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何も見たくない
何も聞こえない
私はココに居たくない。

暗闇の中私は佇む。
絶望で現実を拒否した私は夢の世界に逃げていた。
夢といってもそんな華やかなものでなく、ただ暗闇の中一人耳を塞ぎ目を閉じて座り佇むだけ。


現実から目を背ける。

指先が糸のようにほぐれている。
ああ、いやだ、見たくない。
私は化物になんかなりたくない。
人として生きたい。
でももう人でもない。

唯一の武器はただの見せかけだった。
着こなせなかったハズのモノはいつの間にか私を蝕んで私という異物を排除しようとしていた。

この力で保てていた存在価値。
これが無くなった私は本当に何もない。
使わなければただの足手まとい。
使ってもその先は、化け物に成り果てるだけ。


どうすれば良い。


帰りたい。
何もなかったあの世界に。
帰りたい。


指先の赤い光が強く光る。
隠しきれない光が私を包む。
ミシミシと身体の中が締め付けられるように軋む。
光に思わず目を瞑るが、まぶたの裏からでもわかる眩さに眉間に皺を寄せた。

目を閉じているハズなのに目の前に何かがボンヤリと浮かぶ。
揺れるその光景に酷く懐かしさを覚えた。

ああ、あの景色を私は知っている。

帰りたかった場所、家。
私が本来いるべき世界。















気づけば私はそこにいた。

ぽつねんと部屋の真ん中で一人佇む。
ああ、私の部屋だ。

窓際にベッドがあって、近くには小さなサボテンがあって。
ベッドから見える位置にテレビを置いてた。
そう、これだ。私の部屋。

久々の自分のベッドにダイブしようとするが身体が動かない。
よくよく見れば私の身体は無く、意識だけが部屋に飛んできたようだ。
言うなれば幽体離脱のようなものなのだろうか。

まだ帰れないのか。

突きつけられた絶望感。
あの世界にいれば確実に私は死ぬ。
あの世界の住人じゃないのに、私は死ぬ。

どうしたら良いのか分からない。
このまま何も無かったことにしてこの世界に戻りたい。
意識だけの状態で私は部屋を動き回る。
ふとテレビに意識が向いた。

ぼんやりとテレビの前に何かが見える。
意識を集中させてそれを観ていればそれが何か私は気付いた。

「わたしだ…」

あの時、キルラキルを観ていた私がそこにぼんやりといた。
これは記憶なのだろうか。
今はもうボロボロになった部屋着がとても綺麗だ。今より結構太ってる。
そして観ているテレビの画面にはキルラキルの一話。

記憶だ。

そう確信した私はじっとそれを見つめた。
するとテレビを観ていた私はこてんとその場にうつ伏せになり寝始める。
そう、私は一話の途中で寝てしまった。
そして朝起きたらキルラキルの世界にいたのだ。

ふと違和感がよぎる。

さっきこの光景は記憶だと確信した。
この記憶は私の記憶であるはずだ。
だったら、寝てしまった段階で私の記憶はそこで途切れてしまうハズなのではないのか。
寝てしまった以降のこの光景が見えているのはおかしいのではないか。

ならこれは、この光景は、誰の、何の記憶?


ズブリと、テレビが鈍く光った。
画面から一筋の赤い光が儚く落ちる。
それは軽く軽やかに私の周りを舞い、そして首元に落ち、しばらく経つと散っていく。

嫌でも覚えのあるそれに私は思わず首元を抑えた。

私の首元に落ちた赤い光が消えて数秒もたたないその時、テレビから雪崩のように赤い光が押し寄せた。
それは瞬く間に私を包み儚く散りながらも私を覆っていく。
側から見たらそれは捕食のようだった。
そしてそこからまた数秒後、私の姿は消えていた。

目の前の怒涛の光景に呆気にとられ思考が定まらない。
私があの世界に行ったのはすべては生命戦維のせいだと分かり、私はその場で呆然とする。

アレは、何故、私を。

理由なんて分からない。
むしろないのかもしれない。
それこそあの世界の生命戦維は人であれば全て食らってきたではないか。
そうだ、そういう生命なのだ。
その世界の生き物に寄生し、食らう事で繁殖している。

テレビは一話を映し終わり、一瞬世界がブラックアウトした。
それは一瞬で、すぐに自分の部屋へ戻る。

テレビは知らない場面を映しだしていた。
まるで時が進んだようだ。


すると再び赤い光がずるりと画面から出てくる。
光は何かを求めるようにフワリと浮いてそのまま窓の隙間から外へ出た。
嫌な予感がして窓からそれを目で追えば、たまたまその下の道路を歩いていた男性の首へと落ちて儚く散った。

背筋が凍った。

慌ててテレビに意識を向ける。
フワリフワリと次から次へ赤い光は出てきて外へと旅立つ。


ダメ!!!!


慌てて窓の隙間を閉めようとあるはずのない手を伸ばすが触れる事が出来ない。
隙間からどんどんと出て行く赤い光。

私のテレビが、入り口になってしまっている。
生命戦維が、化け物が、この世界にまで、侵略しようとしてきている。

何がキッカケなのかは分からない。
分かるわけがない。
何で私の世界へ、私のテレビを通して来ているのかも分からない。
分かるわけがない。

ただ、私は知っている。
この糸がこの赤い光が人をどうするのかを知っている。

親、兄弟、親戚、友達。
この世界の大事な人が一瞬にして頭をよぎる。


いやだ、やめて



願い虚しく、赤い光はどんどん窓から出て行く。
どうしたら、どうしたらいい。
どうすれば、コレを止められる。


すがるように画面を観た。
画面には観たことがない場面。
大きな戦艦の上で爆発が上がっていた。
そのまま続きを観れば、そこには我が目を疑う光景。

流子ちゃんと皐月様が戦っていた。
皐月様が鮮血を着て、流子ちゃんが純潔を着て。

あり得ない筈の光景に意識を画面に近づける。
その間も赤い光は絶え間なく出てきては儚く散りながらも外へと飛んでいく。

暴走している流子ちゃんを皐月様や四天王の皆さんや先生や紬さん達が必死に止めている。
流子ちゃんの着ている純潔は流子ちゃんの生命戦維に直接縫い付けられていて無理やり脱がそうとすると流子ちゃんがショックで死んでしまう、とさえ言っている。
流子ちゃんが暴れる。
皐月様や鮮血や四天王の皆さんが傷だらけになる。

皆さんが危ない。
でも、私の世界の人達も危ない。

ぐるぐると意識が回る。
どうしたら良いのか分からない。
どうしたら。


『まだ分かんないの?ただの人間が勝てるワケないのに』


画面から縫さんの声が聞こえる。
可愛らしい、残酷で、人を追い込む声。
あの籠の中に居た時と同じ。

そうなのかもしれない。
現に私だって生命戦維にあんな姿にされてしまった。
足掻いたところで私の行き着く先は死しかない。
化け物になるしかないのだ。


『だが心の刃は折れてはいない!!』


皐月様の声が聞こえる。
凛々しく、強く、人を立たせる声。


いつだって貴女の声は言葉は人を導く。
戦えと、皐月様は言っている。
裸になろうと手足が千切れようと戦えと。
諦めて媚び諂う奴隷になるなと。

皐月様の言葉について行きたい。
一緒に戦いたい。

でも、今の私は、化け物で、何れは皐月様が殺すべき存在で。
どんな顔して会えばいい。



『我々は!!!勝つ!!!!』



皐月様は迷わない。
きっと迷わない。

私が化け物になるしかないと分かればきっとその時は躊躇わない。
そんな事、分かってる。

これはそういう戦い。

次から次へと赤い光が画面から出てくる。
それを力無く見つめる。
意識だけのはずなのに涙が出てるように感じる。

テレビの前で、部屋中に意識を飛ばして、テレビから出てくる生命戦維をひたすら見つめる。
出てくる生命戦維は私の周りを挨拶でもするようにくるりと回り窓から外へと出ていく。
意思を感じた。
意志が流れてきた。



ああ。

そうか。



顔なんてないくせに、力無く私は笑う。
あの記憶は生命戦維が見せていたもの。
その記憶を私は共有しただけ。

まだ身体という器があるけれど、身体の中を生命戦維が蝕んでいる私は、生命戦維になりかけの化け物だ。

私のせいだ。
私は実験体なのだ。


繁殖する事に労力は惜しまない。
この生命は、この化け物は。
生きてその命を紡ぐためならどんな力を使ってもその触手を伸ばす。
それが世界が違っていようがなんであろうが、宇宙を超えるその力であり得ない事をあり得る形にする。

例えば、たまたまキルラキルを観ていた異世界の人間を、一時的に自分の世界へ取り込む。
そして、その人間を利用して、取り込める生命を更に増やす。


実験は大成功。



願ってしまった。

戻りたいと、願ってしまったから。
私を通して、この世界とあちらの世界が再び繋がってしまった。
異世界の身体に異世界のモノを取り込んだ唯一の存在。
わたしの身体があちらの世界とこちらの世界を行き来する橋になってしまったのだ。

窓の外を出ていく赤い光を見つめる。


私は、生命戦維として、この世界に戻ってきてしまったんだ。