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赤い糸が覆う部屋。
そこに佇む赤い自分。
テレビに映る赤い友達。



「人衣一体!!!!」




光り輝く彼女が誇らしい。


テレビ越しに流子ちゃんが復活したのを見た。
以前より更に変身した姿が輝かしい友達を見つめてとても嬉しい気持ちになる。

それとは裏腹に意識はぼんやりとする。
生命戦維に意識をもっていかれるその感覚。
生命戦維である事を誇らしく思える嫌な感覚。
か細い意識が両側からグイグイと引っ張られた引きちぎられそうな感覚。

いやだ、いやだ。

必死で抗って目の前の画面に目を向ける。
流子ちゃんが針目さんと戦っている。


「何その友達ごっこ!!気持ち悪くて反吐がでる!!」

「ナメんじゃねぇよ!!」


ハサミがない状態でも針目さんと戦っている流子ちゃん。
この流子ちゃんなら、きっと勝てる。
そんな確信がある。


「友達なんてもんじゃ収まらねえ!!もっとワケよ分からねぇもんなんだよ!!
強いんだか弱いんだか分からねえ!気がついたら人の心ん中までズカズカ入り込んで来る女とか、服のくせに泣いたり笑ったり!本気で私を心配してくれるヤツとか!そんなワケの分からない連中が必死で私を助けてくれるんだ!!
私はそのワケの分かんなさに答えなきゃいけねぇえ!!!」


他人が聞いたら思わず吹き出してしまいそうなそんな言葉。
でも私には良く分かる、そんな言葉。

あの世界はそうだった。
本当、ワケの分からない人ばかり。

何も無かった私を掃除が出来るっていうだけで雇って、小汚くて近寄り難い私の手を握ってくれて、私のワケが分からない状況を理解してくれて、ずっと、ずっと、今まで、こんな情け無い私を助けてくれた。
守ってくれた。支えてくれた。



なのに、私は何も答えてない。



画面に見える友達にも、茶髪の可愛い友達にも、凛としたあの方にも、誰にも、なにも、答えてない。
あんなに守ってくれたのに、あんなに笑いかけてくれたのに、あんなに怒ってくれたのに、私はいつも逃げてドジして怪我をして、何にも出来ていない。
流子ちゃんが血を流しても側に居てあげられなかった、マコちゃんが駆け出してもそれに付いてもいけない、皐月様の事だって守れなかった。
私は、なにをしてるんだ。
いつまで、いつまでウジウジしてるんだ。
何回挫ければ迷えば気がすむんだ。


あの手を握り返したじゃないか。
前を見ると、誓ったじゃないか。


ばちんともっていかれそうだった意識がしっかりと戻る。

戻らなきゃ。

戻ったところで私の運命は変わらない。
もう未来は変わらない。
でもそれでいい。
答えられないよりずっといい。

生命戦維が効かない事には変わりない。
なら私はこの身体を使って盾になって出来うる限りの人を生命戦維から守る。
最後には化物になったって、答えられた後ならそれでいい。

化物になって、そんなワケの分からない者達に殺されるなら、私は、それがいい。


ドロドロと画面から出続ける生命戦維。
入り口はここしかない。
今の私は意識だけ。
なら身体はあっちにある。

意を決して画面に飛び込む。
画面から出ようとする生命戦維に逆らってひたすら進む。
意志が飛び込んでくる。
やめろ、やめろと。
どこへ行くと。
そんな声知った事ではない、近いうち同じ場所に行くんだから今は黙って見ていて。

目の前が真っ赤に輝く。
溺れそうな光に包まれて、私は意識を飛ばした。







54





遠くで何かがぶつかり合う衝撃音が聞こえる。
それは段々と大きくなって、私の意識を揺さぶりだした。
重たい瞼をゆっくり開く。
青い空を切り裂く斬撃と赤い色。
一瞬で今が戦闘中なのだと理解出来た。


「鳳凰丸!!!!」


空で起きた爆発と同時に皐月様の声が響く。
その声で覚醒し、目を覚ます。
なんとか身体を動かそうとしたが、身体が固まって動かない。
意識をあちらに飛ばしていたからだろうか。
目だけで生命戦維化していた人差し指を確認する。
ちゃんと片方の手で握りしめているようで一安心した。
身体は誰かが白い布を巻いてくれたようでそれに対しても一安心だ。

目だけ動かせば大量の人型カバーズから四天王や紬さんが沢山の人達を救い出しているのが見えた。
ああ、良かった、本当に、皆さん無事だ。
良かった。


「おお…!苗字様…お目覚めになられましたか…!」


ひょっこりと皐月様お付きの執事の揃さんが酷く安堵した顔をして私の顔を覗き込んだ。
横たわっていた私の身体をゆっくりとお越し座れるように壁へともたれ掛けさせてくれた。
ご老体にこんな事をさせて申し訳ない限りです。
お礼を言いたくて何とか口から言葉を発しようとすれば掠れた声だが何とか発音できた。

それを聞き取ってくださったのか揃さんは優しく微笑んで「こちらこそ、貴女が無事である事に感謝をさせてくださいませ」と布を肩までかけてくださる。

本当どうしてこんなに優しい人達ばかりなんだ。

無意識に出る涙を揃さんはハンカチで優しく拭き取ってくれた。
やっと身体や顔が解れて来たのか私はそれに微笑んで再びお礼を言った。


「裁縫部は生命戦維を回収!!至急ラボに運べ!!」

「回収完了」


伊織さんと犬牟田さんの声が響いてそちらに顔を向けた。
二人は忙しそうにバタバタと動き回っている。
他のところにも目をやれば、他の人達も救い出した人達を手当てしたり後処理に追われていた。
遠目に皐月様と流子ちゃんの姿も見える。
二人とも無事で本当に良かった。
本当に。


「やだ!名前ちゃん!!あなたも吸い込まれてたのね!?」

「何っ!?名前ちゃんまで!?よし!母ちゃん!急いで手当てするぞ!」


いきなり目の前に現れた薔薇蔵さんと好代さんに思わず身体を跳ねさせる。
私がカバーズに吸い込まれていたと思ったのか慌てて包帯を取り出し、私を覆っていた布ごと包帯でぐるぐる巻いていく。
あまりの早業に抵抗出来ず、なすがままで、終わった時には私は足こそ自由だがぐるぐる巻き状態だった。
まあ服みたいになってるし、何より手が見えないなら結果オーライか。
二人は私の身体を支えてゆっくりと立たせてくれる。医務室で休むかどうか聞かれたが、私はやんわりと拒否して流子ちゃん達がいる方へ足を進めた。
いつのまにか太陽は沈みかけていた。


「純潔はどうしましょう」

「一旦拘束しろ」

「消去しなくていいのか?」



皆さんの所に辿り着いて一番後ろに佇む。
伊織さんの問いかけに答えた皐月様の答えに紬さんが再び問いかけた。



「まだ戦いは終わっていない」



皐月様の凛々しい後ろ姿が沈む夕日も相まってとても美しく見える。
その皐月様にまだ人衣一体した状態の流子ちゃんが厳しい口調で皐月様に話しかける。


「着るつもりか?また。
テメーに着こなせるのか?そのバケモンを」

「同じ失敗は二度と起こさない」

「鮮血と人衣一体出来なかったお前がか?」


一部始終を見ていなかった私にはあまり理解出来ないが、皐月様は鮮血を着て戦ったが着こなす事が出来なかったそうだ。
流子ちゃんの厳しい問いかけを聞き、その後の皐月様の答えを待つ。
そして聴こえてきたのは皐月様のものではない声だった。


「止せ流子、皐月もお前を止めるために命をかけたんだ」


この声を聞いた事がある。
聞き覚えがあるのは今まで沢山のアニメを観てきたためでもあるが、今回のそれは聞こえてくるハズがない。
その声は今たしかにこの場の空気を通して私の耳に届いた。

鮮血。

流子ちゃんにしか聞こえないハズの声が私にも届いた。
それはきっと自分が生命戦維と化しているから。
それが一瞬で理解出来た。


「だからどうした、今まで散々デカイ面してきた説明にはならねぇ」


会話になっているその流れに私は先程聞こえたのが鮮血の声なのだと改めて確信する。
ああ、流子ちゃんはずっとこうやって会話をしていたんだ。
でもコレは他の人にバレてはいけない。
何故鮮血の声が聞こえてくるのか説明しないといけなくなる。
それだけは避けたい。


「……私に何を求める」

「一発殴らせろ」

「流子!」

「私が本気で殴ってそれでも立っていられたら一緒に戦う力があるって認めてやるよ」


皐月様と流子ちゃん二人は会話を続ける。
私はそれを薔薇蔵さん達の後ろで見つめる事しか出来ない。
鮮血の静止も聞かず、話を続ける流子ちゃんにそれを黙って聞く皐月様。
少し物騒になってきた流れに私は思わず手に力が入る。
それを聞いていても立ってもいられなくなったのか、流子ちゃんの斜め後ろにいた先生が慌てて声をあげた。

「流子君!それは無茶だ!人衣一体化した君の本気の攻撃を受けたら生身の人間は死ぬぞ!」

「普通の人間じゃねぇ、鬼龍院皐月様だろ?」


先生の制止も意味なく、流子ちゃんは更に皐月様を煽る。
それに対して後ろを向いていた皐月様は暫く黙った後、ゆっくりと流子ちゃんに向き合う。
そして力強い目戦をこちらに向けてゆっくり口を開いた。


「…わかった、殴れ。敵は鬼龍院羅暁だ。ここで倒れるようならこの戦いとても勝ち目はない。
お前の拳、受け止めてみせよう」

「口先だけじゃない事見せてみな!…いくぜ!」


皐月様の承諾に流子ちゃんの声が少し弾んでいるのがわかる。
本当に本気で殴るのかと思うと止めずにはいられないが、これも二人の覚悟のやり取りなのだと思うと私なんかが口を出して良いものでもない。
私はただ行く末を見守るしかないのだ。
不安で少し唇を食いしばる。

流子ちゃんが拳を握りしめて構える。
直ぐに殴りかかるのかと思えば少しだけ間を置いていた。
いつ来るかわからない拳を皐月様は目を開けて堂々と待ち構える。
流子ちゃんがグッと拳を更に強く握りしめた瞬間、叫び声と共に皐月様に殴りかかった。


「ぅぐっ!!!?」


皐月様のモノとは思えない野太い唸り声。
それもそのはず流子ちゃんの拳を顔面で受け止めたのは蟇郡さんだった。
一瞬の出来事に頭が付いて行かず、吹き飛ばされこちらにお尻を向けて倒れている蟇郡さんの身体をチラ見する事しか出来ない。
逞しいお尻を拝見してしまってニヤケが止まらない。空気を読んで私。
皐月様は蟇郡さんの名前を呼び、流子ちゃんは「てめっ!邪魔すんな!!」と叫び、再び拳を握りしめて皐月様に殴りかかった。


「ぐあっ!!!」


今度こそ拳は皐月様に届くかと思えば、次は猿投山さんが流子ちゃんの拳を顔面で受け止めた。
そして勢い良く転がり下半身丸出しの状態で倒れこむ。
私は瞬時に顔を反らした。



「何なんだテメェ等!!!」

「俺を愚弄するのか、纏ィ!!!」

「な、何ィ!?」


むくりとほぼ同時に起き上がった蟇郡さんと猿投山さんに流子ちゃんが苛立った声をあげた。
それに対して蟇郡さんはめり込んだままの顔面で流子ちゃんに勇ましく向き合い叫ぶ。


「それがお前の本気の拳かと、聞いている!!!」


めり込んだ顔面がムイッと元に戻り、いつもの精悍な顔立ちの蟇郡さんの顔が現れる。
その顔はとても怒っていて皐月様の前に堂々と立ち流子ちゃんに向き合っていた。
猿投山さんも同じで仁王立ちのまま流子ちゃんに向き合う。


「ああ!そうだ!!」

「笑止!!だったら俺達は何故生きている!!」

「本気なら生身の人間は死ぬんじゃなかったのか!?」

「テメェ等が割り込んで来たからじゃねぇか!」

「言語道断!!割り込んで来たから手を緩める!その程度の女に皐月様を殴る資格はない!!!!」


流子ちゃんの拳に怒っている蟇郡さんと猿投山さんが声を張り上げる。
キリがない問答に「逆ギレしてんじゃねぇ!」と流子ちゃんが少し呆れたように叫んだ。
私は二人の殴られた顔が痛くないのか心配で気が気ではない。
吹っ飛んでいたのだからそれなりに痛いハズなのに凄い。
流子ちゃんの声に猿投山さんが顔を鋭くさせながら叫ぶ。


「逆ギレじゃねぇ、マジギレだ!!!そんな中途半端な拳、皐月様に触れさせてたまるか!!!」


猿投山さんの叫びに更に蛇姫様と犬牟田さんが二人の横に加わった。
それを見た皐月様は四天王の方達の行動を全く予想できていなかったのか「お前たち、なにを…!」と驚いたように声をあげた。
その声に四天王の方達は答える事なく、凛然と立ち、皐月様の前から一歩も動かない。


「私達の顔は皐月様の顔!私達の手足は皐月様の手足!!この方のためなら砕かれても切り落とされても悔いはない!!」

「ただし!この手足!勝手に動くから結構しぶといよ!」

「俺達本能寺四天王は皐月様の最強の矛にして最強の盾!!」

「皐月様を殴りたければ我々を殴り倒せ!だが!そう簡単には跪かんぞ!!!」


確固たる絆と忠誠。
ここまで美しい忠誠心をこれから先見ることなどないだろう。
それくらいに美しいモノだと感じた。
開いた口が塞がらない。
勇ましく流子ちゃんの前に立ち、その場から動かない。
皐月様のためにこの場にいる四天王の方達の覚悟がここまでとは思っておらず、私は自分の考えの浅さに恥ずかしさしか覚えない。

流子ちゃんもその迫力に思わず狼狽えたのが分かった。


「なんなんだよお前等!ワケわかんねぇよ!………あ…」


流子ちゃんは何かに気づいたように身体を反応させた。
それが何なのか、それはどんな事なのか分かっているのか四天王の方達は口角をあげる。
私も分かったそれに、思わず開いた口を綻ばせた。


「ワケ分かんない連中に守られてんのは、お前もおんなじか…」

「どうやら…そのようだな」


流子ちゃんの独り言のような呟きに皐月様は微笑み口を開く。
それを合図とでも言うように前に立っていた四天王の方達が一斉に横へ掃けて、皐月様の道を作った。
皐月様はその道をゆっくりと歩きはじめる。
コツコツと心地よいヒールの音が響いた。


「私は羅暁に勝つためには全ての人間を自分の駒の様にして動かさねばならない、そう思っていた。

…お前の事もそうだ、鮮血を着て現れたあの時から、羅暁達に対抗するための大きな戦力の一つとして育てる事を考えた。

父親の仇と私を狙わせて、お前の力と鮮血の力を計った。お前が神衣に飲み込まれる事もなく、自分の意思を持っていられれば羅暁のクーデターの時に必ず役に立つ、お前に真実を伝えなくても、上手く誘導して羅暁への戦力に出来る、と…」

「テメェ…」

「だがそれは大きな間違いだった。結局私も羅暁と同じやり方をとっていたのだ。それでは勝てないのも当然だ。
…一番愚かだったのは、私だ」


皐月様が自分のしてきた行いを恥じるように悔いるように少しだけ目線を伏せた。
たった一人で始めた戦い。
一人の女の子が背負う規模ではないその重さ。
でも皐月様だからこそここまで来れたその事実。
自分のしてきた事を反省し、声にする。
これほど上に立つのに相応しい人はいない。




「……いま分かった。世界は一枚の布ではない。

なんだかよく分からないモノに溢れているから、この世界は美しい。」




風が吹く、皐月様の言葉を乗せるように穏やかに。
その思いもその気持ちも届いてくる。
以前の皐月様とは違う。
凛々しいのは変わらない。
強く美しいのも変わらない。
ただ少しだけ何かが生まれた。

余裕だろうか。
何かを誰かに任せる余裕。
そんな感じがする。
発せられる言葉は以前より温かくて柔らかい。


皐月様はその身体をゆっくり曲げて、流子ちゃんに頭を下げて、そして、再び声をあげた。



「その世界を守るため、一緒に戦ってくれ!流子!」


光が満ちる。
それは夕日と皐月様の後光が合わさってより眩しいモノに変わる。
その光の中に赤い光が灯って流子ちゃんがいつものセーラー服へと戻った。

そして、少しだけ顔を照れさせ頬をかきながら流子ちゃんは口を開く。


「ハッ、謝る時も大袈裟だな、てめーは。
………殴る気も失せちまった」


姉妹である女の子二人の喧嘩はぎこちない和解で終了した。
出会った時から数ヶ月。
長い長い二人の喧嘩はこれ以上ない絆を結んでくれたように思う。
姉妹ゲンカは親子ゲンカへと発展するワケだが、この二人が居れば何とかなると、そんな気がしてきた。

二人の和解に周りの皆さんも顔を綻ばせて見つめる。



「私も守りたい連中がいる。あの行きすぎた母親を止めるのに、依存はねえよ」



流子ちゃんの心地よい声が、私の心に染み渡った。