が見える。
とても、あの餓鬼がこの新選組で一番の剣士であるとは思えなかった。

そうして暫くの間、庭で駆け回る総司を縁側に腰掛けて眺めていると、ふと近づく気配に気づいた。

「…副長」

声を聞いてと言うよりは、寧ろその静かな平常通りの呼び方で相手が誰だかすぐにわかる。
音も立てずに気配と声だけで傍にやってきたそいつにもはや職業病だと苦笑を洩らし、その顔を拝んでやった。

「どうした?」

総司の小生意気な瞳より幾分か丸い蒼の眼が、一瞬だけ庭を駆ける男を見やる。
直後、隣にいいですかとどことなく遠慮がちに訊いてきた。
謙虚な態度が好意的に目に映り、俺は笑って頷く。

途端、庭の方から痛いくらいの視線が突き刺さってきた。

「…何だよ」
「いいえ何も」

口ではそう言いながら決して何でもないという顔ではなく、今度は隣に座った斎藤の顔を思い切り睨みつける総司に、思わず溜め息が零れた。
隣を見れば、斎藤も負けじと総司を睨んでいる。

まるで威嚇し合う犬と猫のように、奴らのお陰でその場の空気は凍りついた。

「…総司、斎藤。顔を合わせる度に威嚇すんのは止めろよ。空気が悪くなる」
「無理ですね。斎藤君が出しゃばる限りは」
「何を言う。お前の方こそ奇行は慎んだらどうだ」
「奇行?ただ雪と戯れている僕の行動が奇行だって言うの?斎藤君の目は節穴だね」
「馬鹿を言うな。俺の目は隊内でも一、二を争うくらいの視力の良さで通っている!」
「だー!!いい加減にしろ、二人とも!」

放っていると直ぐにこれだ。

元々は恋仲である総司が、俺を想っていてくれた斎藤に対し焼き餅を妬いたのが始まりだったが、今年の夏に俺が総司に対する気持ちを斎藤に話し、一旦は解決した…筈だった。
しかし、相も変わらず総司は斎藤にちょっかいを出し続け、斎藤も必ずそれを買ってしまうからこうして喧嘩になってしまう。
今回のようにその場に俺がいれば良いのだが、そうでなかった場合には自然と運悪くそこにいた人物に被害がいく。
そうして結局、被害者たちは俺に被害届を上訴してくるのだ。

「…堪ったもんじゃないぜ、全く…」

とてもだが、愛されていることだし良いかなどと楽観視は出来ない。
今年はこのまま、決して平穏とは言えない一年のまま過ぎていくのかと嘆きつつ、天を仰いだ。



「…トシ、ちょっと話が…」
「…ん、こ、近藤さ…ん…。…ど、うした…?」

それからというもの、この寒さの中ではしゃぐ恐ろしい体力の持ち主である総司に付き合わされた俺は、気づけば体温が低下していて半ば雪だるまと化していた。
いい加減早く総司も斎藤も室内に入ってくれないかと思っていた矢先、いつも俺を救ってくれる救世主が今回も現れる。
まさに天の遣いでも現れたような錯覚を思わせ、震えながら近藤さんの身体に縋りついた。

「…と、トシ…!?どうしたんだ、こんなに冷たくなって…!」
「あぁ…と、凍死する…」
「トシ!?トシー!!」

肩を抱かれ何度か揺さぶられたのがわかったが、あまりの寒さに堪えきれなくなった俺のなけなしの意識は、そこで途絶えたのだった。





―――あったかい。

意識が段々と浮上してきたと同時に感じたのは、身体を包み込む優しい温もり。
それは全身を汲まなく満たし、俺は随分と機嫌良く目覚めることが出来た。

「…って」

身体を動かそうとして、動かない。
錘のように俺を床に縫い付けていたのは、傍らから身体にしがみつく斎藤と総司だった。
ちら、と視線を上げれば、苦笑いをする近藤さんの顔が見える。

「人気者だな、トシは」
「…まぁ、疲れるがな…」

自分で認めるのもどうかと思ったが、何だか抗うのも馬鹿らしくなった…というのが本音。
それに俺を縛って嬉しそうに眠る二人を見ていると、文句も愚痴も引っ込んでしまった。

(…温まったのもコイツらのお陰だしな…)

なんて自分に言い聞かせつつ、痺れ始めた腕をせめてもの抵抗だともぞもぞと動かした。

「…今、浪士に襲われたら俺は即死だな…」
「安心しろ!その時はきっと、二人が守り抜いてくれるさ!」

にこにこ笑う近藤さんに苦笑いで返しながら、さてどうしたものかと考える。
障子の隙間から室内に注がれる日は冬ながら暖かく、まだ眠いしもう一眠りしてしまおうかと思い立って目蓋を閉じた。

再び訪れる睡魔を甘受しながら、二人からもたらされる重い愛情を思った。






思いつきでした。

夢の話とか書きたい。


[ 1/30 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -