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コロッケパーティの最中、私はお手洗いに行こうと席を立つ。
揃さんにお手洗いの場所を聞いて皆さんの邪魔をしないように、そそくさとその場を後にする。

ワイワイガヤガヤと、皆さんの楽しそうな声を背中に受ける。
こういう日常が早く訪れたら良い。
女の子も男の子も好きな服を着て、無邪気に笑いあえるようなそんな日常。
そこに私は居ないのだろうけれど、あそこにいる皆さんがそういう日常を送るのを想像するだけで満たされた気持ちになる。

トイレに向かうために艦内を歩く、少し複雑で迷いそうになるがまあ大丈夫だろう。
いけるいける。
場所は聞いたが、迷う事を想定して余裕をもってトイレに来たのだ。
後数十分は迷えるぞ。
さあ次はどっちの道なのだろうか。


「おい」


キョロキョロとしていると後ろから声をかけられた。
そちらを振り向けばそこには猿投山さん。
久々に見た猿投山さんは怪我こそ無いが露出がかなり増えていて思わず目を背けてしまった。
ガチムチでは無いが猿投山さんも良い筋肉しているなぁと改めて思う。
目を背けるのは失礼だと思い、改めて猿投山さんに向き合えば、彼は此方をジッと見つめている。
仮面で目の表情が汲み取れない。

そういえば、猿投山さんとは最後気まずい別れ方をしていたように思う。

大阪で、倒れていたヌーディストビーチの人の前で押し問答をして、結果猿投山さんが竹刀を振り下ろし私の肩に怪我をさせてあの戦場から離脱させてくれたのだ。
かなり迷惑をかけて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
こういう時は謝罪をすべきなのか、お礼を言うべきなのか。
迷っていれば、猿投山さんが私の肩を指差した。

「動くのか」

猿投山さんのその言葉に何回も頷きながらぐるぐると肩を動かしてみる。
それを見た猿投山さんの肩が少しだけ落ち着いたように下がったのを見た。
その様子を見て、心配してくれていたのだと気付く。
そして同時に、本当に不器用な優しさを持つ人だと改めて感じる。
御礼か謝罪か。
そんなの決まっている。

「ご迷惑かけてごめんなさい
いつも本当にありがとうございます」

猿投山さんの気遣いが嬉しくて思わず笑う。
目の前の彼は少し黙ったかと思うと、顔を俯かせて大きく溜め息をついた。
そして顔をあげて私の顔をジッと見つめる。
しばらく見つめられどうしたら良いか分からない。
静寂が耐えきれず、何か話をと頭の中を整理する。

「えっと、さ、猿投山さんは、怪我とかしてませんか?」

「…してはいない」

「そ、そうですか!流石ですね!怪我が無いようでなによりです!」

「ああ」


いつもとは違う猿投山さんにどうしたら良いか分からない。
猿投山さんこんなに無口だったっけ?
しばらく会わない内に無口になってしまったのか?
猿投山さんをチラチラと観察していれば、ふと気付く。
猿投山さんが何処となく私の顔を見ていないように感じる。
では何処を見ているのか。

(…!!左手!!)

私の糸のように綻んだ指を隠すために肩まで巻いた包帯。
それを猿投山さんはジッと見ている。
私は思わず手を後ろにやった。
猿投山さんの空気が少し変わる。

恐る恐る顔を見れば、目線が今度は私の顔に向いているのが何となく分かった。
目のみえていない猿投山さんの目線というのもおかしな話だが、それでもこの刺すような空気を目線以外何と言えばいい。

怪我じゃないのだこれは。
でもそれを伝えればじゃあ何故包帯を巻いているのかという話題になる。
ああ、どうしようどうしよう。


「どうした、それは」

「怪我じゃないでふ」


噛んだし素直に答えちゃったよもう私の馬鹿。

その言葉に猿投山さんの空気がまた変わった。
猿投山さんが私に近寄る。
私はそれに合わせて後ずさる。


「こ、これは、ほんと、怪我じゃなくて」

「嘘をつくな。
怪我じゃないならどうして隠す?」


壁に追い詰められる形で猿投山さんが目の前にいる。
横に逃げようかと思うが足で塞がれる。

猿投山さんの顔を見つめれば猿投山さんは少し不機嫌そうな顔で此方を見つめている。
それにしても何故嘘だと言い切れるのか。

目の前の仮面を見つめて思い出す。
そういえば、猿投山さんは心眼を会得した。
確か目に見えないものを視る、と言っていた。
途端に顔面蒼白になる。
私のこの手の状態見られているのでは。


「さ、猿投山さん、心眼で、視えるんじゃないんですか?」

「怪我そのものが視えるワケじゃない。
怪我した場所が視えるというだけだ。
俺には今お前の指先が怪我しているという事とそれを隠しているという事しか分からない。
だから嘘を付くなと言っている」


つまり、猿投山さんは私の指のこの綻びが視えているワケではない。
この指の綻びが怪我している場所として表示されている、という事か。
なら、良かった。
私の今の状態がバレてるのでは無い。

安心して思わず顔が緩む。

そこは安心したが、この状況は変わらない。
私のこの手が怪我したものとして猿投山さんに視えているのなら、それについて素直に謝ろう。

「あ、えと、ご、ごめんなさい。
心配かけさせたくなくてですね」

そう言えば猿投山さんは少しだけ距離をあけた。
仮面で表情は汲み取れないが、素直に謝った事で少しだけ許されたみたいだ。
それに少しだけホッとする。
猿投山さんは本当に不器用な人だ。
でも根本は優しい人だというのがとても分かる。
じゃないと私を心配する筈もない。
まあ、この力はまだ使い道がある訳だし、猿投山さんが私を気にかけるのも当然の事か。
これから世界の命運をかけた戦いに挑むのだから。
少しでも戦力はある方が良い。
今の私には生命戦維を分解するのに生じる時間は無い。
その代わり、取り込むたびに私の生命戦維化が目に見える形で進んでいく。
ほかに綻びは無いみたいだし、この左手から生命戦維化が進んでいくみたいで間違いなさそうだ。

後どれくらい、この力を使えるのだろうか。

左手を見つめ、これからの事について考える。
自分が一番しなくてはならない事は、この力の事実を絶対にバレないようにすること。
そしてその次は、最後は誰にも見られないように生命戦維化する事。
大丈夫、消えたとしても、きっと元の世界に戻ったのだと思われるだけだ。

見つめていた左手に別の手が重なる。
その手は少し力強く私の左手を掴み、グイッと力強く引っ張った。
先程のように近くなった猿投山さんに少し目を丸くする。
彼は真剣そのものだった。


「もう何処にも行くんじゃねえ」


私の考えていた事を読んでいたのかとでも言わんばかりのその言葉に思わず声が詰まる。
私の返事を待っているのか猿投山さんは何も言わない。

落ち着いて。
何処にも行くな、とはきっと、私が一ヶ月間行方不明だったからだ。
そんな行方不明になってしまう人間を心配しての発言だ。
私の考えはきっとバレてない。

それに笑って肯定の返事をし、頷けば、猿投山さんは少しだけ眉に皺を寄せた。


「……俺には視えていると言ったろう。
お前のその返事が、嘘だという事くらい分かる。
何を考えているかまでは分からんがな」


お見通しだった。
それに何も言えず、誤魔化すように顔をそらす。
猿投山さんは掴んでいた手を更に少しだけ強く握る。
眉間の皺が少しだけ形を変えた。


「なら…せめて、俺から、離れるな」


絞り出すようなその声に、私は再び目を見開く。
まるで、どこかの少女漫画の台詞のようなそれが自分に向けられ、しかも相手はあの猿投山さんで。

この言葉に深い意味はない、分かっている。
私の戦闘能力は皆無だ。
だから自分から離れるなと猿投山さんは言っている。

でも、一応女である身としては見事に一本決められてしまった。
顔が真っ赤になる。
思わず俯く。
俯かなくても猿投山さんにはこの顔は見られないのだが、俯かないと今ちょっとこの場から逃げ出してしまいそうだ。

猿投山さんが返事を急かす、私はそれに俯いたまま「出来る限り頑張ります」と答える。
猿投山さんの手がスルリと離れた。
少しだけ距離をあけて、顔を抑えながら猿投山さんをチラ見する。


「………っ」


目の前の彼の顔は真っ赤で、それは耳まで達していた。
真っ赤な状態でバツが悪そうに顔を手で抑えた。

自分で言っておいて恥ずかしくならないでください。
私もまた恥ずかしくなってきたのですが。

お互い何も言えなくなって無言のまま向かい合う。
なんとかこの状況を打破しようと私は一つ咳払いをした。

「わ、私、弱いことこの上ないので、猿投山さんにそう言っていただけて心強いです」

なるべく明るい声でそう言えば、猿投山さんも一つ咳払いをして「そ、そうか」と呟いた。
そしてまた静寂。
なんだこれは。気まずい。
どうしようかと考えていれば、猿投山さんが頭を乱暴に掻く。
ふう、と気持ちを切り替えるかのように溜息をついて私の顔を再び見つめてきた。


「俺がさせた怪我については謝罪はしない。
その代わり、態度で示す。
俺は、強くなっているからな」


そう言って私のおでこを少し乱暴に指で押す。
少し痛くて思わずおでこを抑えれば、猿投山はんは少しだけ口角をあげた。
何だかよくわからないがいつもの猿投山さんに戻ったようだ。
それに少し安心して思わず笑う。
こうして猿投山さんとお話できるのも限られてくるのだろう。
後悔しないように沢山お話出来たら良い。


「いちゃついているところ、申し訳ないけれど」

ヌッと言わんばかりに私と猿投山さんとの間に犬牟田さんが現れた。
全く気配がなく、いきなりの人物に声を出してしまった。
猿投山さんも顔を再び赤くして「いちゃついてなどいない!!!」と否定した。
猿投山さんは対して驚いていないが、犬牟田さんの気配に気付いていたのだろう。

「まったく、最終決戦前だというのに、これだから盛りのついた猿は手に負えない」

「言わせておけば…!!!」

「ああ、そうだ。
皐月様が君を呼んでいたから早く行ってくれないか?」

真っ赤のまま竹刀に手をかけた猿投山さんは、犬牟田さんの言葉に悔しそうに唇を食いしばり、「後で覚えてろよ!!」と有りがちな台詞を吐いてその場を去った。
犬牟田さんは一つ溜息をついて、私に向き合う。


「少し、君に聞きたい事があってね」


改まって言われたその言葉に私は思わず姿勢を正した。
犬牟田さんは少しだけ黙り、言葉を探している。
珍しい事もあるものだと思っていた私は次の言葉に頭が真っ白になった。
















「君のその力
使うたびに身体が生命戦維化しているんだろう?」




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