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「こんの!!!!大馬鹿!!!!」

「ふぐわっ


頭に思い切り勢いがついたゲンコツ。
余りの衝撃に私は思わずその場に跪いた。
煙が上がっているのではないかというくらいの衝撃で、それを繰り出した蛇姫様の底力にただただ感嘆するばかりだ。
小さいのに溢れるパワーをお持ちだなんて流石です。

少し痛みがおさまって涙目の顔をあげて少しニヤケながら謝れば今度はオデコにチョップをくらった。
二撃目が来るとは思ってなかった。
衝撃に尻餅をついた。
覚悟を決めていなかったからか頭が揺れる。
蛇姫様すごい。

フーフーと鼻息を荒げ怒り心頭の蛇姫様にひたすら謝罪するしかない。
その様子を見ていた蟇郡さんが蛇姫様の身体を抑えてなだめる。
ありがとうございます。三撃目来たらどうしようと思っていました。

和解した後すぐに好代さんがコロッケを出してみんなでコロッケパーティーをする事になった。
その為に揃さんが敷物を取り出してそれを敷くために全員場所を空ける。
薔薇蔵さんの後ろにいた私がその際に全員の前に姿を現したものだから四天王の皆さんやマコちゃん達が目を見開いたのが分かった。

その瞬間に蛇姫様が拳を繰り出し、冒頭に戻る。


「名前ちゃーーーーーーん!!!!!」


マコちゃんが飛び付き私は再び地面に突っ伏した。
いきなりの衝撃に受け身も取れず見事に下敷きになる。
再び目を回しているとマコちゃんが頬を膨らませて此方を睨んでいた。


「どうしてどうしてどうして!!名前ちゃんはいっつもそうなの!!怪我ばっかりして!!血は大事だってあれほど言ったじゃない!!!元気じゃないとコロッケも食べられないしパジャマパーティーも出来なくなるんだよ!!」


頬を膨らませるマコちゃんを可愛いと感じて思わず笑みが溢れてしまった。
それに対してマコちゃんが私の頬を両手でムギュッと押す。
ポコポコとマコちゃんが怒っているのが分かるがかわいいものは仕方がない。


「あ!?名前が羅暁達のせいで精神が壊れかけてただぁ!!??」


流子ちゃんが皐月様に大まかな説明を聞いたのか叫び声をあげた。
そして慌てて私に駆け寄りマコちゃんと並んで私の顔を覗き込み、私に異常はないか確かめるようにペタペタと触る。
慌てて大丈夫だと伝えれば流子ちゃんは心底安心したように顔を綻ばせた。

優しい笑顔に思わず自分も笑ってしまう。
こうして流子ちゃん達に心配してもらえる事が嬉しくて嬉しくて仕方がない。

そんな私達に好代さんがお皿とお箸を差し出してきた。


「ハイハイ、名前ちゃんも流子ちゃんもマコも、コロッケいっぱい食べて更に元気にならないとね」


お皿をそれぞれ受け取り、三人顔を合わせて少し微笑んで、コロッケが置いてある敷物へと足を運んだ。




□55




ワイワイとコロッケパーティーが始まった。

ぐるぐる巻きで手が満足に動かせなかったため、慌てて影に隠れて一人でなんとか布を巻き直した。
左手を見れば指5本全ての第一関節が糸のように綻び、もうほぼ形を成していなかった。
それを深呼吸して受け止めて、なるべく指の形を整えながら包帯を巻いていく。
これが中々難しくて時間が取られる。
なんとかもうすぐ巻き終わりそうな時、カツカツと歩いてくる音が聞こえた。
慌てて包帯を肩まで巻き直し、布を身体に巻き、来る人に対応するため佇まいを直す。



「…一人で大丈夫か?」

「!、つ、紬さん、すみません、一人でも何とかいけました」


隠れていた壁の向こうから現れた紬さんに慌てて笑顔で応対する。
この戦いになってから全員異常に肌色率が高いが、何とかして慣れなければいけない。
ああでも、紬さんも良いガチムチで私には堪らない筋肉なのでニヤケ顔を抑えるのに必死。
なるべく左手を見られないように前で手を組んで、わざわざ来てくれた事に対して感謝の意味を込め、軽く頭を下げた。
紬さんはそれに対して何も言わず、私を見つめる。
私は何かしてしまったのだろうかと思い色々と思い返してみるが、思い浮かばない。

紬さんは暫く黙って、ゆっくりと口を開いた。


「…お前の、言う通りだった」

「?」


紬さんはタバコに火をつける。
タバコを吸う仕草というのはどうしてこうにもフェチシズムに溢れているのだろうか。
紬さんの言葉を待ちながら、何のことかと考える。
毎度の事ながら紬さんは言葉が少ない。
でもそれに慣れて来ている自分もいる。
最初の頃は怖くて仕方なかったが、今となればなんともなくなっていることに驚きだった。
まあ、最初は紬さんの爆破に巻き込まれて死にかけたという衝撃の出会いだったわけだが、それはそれ、これはこれ。

紬さんはタバコを一つふかしてゆっくりと私に目線を向けた。


「…纏だけじゃなく、鬼龍院も選ぶと言っていただろ」


あの日のことを思い出す。
あの裸を見られた場所で紬さんと二人、自分のこれからを告げたあの日。
私は纏さんも皐月様もどちらも信じると、どちらも選ぶとそう決めた。
紬さんはきっとそのことを言っている。

わざわざそれを言いに来てくれたのか。
紬さんは本当に言葉が少ない。
彼はきっと私を褒めてくれている。
分かりにくすぎる言葉に思わず笑えば、紬さんが気恥ずかしそうに目をそらしたのが分かった。
すると、頭に手が乗って優しくぽんぽんと紬さんらしくない手つきで私を撫でる。
いきなりの事に目を丸くしていれば、紬さんは一瞬我に返ってそそくさと手をのけた。

「ありがとうございます」

思わずそうお礼を言えば、紬さんは一瞬目を見開いた後、タバコの火を消して不敵に笑う。
紬さんも本当に顔がいい。
とても男前だ。
そんな紬さんは私の左手に目をやった。
するりと左手を手にとって、ゆっくりと触る。
指先の事がバレたらどうしようと変に汗をかきながらそれを見ていれば、紬さんは私の顔色を伺ってくる。
きっと怪我をしたと思っているのだ。
本当に優しいなぁと思いながら大丈夫な事を伝えれば紬さんは最後に掌を優しくひと撫でしてゆっくり手を離して俯いた。

「…頼むから、無茶だけはするな」

まるで祈るような言葉。
紬さんらしくないその言葉に不安になって思わず顔を覗き込んだ。
紬さんは辛そうに眉間に皺を寄せていた。
なにかを思い出しているのだろうか、そんな当てずっぽうな事を思いながら大丈夫かと紬さんに声をかける。
案の定「大丈夫だ」と返される。
そりゃそうだ、大丈夫だと聞けば大丈夫と答えるに決まってる。
一番紬さんが安心する答えを探して咄嗟に左手で紬さんの手を握った。
そして思い切りぎゅうっと握力の限界まで紬さんの手を握る。
私なりの大丈夫のアピールだ。
怪我をしていると思っている左手でこれだけ強く握れば紬さんもいくらか安心するかもしれない。


「…握力弱すぎるだろ」


紬さんから珍しい笑い声が聞こえた。
滅多に見れない少しだけ破顔した顔を思わずガン見してしまう。
ほんと男前な人だ。
つられて思わず私も笑えば相手は小さく溜息をついて私の背中を押す。
早くコロッケ食べろとでも言わんばかりにグイグイと押されて私は慌てて紬さんと一緒に皆さんの元へと戻った。
すると私と紬さんを見ていた先生がするりとコロッケをお皿に乗せて現れる。
お皿を渡され座らされた私の隣に先生は紬さんも座らせた。
ニコニコと綺麗すぎる顔で私と紬さんの様子を見ている。
なんなんだろう、とても食べにくい。
紬さんも同じようで少し眉間に皺を寄せながらコロッケを口に運んだ。
それを見た先生はニコニコと表情を変えないまま唐突に口を開いた。


「二人、物陰でナニをしていたんだい?」


ブハッ!!と紬さんからコロッケが噴出される。
ああ、せっかくのコロッケが!勿体ない!という感情と汚いという感情が入り乱れるが、それを口に出す事はしない。
そんな事より先生の質問の意図が分からず私は首を傾げるしかなかった。
何をしていたと言われれば、私が包帯を結んでいたので、一人で大丈夫なのかと紬さんが顔を出してくれただけだ。

一言で言うとお話しをしていた。

ゲホゲホとむせる紬さんに慌てて水を差し出せば耳まで真っ赤な顔で一気に水を飲み干した。
よほど苦しかったのだろう。
暫くして落ち着いたのか紬さんはゆらりと立ち上がり先生の腕を掴みズルズルと何処かへ引きずって行った。

一体なんなんだ。今のは。

とりあえず自分もコロッケを食べようと一口口入れる。
思わず笑顔になってしまうその美味しさ、こんな美味しいコロッケを作れる好代さんは天才だ。


「苗字」


お皿にコロッケをてんこ盛りにした蟇郡さんが、私の隣にゆっくりと座った。
いきなりの至高の雄っぱいに私はコロッケが変なところに入り、先程の紬さんと同じ目にあう。蟇郡さんは私の背中をトントンと至って冷静に叩いてくれた。
優しい…。
蟇郡さんの優しさと眩いその肢体に思わず目がキュッとなる。
なんとか深呼吸してゆっくりと目を開ければ、蟇郡さんのお皿に目がいった。
コロッケがてんこ盛り、てんこ盛りなのだがそのコロッケの形が、これは。


「…マコちゃんコロッケ、ですか?」


そう呟けば蟇郡さんはその大きな手でマコちゃんコロッケをバッと隠した。
顔は真っ赤っかでダラダラと汗をかいている。

まさか、これは、そんな、そんな事って。

思わず私もテンションが上がり、口を抑えて蟇郡さんをガン見してしまう。
蟇郡さんは真っ赤のまま私から必死に目をそらす。
それでも私は何かしらの答えが聞きたくて蟇郡さんのガン見を続ける。

こんな、こんな殺伐とした状況でもちゃんと芽生えるモノがあるだなんて!
しかも私の大好きなお二人がそういう関係になったのだとしたら、私はこれほど嬉しい事はない。
未だに顔を反らし続ける蟇郡さんのその態度が何よりの証拠だと確信した私はだらしない笑顔でへんな笑い声が出た。


「えへへへへ…お二人がそうなったら私は嬉しいです」


そう呟けば蟇郡さんは小さく咳払いをして「何の事かさっぱり分からん」と顔が赤いままつっけんどんに言い放つ。
いつもは怖いハズのそれも今はただの照れ隠しにしか見えなくて私は更にだらしない笑みを深めるしかなかった。

こんな世界の危機でも芽生えるものはある。
その芽生えるものを続けていってもらうために、私はこの仮初めの力を使わなきゃ。

夕焼けの中、皆さんが和気藹々とコロッケに舌鼓を打つ目の前の光景。

なんだかよく分からないモノで溢れてるこの世界は、本当に美しい。