ここは何処だろうか。 一人戦いから遠ざけることが出来たものの、今現在私は迷子です。 何故あのだだっ広い戦場で、しかもそこらかしこに人がいる状態で迷子になるというミラクルを起こしたのかと言われますと、それはもう私のどんくささが招いた結果としか言いようがないわけで。 激しい爆音と声が上から聞こえる。 そう上から。 どうも。私、地下にいます。 ![]() ![]() ![]() ![]() 「どうしよう」 痛む肩と痛む足を庇いながら歩く。 今私がいる地下は意外にも空間が広がっていてまるで何かの施設のようだった。 私が地下へ来た経緯はこうだ。 あの後、私は再び戦場へ近づいたワケだけれども戦闘のあまりの激しさに中々参戦出来ず周りをウロチョロしていた時、足元を見ていなかったせいか何かに足をとられその際足を挫いてそのまま下へ真っ逆さま。 その先はかの有名な某野球団が優勝すれば人で溢れるあの川で。 ヤバイと思った時にはもう遅く。 川の中でもがいていれば何とか水から顔を出せた。 しかし、顔出した目の前にはあの戦場ではなく、そこには変な空間が広がっていた。 そして、今、迷子に至る。 なんとかして上へ戻りたいのだけど、その方法も上へ行く道もわからない。 まず此処はなんなんだ。 金属の壁に金属の床。 良く見れば何やら作りかけのロボットのようなものも見える。 何処の連邦軍なんだろうか。 不安になり唯一の武器である箒を握りしめて周りを警戒しながら歩く。 戻らなくては。 不安になる心を激励するため頭を振る。 さあ、いざ行かん。 キリッと顔を引き締め一歩踏み出した瞬間。 ドォン!!!! いきなりの地響きと轟音にバランスが保てなくなりその場に座り込む。 耳をつんざくような音のせいで頭がクラクラする。 地響きもまるで地震のように激しく揺れて立っていられない。 揺れは続き地面がヒビ割れ天井が崩れだし、目の前は瓦礫の山となり、道と呼べなくなる。 このままでは生き埋めになる。 なんとかしてこの場から避難したいが 道も分からなければ身体も思うように動かない。 絶体絶命ではないか。 その瞬間、目の前を見たことがある人が通り過ぎる。 あの可憐なお姿。 あの美しい桃色の御髪。 良く私を叱咤する可愛らしい声。 「へ、蛇姫様!!!?」 私の声にその人物が気付き此方へと顔を向ける。 そして「ゲッ!?」と言うように驚愕な顔を私へ見せた。 そんなお顔も可愛らしい。 この絶体絶命のピンチに女神が現れ、私は嬉しさで顔がだらしない。 そんな私を見た蛇姫様は飛んで私の側へ来られたかと思うと私の頭をその勢いのまま指揮棒で思い切り殴った。 痛い、でも嬉しい。 「バイト!!あんた此処で何してんのよ!?此処が何処か分かってんの!?」 「あ、あの、すみません、なんか川から落ちたら此処にいまして、すみません!」 「どんだけ鈍臭いワケ!?」 私の来た経緯を簡単に話せば蛇姫様はまた驚愕して私を指揮棒で殴る。 痛い。 けど会えた嬉しさでどうでもいい。 嬉しくてニヘラニヘラと笑っていれば蛇姫様は呆れたように溜息をつく。 改めて見ると蛇姫様のお姿のなんと美しい事。 私と違い、その無駄な肉のない引き締まったお身体に沿われるようなボディスーツはとてもいやらしく、尚且つ飛べる要因となっているのであろうスピーカーのような機械が蛇姫様の左右対称に備え付けられている。荘厳さこそあれ、蛇姫様の可愛らしさと美しさは留まることを知らない。 一言で言うなら、こんなに可愛らしくて大丈夫なのか蛇姫様。 ガラガラと空間が崩れた音に身体を跳ねさせる。 蛇姫様が再び私を指揮棒で殴られた。 「ここは裸の猿共の基地よ。 アタシはそれを壊して再起不能にしてるワケ」 裸の猿というと、先生と紬さんのいる所の事か。 まさかこんな所に基地があっただなんて。 崩れる空間を再び見回し再認識する。 「へ、蛇姫様!こ、此処に居ては怪我をしてしまいます! というかお怪我はしてませんか!?」 「ボロボロのアンタに言われたくないわよ」 それもそうだ! と蛇姫様からの的確なツッコミにウンと頷けば蛇姫様はまた呆れたように溜息。 そして私をジッと見つめられる。 何事かと思い慌てて自分の身だしなみを確認するがボロボロな所以外変な所はないハズ。 ど、どうされたのだろう。 何か気に食わないことでもあるのだろうか。 緊張して身体を強張らせる。 「…なるほどね。 ほんと、あのお猿さんの過保護ッぷりにも困ったもんだわー」 お猿さんと言えば猿投山さんの事か。 きっとこの肩の怪我の事を仰っているのだろう。 それにしても見ただけで猿投山さんがしたも分かるだなんてどんだけ凄く洞察力だ。 きっとずっとお互いの戦いを見てきたからこそ分かるのだろう。 憎まれ口を叩いていてもやはり四天王の方達の絆は強いのだ。 少し嬉しくなった。 ガラガラと天井が近くで崩れる。 その音によって再び意識を取り戻し 今のこの絶体絶命の状況に冷や汗が噴き出た。 早くここから出なくては。 「さて、バイト」 「!は、はい!」 「アンタ、ここに残りなさい」 蛇姫様のその一言に「へあ?」と惚けた返事を返した瞬間、首に衝撃が走り、私の意識は途絶えた。 (…ほんと、馬鹿なんじゃないの) 腕の中でだらしない顔で眠る清掃員を見て蛇崩は何度目か分からない溜息をついた。 それは単独任務で此処で一暴れして早く愛しの主君の元へ戻ろうと思った矢先に現れた。 身体中ボロボロで自分を見つけた瞬間のあのだらしない顔といったら。 思わず気が抜けた。 足の怪我は自分で挫いたのだろう。 しかし、肩の怪我はそれとは違う。 その怪我を見て緑頭の同僚を思い出した。 気持ちが悪い程に過保護な攻撃。 あの戦場で、敵を如何に一瞬で仕留めるかを問われるあの状況で、相手の意識を保ちつつ戦闘不能の状況に追い込むのはそれなりの技がいる。 しかも肩というピンポイントの攻撃だ。 敵は全員がロボットに乗車しており、重火器が主な攻撃方法だ。 故にあんな小さな肩への攻撃は無理。 犬牟田は極制服のデータを取る事に夢中だろうし、何より彼の攻撃の仕方ではこんな怪我は追わない。 蟇郡の攻撃は広範囲に渡る超攻撃型であんな小さな肩への一撃は無理。 となると最終的に残るのは猿投山だった。 (ほんと、蟇君といい山猿といい、過保護になり過ぎなのよね) 彼女を横に寝かせて一つ溜息をつく。 そして、適当な場所へ崩れないように瓦礫の山を作った。 その影へ彼女を再び寝かせる。 この場所であればある程度の落石からこの瓦礫が彼女の身を守るだろう。 ある程度破壊は終わっているため、そんなに大きな瓦礫は落ちて来ないハズだ。 あの怪我を見て猿投山の意思が伝わった。 伝わって欲しくなかったが分かってしまった。 彼は彼女を守りたいのだろう。 それが意識した上での行動なのか、はたまた無意識な上での行動なのかは分からない。 しかしあの脳筋の事だ、恐らく後者である可能性が高い。 いつもオドオドして何言われようが殴られようがヘラヘラして気が付いたらボロボロの姿。 こんなんではこれから始まる更なる戦いに彼女はついていけるわけがない。 ボロボロの自分より他人を心配するようなお人好しが戦闘において非情になれるわけがない。 何より、彼女の存在はあの人たちには知られるワケにはいかない。 (お怪我はありませんか?じゃないわよ) ボロボロの姿で横たわる彼女を見て苛立ったのか指揮棒で殴る。 彼女は気絶しながらもニヘラと笑った。 「あーあ、やんなっちゃうわ。 アタシも人の事言えないじゃない」 自嘲気味に笑ってその場を後にする。 目指すは愛しの主君の元へ。 back |