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「わぁぁああ!!??」


そこらかしこから上がる爆発と炎。
私はそれに恐怖して逃げ回る。
逃げ回る度これではいけないと
頬を叩き気合いを入れるが、再び上がる爆発でまた逃げ回る。
その繰り返し。

何をしているんだ私は。

しかし怖いものは怖いワケで。
涙目になりながらも足を進める。

すると爆発音と共に目の前に何かが
降ってきた。
あまりの驚きにその場に座り込む。
ドキドキと煩い心臓を落ち着かせながら落ちてきたそれを見れば其処には変なロボに刺さるようにして乗っている男性。
頭から血を流しているようで、慌ててその人に駆け寄った。
駆け寄ったのも束の間、その人が全裸同然なのに気付き「ぎゃあ」と一声上げて目をそらす。

何故裸なんだ。

しかし、この人は怪我人、この人は怪我人。
そう自分に言い聞かせ、なるべく薄目の状態でその人を機械から引きずり降ろす。
頭を強く打っているようで目を覚ます気配がない。
伊織さんに心の中で謝罪をしてから再びエプロンを裂き患部にあてがい血を止める。

その瞬間、再び湧き上がる轟音。

それにびっくりして落としていた目線を上げれば再び目の前に何かが降ってきていた。
立ち込める土煙を横一線に何かが切り裂く。


「さ、猿投山、さん」


変身状態のせいで猿投山さんの表情が伺えない。
猿投山さんは無言で私を見つめる。
微動だにしないものだから本当何を考えているのか分からない。
先程の宝多さんの時もそうだったが
怒っていらっしゃるのだろうか。
それは当然だ。
この人達は猿投山さんの敵なのだ。

どうしようかと考えている内に
猿投山さんが歩を進め私との距離を
縮める。
近付いてくる猿投山さんを見つめていれば彼は怪我人の前で立ち止まる。
どうしたのかと見つめれば、彼は手に持っていた竹刀を大きく振り上げた。


「!!?」


思わず目の前に身を乗り出し両手を広げる。
振り上げた竹刀はピタリと止まり、そのまま私と睨み合う。
空気が、ピリピリと、痛い。
初めて会ったあの時のような、そんな空気だ。


「そこをどけ」

「い、いやです」

「どけ」

「いやでふ!」



噛んだ。
この状況で噛むって、私なんなんだ。
でも猿投山さんの空気がとても怖くて恐ろしくて口が上手く回らない。


猿投山さんは動かない。

それが恐ろしい。
今の彼は、この怪我人にトドメをさすという意思しか持ち合わせいないのだ。

その振り上げた竹刀を降ろしていないのがその証拠。
だからとても恐ろしい。

でも、私も引けない。
目の前の怪我人を助けるんだ。



「そうか、分かった」



猿投山さんが呟いた。

その言葉に少し安堵して、広げていた手を降ろし、ホッと胸をなで下ろす。
そして再び猿投山さんを見上げた。


彼は竹刀を振り上げたままだった。




「ならば、力尽くで推し通るまで」




肩に降り注いだ衝撃と共に私の意識は途絶えた。










42













「…ですか!?」



声が聞こえる。
その声に応えるように目を開けた。
すると目の前には怪我をしていた男の人。
良かった。無事だった。

彼の頭には私が裂いたエプロンが巻かれている。
血も止まったみたいで良かった。

起き上がろうと身体に力を入れれば肩に走る痛み。
あまりの痛さに声にならない叫びを上げた。


「!、すみません、肩が外れていたようなので気絶している間に入れ直させてもらいました」


そう言われ自分の肩を見れば何かの布で固定されている。
そうか、治してくれたのか。
怪我人に助けてもらうだなんて、なんと情けない。
目の前の彼にお礼を言い、気合いを入れて起き上がる。
かなり痛いが我慢せねば。

それにしても。


「無事で、良かったです」


目の前の彼にそう言えば、彼は目を丸くする。
すると彼は頭を下げて「あなたのおかげです」と言ってくれた。
本当に良かった。

頭を上げた彼は悔しそうに唇を噛み締め私を見つめる。


「貴女の事はお聞きしています。
世界の希望である貴女に怪我をさせてしまい、大変申し訳ありません。」

「いや、そんな大それたもんじゃ…」

「四天王、許すまじ…!」


彼は怒りが篭った瞳をギラつかせ私に背を向け歩きだす。

彼の目的は言わずもがな。
猿投山さんに再び挑む事だ。
私は慌てて動く手で箒を掴み、スイッチを押す。
箒は瞬く間に伸び彼を拘束した。
彼は驚きの声を上げその場に転がる。
怪我人に大変申し訳ない。

もがく彼に近づき、覗き込む。



「だ、だめです」

「っ、何故邪魔を!!」



純粋な問いだった。
そりゃそうだ。
こんな怪我をさせた相手を恨むのは
至極当然の事。

痛む肩をさする。


猿投山さんは不器用だ。

この痛みは、四天王である彼のケジメであり、私に対する優しさの塊だ。

私の意思を尊重してくれた上での行動。

敵に塩を送る私に四天王としてケジメをつけて、それと同時に怪我をさせる事で私をこの戦いから遠ざけようとしている。
目の前の彼を仕留めていないのがその証拠だ。



猿投山さんは不器用だ。
こんなに優しいのに、不器用だ。




「だめ、です」




自然と涙が出た。
ホロホロと玉のようにそれは落ちて、
地面へ落ちる。
止まらない。

目の前にいるこの人だって
私なんかを助けてくれた。

痛い。
戦い合うのは心が痛い。
みんなこんなに優しいのに。

溢れる涙を必死で拭く。
ああ、なんて情けない。
人一人止めるのにこんなに
ボロボロで、こんなに泣いて。
そんなみっともない私を、
目の前の彼は何も言わず見つめる。




「……何故泣くんですか」



彼は静かに呟いた。
腫れぼったくなった目で彼を見つめる。
頭に巻いたエプロンから血が滲んでいてとても痛々しい。

涙の理由はなんだろう。
理由なんてなくて。
ただ、ただ、悲しくて。
ただ、ただ、辛くて。

なにも言えなくて必死で首を横に振る。
彼はそれを見て溜息をついた。



「……わかりました」



私は思わず目を見開いた。

何故ならワガママを聞いてくれた後の彼の顔は
仕方なくでも嫌々でもなく、
安堵していたのだ。

そうだ。
誰だってそうだ。
平和が好きだ。

彼の言葉に溢れた涙がひいていく。
「ありがとうございます」と言えば
彼は薄く笑って「此方こそ」と言ってくれた。


まずは一人。
やっと一人。


箒を握りしめてゆっくりと立ち上がる。

そして一歩ずつ戦場へ。






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