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ここは本能字学園のどこかは分からない。
窓がないことから地下であることは間違いはない。
まるで、闘技場のような場所にカバーズが密集していて、数時間前に私はその中へ裸のまま放り込まれた。
この力を持つ私を何故直ぐに殺さないのかは謎だ。

身体を隠す暇もなくカバーズは襲ってきて、私を取り込もうとするが肌に直接触れているため時間がたてばバラバラになって消えていく。

この繰り返しを一ヶ月間毎日行なっている。



「……さて、そろそろ少し趣向を変えてみようか」



それを高みの見物で私を見つめる理事長は恍惚とした顔でボソリと呟いた。


しかし、私はそんな事知ったこっちゃないとまとわりつくカバーズ達を押し退ける。時間が立つとバラバラになって行くが次から次へと纏わり付いてきてキリがない。

一刻も早く皐月様をお助けしなければ。
私を取り込もうと次から次へと糸が絡みつく。

時には中に取り込まれたりもしたが、時間が立てば取り込んだカバーズ達は塵となり、私は地面へと落ちる。
そしてまた糸に絡みつかれる。
数時間それを繰り返しっ放しだ。

再び一本の糸が私を上にと引っ張る。

その瞬間、そのカバーズはチリのようにバラバラになった。。

違和感が身体を走った。

私のこの力は生命戦維が多い程時間が発生するはずだ。
なのに今の今まで私に触れていなかったハズのカバーズが一瞬でバラバラになった。
生命戦維の塊のハズなのに。
なのに、何故。

ぐるぐる考えている暇もなくカバーズが私へと糸を伸ばす。
しかし、私に触れた瞬間、カバーズはどんどん崩れていった。

これは、もしかして、バラバラにする力が強くなっているのでは。

仮説をたてていれば、いきなり大きな影が私を暗くする。
見上げれば、そこには布型のカバーズではなく既に人を取り込んだ人型カバーズ。
その腕は大きく振りかぶられていて、瞬間的にヤバいと思い思わず後ろへ飛んだ。
ドゴンという音ともに腕は振り下ろされ地面が抉れる。
あんなの身体にくらったらひとたまりもない。
いつの間にか布型カバーズはいなくなり人型カバーズ一体だけがそこにいた。
冷や汗が身体を流れる。
布型カバーズであれば攻撃性はないため私の力で簡単にバラバラに出来るが、これはワケが違う。
攻撃性があり暴れるため、私のこの能力とは相性が悪い。
流子ちゃんや皐月様達であれば大立ち回りをして数分間ぐらいあれに触れ続ける事は可能だろう。
でも私は皆さんのような身体能力があるわけではない。むしろ一般的な運動能力の基準値にも達していない。
このままでは攻撃をくらって死んでしまう。

でも、もし、さっきたてた仮説があっているならば。
一瞬でいい。
一瞬でいいからアイツに触れることができれば。



「どうした?戦わないと死んでしまうよ?」



ニヤリ。
この擬音に相応しく、理事長は笑う。

死ぬわけにはいかない。
皐月様を助けられるのは私しかいないんだ。
震える足を殴る。
怖い怖い怖い怖い。
けど、前を向かなきゃ。
下を向いちゃだめ。
強くありたいなら、前を向くんだ。

人型カバーズがまた大きく腕を振りかぶる。
私は必死で走り転げながらもそれを避ける。抉れた地面から石が飛んできて私の身体を攻撃する。
痛いが直ぐに立ち上がり、人型カバーズを見つめる。

冷静になれ、落ち着け。
私で避けれるぐらいなんだ。
つまりそこまで攻撃のスピードは早くない。

また人型カバーズが腕を振りかぶる。
瞬間、私は走り攻撃を転げることなく何とか避けれた。
大丈夫、いける。
不思議だ身体が軽い。
私はチャンスと言わんばかりに人型カバーズの足元へと全力で走る。

皐月様を助けるんだ。

しかし、人型カバーズも馬鹿ではなく、私の行動を読んでいたのか、蹴りを放つ。
いきなりの事で反応出来ない。
ヤバい。
なんとか避けようと右に少し飛んだが遅かった。
左腕が変な音をたてあり得ない方向へ曲がったのが分かった。
瞬間、そこだけ燃えたように熱くなり、尋常ではない痛みが駆け巡る。
蹴られた反動により数メートル先へ飛ばされる。
あまりの痛みに叫び声をあげる。
意識が飛びそうだ。
次の攻撃がきてしまう。
なんとか、なんとか避けなければ。
しかし、待てども次の攻撃はやってこない。
何故かと思い痛みで薄れる意識の中何とか顔を上げ、様子を見た。

そこにカバーズはいなかった。



「…“La vie est drôle”」



カツンと音が鳴る。
虹色の光と共に理事長が現れる。
今、なんて言ったんだろうか。

痛みで冷や汗が止まらない。
息も荒くなる。
それでもなんとか身体を上げて理事長を見つめる。



「君が探していたカバーズはここだよ」



理事長がグリッと地面にある塵を踏む。
側には取り込まれていたであろう人が転がっていた。

バラバラに、なっている?

確かにあの人型カバーズは私に触れた。
けど触れたといっても左腕を蹴ったその一瞬だけで時間で言えば1秒もいっていない。




「…ん?どうした?私は何もしてはいないよ?確かに先程のカバーズは君の"力"とやらで確かに塵になった」



つまり、やはり、私の力が、成長したという事。
仮説は合っていた。
私の力が成長した。
そうであればこんなに嬉しい事はない。
一瞬触れただけで生命戦維を破壊出来るようになったんだ。
これなら、皆さんの力になれる。
やっと、足手まといから脱却出来る。
痛みを一瞬忘れその事が嬉しくて思わず力無く笑う。

すると、理事長のクスリと笑う声が聞こえた。


「この星は生命戦維で成り立っている。
人類に服を与え人類は服を着るために産まれてきた
人類は生命戦維のエネルギーだ。
そしてこの星は生命戦維に着られるために存在している。
そう、つまりは、身体と呼ぶに相応しい」



いきなり、話し始めた理事長の言葉を黙って聞く。
何を言いたいのか全く理解できず私はただ見つめるだけ。



「しかし、お前はその身体に無断で入り込んだ。
謂わば、ウイルスだ」



ガッと頭を掴まれる。
そのまま髪の毛を引っ張られ上を向かされる。
思わず理事長を睨みつけた。
そんな理事長は満足そうに私を見つめていた。
そしてゆっくりと口を開く。








「お前は、身体に入り込んだ
ウイルスがどうなるか知らないワケじゃないだろう?」








ドクンと心臓が鳴った。
待って。
この人は何を言っているんだ。
何を、言っているんだ。





「身体は己を犠牲にしながらウイルスを攻撃し徐々に弱らせ、そして、消滅させる。」





汗が止まらない。
目がそらせない。

声が出ない。





「お前は『触れると生命戦維を無力化出来る』のではない。
お前は『触れる度に生命戦維に攻撃されていた』のだよ」






身体が動かない




「っ、ちが…!そんなこと…!!だって生命戦維はバラバラになって…!」


口が渇く。
それを何とか湿らせて、声を絞り出した。
バサリと音が鳴った。
私に影がさす。
見上げれば其処には金髪のツインテールが目に入った。


「まっだ分かんないかなぁ〜?
アレは、バラバラになることで小さな小さな塵となって君の中に少しずつ侵入してたんだよ?
侵入した生命戦維は君の身体を…君の細胞を徐々に蝕み、取り込んで、生命戦維に作り変えていく…僕たちとは違う…真の融合…」


その言葉に目を見開く、
呼吸が上手くできない。



「キミがどうなるかって?そんなの決まってるじゃない!
おめでとう!キミは生命戦維になるんだよ!」




嘘だ、嘘だそんなの
私が生命戦維になる?
私が消滅する?
そんなの、そんなこと



「うそだ!!!!!」



思わず叫べば目の前にいる二人はまたもクスリと笑う。
そして縫さんが私を指差す。



「その腕を見て、まーだそんなこと言ってるの?」



腕、腕。
ああ、なんで、なんでだ。
痛みがない。
あんなに身を割くような痛みを、全く感じない。
恐る恐る、左手を見る。
折れてぐちゃぐちゃだった筈の腕は綺麗に治り、腕の中の筋肉や血管が赤く光輝いていた。
なによりも、我が目を疑ったのは、人差し指の先。
第一関節、爪があった筈の指はまるで糸のように綻び、形としては余りにも不安定だった。
その指を慌てて抑える。




『…随分と怪我の治りが早いようだね』



犬牟田さんの言葉が頭によぎった。
ふと今までの怪我の数々を思い出す。
痛みこそあったものの肋骨の治りの早さや頭の傷の治りの早さ。
全て医者の腕が良いからだとばかり思っていた。

生命戦維。


頭によぎる理事長の異常な回復力。
生命戦維が身体に取り込まれた事による再生能力。
それは、顕著に現れていたのだ。




「い、いや…!いや…!!」




ぐりっと左腕に何かが触れた。
それを見れば彼女が普段持ち歩く傘で
私の左腕を突いていた。


「とってもとーってもいい感じ!
羅暁様!今の見た!?」

「ああ、もちろん見たよ縫。
まさか人間の真の生命戦維化…それが見られるとは」


言葉が出ない。
思考が回らない。
誰か嘘と言って。
私は、私は。
いやだ。いやだ。
そんなの、そんなの嫌だ。



「キミは真理の生命となるのだよ。誇りに思いなさい。」




誰か、誰か、
誰か。



「そうだな、これからも毎日、生命戦維を君にプレゼントしようか。
生命戦維を取り込めば取り込む程、君の身体を蝕む時間は早くなるようだ
ああ、安心しなさい?
一日中拘束したりはしない
私にも慈悲はあるからね」

「そーんな事言って、羅暁様ったら!
生命戦維になる過程をじっくり見て楽しみたいだけでしょー?」



クスクスと響く笑いに只々涙が流れる。
希望が見えない。

希望が持てない。

目の前が真っ暗だ。

私はそのまま目を瞑り、
逃げるように意識を手放した。