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「#エロ」のBL小説を読む
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「苗字を置いてきただと?」



蟇郡苛はその双眸を大きく開かせた。
自分よりはるか背が低い女の同僚は隣を歩きながら蟇郡の聞き返しに頷く。
その同僚から聞かされたのは耳を疑うものだった。


「皐月様にはどう伝えた」

「どうもこうもありのままよ。
"バイトが裸の猿共に肩入れしたので裏切り者として処罰した上で大阪に置いてきました"って。
皐月様もちゃーんと了承済みよ」


蟇郡は「そうか」と呟き歩を進める。
二人のした事に対して異論はなく、
本来ならばそれを行うべきは風紀部委員長である自分の役目だとさえ蟇郡は思う。

来るべきその時までは、彼女の存在を隠すべきなのだろう。

蟇郡は小さく溜息をつく。
その溜息の差中頭によぎったのは、かつて自分が見た光景。
ボロボロの彼女が縮こまって攻撃を耐えるあの光景。

嫌な予感が蟇郡の頭の中によぎり、それを掻き消すように小さく頭を振る。


「…まさかな」

「ちょっと、独り言なんてやめなさいよ」


よく怪我をするメイド服の彼女が、
更に酷い目に合うのではないか、と
そんな予感が拭いされない蟇郡の不安は蛇崩の言葉によって掻き消された。







45









「だ、大文化、体育祭?」




部屋は暗闇。
その代わり目の前のモニターが暗闇を照らし、そのモニターはとある映像を映し出している。
それは本能字学園。
あらかじめ、先生達が学園にしかけていた監視カメラからの映像だ。
そしてその映像から「大文化体育祭」を行う情報を得たのが今。
ちなみに私の前にはマコちゃんが可愛らしい顔で寝ている。


「鬼龍院羅暁?」

「鬼龍院財閥の中心的存在であり、今はREVOCS社の最高経営責任者として、生命戦維を含んだ服を世界中に売りまくっている」


つまりは、この方は皐月様のお母様ということになるのか。
雰囲気が似てるような似てないような…。
しかし、眩しくて見れないのは同じだ。

画面を見つめ、皐月様のお母様…もとい、理事長の顔を見つめる。
白い髪には虹色の光。
それに合わせたような白い綺麗な服と、美しい顔。
しかし、少し怖そうな方だ、と失礼ながらに思ってしまった。
そんな事を考えていれば映像が切り替わる。
画面はトラックが次々と本能字学園へ入っていく様子が映し出された。
ワケが分からずそれを見ていれば紬さんが気付き喋る。


「これは何だ?大量の生命戦維を運び込んでやがる…何のつもりだ…」

「…!まずいぞ…奴等は本能字学園で最後の実験をするつもりだ…!」


紬さんの次に口を開いた先生は焦ったように画面を見つめる。
それを聞いた流子ちゃんがどういう事だ?とでも言うように声を上げた。


「本能字学園は実験都市だ。
人間の生命戦維への耐性を研究するため作られた極制服とそれを武力転用して、全国の学園を支配し最も生命戦維への耐性が強い十代達に強制的に生命戦維入りの服を支給する
…それが完了した後、本能町に集められた人間達は生命戦維の生贄となる」

「生贄!?」



流子ちゃんが叫ぶ。
生贄という言葉に私は思わず口を抑えた。
現代社会ではまず出る事はないその単語に不安と恐怖が収まらない。
思わず自分の肩を抱いた。



「ああ、生命戦維の完全覚醒のための実験だろう
生命戦維入りの服を着た多くの人間を一箇所に集めて一斉に生命戦維化する…
それが、大文化体育祭の実態だ」



先生が以前から言っていた人類生命戦維化の意味をやっと理解する。

つまりはただの大量虐殺ではないのか。
沢山の人の生命が消えてしまうというこは、そういうことだろう。

まさか、こんな事があの学園で行われていたなんて。
その中心にいるのが皐月様達だなんて。


「ま、まて!じ、じゃあ、マコのおやっさんやお袋さんも服に食われちまうってことか!?」

「分かりやすく言えば…そうなるね」


流子ちゃんの言葉に寝ていたマコちゃんが驚きの声と共に起きる。
マコちゃんの心情が心配だ。
それと同時に流子ちゃんの空気が少しピリついている。
"服に食われる"という言葉に過剰に反応していたように思えた。
二人に声をかけようとすれば、流子ちゃんが勢いよく立ち上がり、私の動きは止まる。



「冗談じゃねえ!んな事許してたまるか!!
鬼龍院羅暁と皐月!二人まとめてぶっ潰してやる!!」


流子ちゃんの言葉から足りない頭の中で思考を巡らす。
先生から聞いた事実と今まで自分が見てきた皐月様達が結びつかない。
疑問があるのだ。

その疑問は、私が生きている事だ。

私の力は「生命戦維を壊せる」事。
皐月様はその生命戦維を使って沢山の人達を生命戦維化するのが目標ならば、
何で私が生きているんだろう。

私の力はその計画において邪魔なはずなのに、皐月様はこの力を「最高機密」にした上で私を雇ってくれた。
四天王の方達も私を守ってくれた。

そんな事をせずとも、私を排除すれば良かったはずだ。
そうすれば様々な可能性が消せる。



「重かろうが軽かろうが仕方がない、鬼龍院との喧嘩だけはケリつけないとなぁ!付き合ってくれるか!?鮮血!」


流子ちゃんの言葉に意識を取り戻す。
目の前を見れば皆立ち上がっていて、私も慌てて立ち上がる。
そして、先生の「時間がない!急ごう!」という声と共に、皆の一番後ろをついてモニターだけが光るその部屋を後にした。

そして長い廊下を歩き、その先の部屋へと入る。
その部屋は今までと違い広い空間だった。目の先にはバイクと車。
速さを重視したようなデザインだ。



「紬、テーラーズダガーとテーラーズグローブだ。生命戦維を切断することが出来る」


先生が紬さんに武器を与えているのを横目に自分の手を見つめる。
この力で、沢山の人の生命が救えるかもしれないのか。
そう考えると不安とプレッシャーがのしかかる。
救えない場合の事が頭によぎるが首を横に振りその考えを振り払う。


「名前、どうした?」

「り、流子さん」


私の様子を見た流子ちゃんが話しかけてくれる。
流子ちゃんの顔を少し見つめて、顔をそらせば流子ちゃんは「大丈夫」と言って私の背中をポンと軽く叩く。


「独りじゃねえんだ、なんとかなるさ」


流子さんのその言葉に少し胸が軽くなる。
そうか、独りじゃなかった。
皆一緒なのか。
深呼吸して、流子ちゃんにぎこちない笑顔を見せれば彼女もニッと笑ってくれた。


「マコも帰るから大丈夫だよ!
名前ちゃんもお土産一緒に食べよーね!」


流子ちゃんの後ろからニュッと出てきたマコちゃんに驚いて身体を跳ねさせる。
出てきた笑顔が可愛くて、今度はぎこちない笑顔ではなくて自然に笑みが溢れた。
二人のおかげで少しリラックス出来た私は箒を握り締めて車へ乗り込む。
流子ちゃんと紬さんはバイク。
マコちゃんは流子ちゃんの後ろに座っていた。
私が乗った車の運転席には先生。

車は動きだす。

目指すは本能字学園。



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