コスモ―夢―

毎日毎日、よく飽きもせず学校は続くと思う。

正直、僕なんて来て半年で飽きてしまったというのに。

それでも登校するのは、単に土方先生に逢えるから。

動機が不純だと言われてしまうかもしれないが、それでもそれが僕の登校する意義だ。





「えー、今日は土方先生が体調不良でお休みのため…」



だから、土方先生がいない学校に来る意味なんてない。





「…で?何でこんな時間にお前がここにいるんだ?」

「何でって、だから土方さんが心配で…」

「学校サボって来てんじゃねぇよっ!!!」

怒鳴ってから、やっぱり痛いのかお腹をさすっている。

そんな姿を見て、僕がはいそうですかと引き下がる訳がない。

「無駄ですよ。今日は頭が痛いから早退しますって先生に言ってきちゃったから」

「…てめぇ…」

せっかくお見舞いに来てあげたのに、怒鳴られた上に家にすら上げて貰えないなんて冗談じゃない。

ぐだぐた動く口を僕ので塞ごうとして、でも少し恥ずかしいから止めにして無理矢理扉の脇から身体を押し入れた。

「おい!」

「…病院、行ったんですよね?」

リビングの机の上にある、近所の大学病院の名が入った紙袋を見つめて分かりきったことを訊く。

入っているのは胃薬だろうが、問題はそこじゃない。

「…何あれ。薬中みたい」

普通は二、三種類しか出さないだろうに、そこにあったのは明らかに膨れ上がった紙袋が三つ。

「…滅多に行けねぇから、多目に貰っておいたんだよ」

それが完璧な嘘じゃないことはわかるが、しかしこの量はそれだけじゃないと僕でも察知出来る。

余程重症でなければ、ここまでにならないだろう。

「…胃潰瘍とかでした?いっつもカリカリしてるから…」

「………」

「それとも、他にもどっかやられてました?腎臓とか…」

訊いても応えてくれない相手に、拭いきれない不安が沸々と再燃する。

やっぱり、誰かを欲して一緒にいることを望むのは間違いだったのか。

また、僕は独りになる…?

「土方さん!」

「叫ばなくても聞こえてるよ。まだ、詳しい結果までは出てねぇんだ。荒れてんのは確かみたいなんだが…」

つまり、精密な検査を行ったということか。

触診、血液検査、レントゲン、エコー、胃カメラ…。

確かに、病院によってはすぐに結果も出ないかもしれない。

「…結果がわかったら、すぐに教えて下さい」

「あー…はいはい」

返ってきた生返事に苛つきながら、きっと大丈夫だと再び自分に言い聞かせる。

最近ではそれが、もう癖になってしまったみたいだ。



それから何時間か部屋にいさせて貰って、土方さんがいつも『送る』という時間に差し掛かる。

今日ももちろん、当然のように土方さんは『送る』と告げたが僕はそれに頷けなかった。

「…どうした?家で何かあったのか?」

「違います。違いますけど…」

帰りたくない、その思いはただ単純にずっと一緒にいたいというところから来ているものでもあったし、今までだってもちろんそう思ってきた。

でもそういう駄々をこねれば土方さんが困るのはわかっていたし、土方さんの口から立場や体裁の話をされて諭されるのも嫌だったから、渋々言うことを聞いていた。

実際、最初にここに来た時を除けばお泊まりなんてしたことがない。

けれどそんな我慢も出来ないくらい、今は不安になっている。

早く、結果が欲しい。

安心できる内容の結果が。

焦る僕の心中を聡い土方さんがわからない筈もなく、それ以上問う気もなくなったようでただ一言だけを告げた。

「…ちゃんと、家には連絡しろよ」

「………はい」





土方さんの腕の中で微睡みながら、僕はその腕の主の夢を見る。

今から何年か経って、名実ともに大人になった僕は実習生の名札を付けて土方さんの元に行く。

家では同棲とかしちゃっていて毎日顔を合わせるけど、公の内容で会うのはこれが初めてで少し気恥ずかしくて。

けれどそんな僕に今と同じように厳しいスパルタ式教育法を採用する土方さんは、例えお前でも容赦しないから覚悟しとけなんて盛大に宣言する。

その宣言通り土方さんは職場では厳しくて鬼のようだけど、でも家では僕を甘やかしてくれる優しい人で。

そんな土方さんに、僕は毎日惚れ直しちゃう。

土方さんが起こした僅かな身動ぎで一気に現実に戻った脳味噌が、僕に新たな目標を与えてくれた。

「土方さん…。僕、先生になりたい。土方さんみたいな先生に」

「…そうか」

「うん」

「お前ならなれるだろ。まぁ、俺より鬼畜な教師になりそうだがな」

微かに笑う振動が伝わってきて、その不規則なリズムが心地よい。

突飛な僕の夢を受け入れてくれたのかはまだわからなかったけど、頭を撫でてくれる手のひらが凄く優しくて穏やかだったから、もしかしたら本気にしてくれたのかもしれない。

「…見てて…下さい。ぼく、ちゃん…と…」

目を瞑って告げようとしたのが間違いだったのか、そんな半端な状態で再び意識を手放してしまった。

それでも、同じ場所で肩を並べて同じ景色を見る為に、僕はやってみせる。





「…見てるよ、ずっと。例え、傍にいられなくても…」





僕の決意は、土方さんが洩らした小さな独り言に淡く儚く滲んだ。



―――

総司が先生って…マジ怖い!


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