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皐月様と流子ちゃんの戦いは、流子ちゃんの防戦一方だった。
変身できない流子ちゃんは圧倒的に不利で、皐月様から繰り出される攻撃をひたすらに弾き、避ける。
いつかその攻撃が当たるかも知れないと思うだけで顔を覆いたくなる。
不安で仕方が無い。

鮮血が欠けている流子さんは変身ができず、皐月様の攻撃を弾いていく内に崖へと追い込まれる。


「容赦ないな!」

「不利を承知で挑んだ戦いのはずだ。泣き言は聞かぬ」


お互い睨み合った状態で交わされる会話。皐月様の台詞に流子ちゃんは「そんな事言うつもりもねぇ!」と凄んだ。
どんな状況であれ私の友達の心は折れない。
それがとても誇らしい。


「だが所詮は只の無謀だ!!!」


そして皐月様は刀を振りかざす。
流子ちゃんに強く真っ直ぐな心があるように皐月様の心もまた強い意志があるのが伝わった。

私は瞬間に、戦いを止めようと箒を構え駆け出す。
蟇郡さんの声が聞こえた。
しかし、申し訳ないが止まるワケにはいかない。
いや違う。止まれないのだ。

箒のボタンを押そうと指に力を入れたその瞬間、無数の針の雨が皐月様に向かって降り注いだ。
針の雨はガガガガと地面を抉るように突き刺さり雨は道となる。
私は思わず立ち止まり、見覚えのあるソレに少し安心した。

蛇姫様の「筋肉モヒカン!!」の声に意識を取り戻し、改めて針を降らせた人を見つめ、名前を呼んだ。




「紬さん…!」




筋肉モヒカン改め紬さんは皐月様に針を乱射しながら流子ちゃんの背中へと回る。
これで流子ちゃんが大怪我することはなくなったと思い、酷く安堵した。

襟を引っ張られる。
すっかり慣れたそれに
申し訳なくなり引っ張った相手を見上げれば案の定そこには蟇郡さんがいらっしゃった。
とてもお怒りのようで口と眉が凄い。
皺が凄い。
とりあえず謝るしかないと思いひたすらに謝罪をしていれば、蟇郡さんはシュルリと懐から何かを取り出した。
よく見ればそれは蟇郡さんが普段使っていらっしゃるトゲトゲが付いた鞭。
とても嫌な予感がした。
苦笑いで再び蟇郡さんの顔に目線を移せば彼は顔色を変えることなく私を鞭で縛り付けた。
どんな結び方をしたらこうなるのか。
上半身は動けないのは勿論、下半身は膝立ちでしか動けない。
箒は後ろ手で掴んだまま縛られて使えないし。
何よりこれでは走れない。
蟇郡さんを再び見上げれば彼は「貴様はそこにいろ」と一言告げて再び皐月様の方へと向いた。
何てこと。
怒らせてしまった。







41








「あぶり出されたな、裸の愚者よ」



皐月様の凛とした声が響く。
流子ちゃん紬さん美木杉先生、そして周りには先生と同じ格好をして同じ機械に乗った方達。
その人達が一斉に戦闘態勢に入っているのがわかった。
ピリピリとした空気の中、四天王の方達が口を開く。


「今回の襲学旅行の真の目的は関西の学園の裏に潜む反抗勢力をあぶり出す事。そのために貴様の行動も皐月様は黙認していたのだ!美木杉愛九郎!!!」

「うひゃー、其処までお見通しとは恐れ入るね!」


蟇郡さんの言葉に美木杉先生は不敵に笑いながら冗談ぽく返す。
先生が敵だと言うことに気付いていただなんて、流石は皐月様。
黙認していたと言うことは私と先生がちょくちょく会っていたということも承知していたということになる。
先生はともかく、私まで黙認していたのは何故だろうか。
私はあくまで生徒会に雇われている人間で本来ならば流子ちゃん達とは敵対している。
何故皐月様は私を見逃した?



「流石は皐月様の作戦。
狙い通りでしたね。
…まあ、立案したのは俺だけど」

「そろそろ出て来てきてくれないと、折角新調した極制服が使えないとこだったわ」

「ヌーディストビーチだなどとふざけた名前の連中に、我等の大望が阻めるか!剣の装更改の露と消えろ!!」


私が疑問に思考を巡らせていれば、四天王の方達が眩い光に包まれる。
その光は一瞬であっという間に皆さんの身体を違う形へと変貌させた。
猿投山さんの変身された姿は以前から拝見しているが他の方達の変身した姿を見るのはこれが初めてだ。
眩い光から解放されて皆さんの姿が現れそれを見た私は目を見開いた。



「本能字四天王改の装!四将綺羅飾!」



綺羅と名付けるに相応しいその姿。
私は膝立ち状態だったその身体をペタリと地面に預ける。
自分とは次元が違いすぎて空いた口が
塞がらない。

雄叫びと共に先生方と四天王の皆さんの戦闘が始まった。
途端に巻き起こる爆発。
衝撃が凄まじく火の海は更に加速し、
大阪の街を焼き尽くす。

しばらくボーッと見ていたが
自分の近くで起きた爆発に意識を
取り戻す。

いけない。
こんな所で惚けていてはダメだ。
戦闘が始まってしまった。
また怪我人が出てしまう。

汗が止まらない。
私は何もできないのか。

頭をゴチンと地面へぶつける。
少しでも知恵を搾り出そうと
何回もぶつけてはみるが
何も出てこない。

唇を噛み締めて考える。
プツリと血の味がした。



「名前ちゃん!?」



ぐるぐると悩む私に大好きな声が飛び込む。
声がした方へと顔を向ければ
そこにはマコちゃん。
大きな丸い目を見開き驚いたように私に近づく。



「わー!名前ちゃんも大阪に来てたんだね!大阪グルメは食べた!?」

「マコ、さん…」



マコちゃんがこんな危ない所にいるのが驚きで動揺が隠せない。
こんな所にいちゃ危ない。
今のマコちゃんの近くには流子ちゃんがいないんだ。
今のマコちゃんはあまりにも無防備。
襲われたりなんかしたら一溜まりもない。
私が何とかしなくては。

自分を縛っている鞭を無理矢理外そうと力を入れる。
しかし蟇郡さんの鞭は外れず棘が身体に食い込むだけ。
皮膚にピリピリとした痛みが走る。
きっと血が出たのだろう。
でもなんとかしなくては。


「ええー!?名前ちゃん!血が出てるよ!?だ、ダメだよダメだよ!血は大事にしなきゃダメって前も言ったじゃない!」

「っ、でも、このままじゃ、危ないし。なんとか、なんとかしなきゃ」


マコちゃんは私の言葉を聞いてキョトンとした顔になると私をヒョイっとオンブした。
この細い腕の何処にそんな力があるのかと思い目を丸くする。
マコちゃんはそんな事もお構いなく走りはじめた。
背中からマコちゃんに止まるよう声をかけるが彼女は大丈夫と一言言うだけで私の声に全く耳を貸さない。

一体どうしたと言うのだ。

マコちゃんに声をかけるのを一旦やめ
彼女の向かう先をよく目を凝らして見る。
すると薄っすらと人影が見えてきた。
見覚えのあるシルエットに自然と顔の緊張が解れる。


「流子ちゃん!」

「マコ!安全な場所に逃げろっつっただろ!」

「だからここに!」

「え?」

「流子ちゃんの側がいっちばん安全だよ!」



マコちゃんのその言葉に流子ちゃんは少し照れ臭そうに「そうか」と返す。

流子ちゃん、無事でよかった。

一つ安堵のため息をつけば、流子ちゃんが私に気付きギョッと目を丸くする。


「名前!?お前までここに来てたのか!?」


流子ちゃんの言葉に私は申し訳なくなって小さく頷く。
マコちゃんはニコニコと笑いながら私を優しくその場におろしてくれた。
一息ついて私は流子ちゃんを見つめる。
流子ちゃんは慌てて私を縛っていた鞭を斬ってくれる。


「っ、り、流子さん、どうしても、皐月様と、戦うんですか…!?」


私の言葉に流子ちゃんは一瞬眉を緩ませる。
しかし、それは一瞬で鋭いものへと戻り小さく頭を縦に揺らした。
変わりようのない意思の強さがそこにはあった。
でも、私も負けてはいられない。


「っ、私はお二人に傷付いて欲しく、ないんです…、二人が、敵同士で、戦わなきゃいけないのは、分かっています…その、でも、でも…」


つまりながら、精一杯自分の気持ちを伝えた。
なんて矛盾した言葉だろう。
その間、流子ちゃんは何も言わず私を真っ直ぐ見つめてくれる。
そして沈黙が流れる。
流子ちゃんは優しい。
私のこのワガママを何とかしようと考えてくれているのだろう。
とても迷惑をかけているのは分かる。
でも、彼女は友達なのだ。
戦いで傷付いていくのは見たくない。


「それは違うよ!!」


私が沈黙を破ろうと再び口を開いた瞬間、
マコちゃんにスポットライトが降り注ぐ。
マコちゃんはお決まりの手をクロスして上に上げポーズを決める。
マコちゃん劇場の始まりだ。



「流子ちゃんは戦いに行くんじゃない!鮮血ちゃんを取り戻しに行くんだよ!」



マコちゃんの言葉に私は思わず目を丸くした。
マコちゃんはそんな私の様子など気にせずいつも通り続ける。



「流子ちゃんにとって鮮血ちゃんは友達!その友達が攫われてるんだもん!それを助けるのは当たり前だよ!
皐月様と戦うより先に鮮血ちゃんを取り戻すっていう目先の欲が勝ってるんだもん!これは戦いじゃない!
だから流子ちゃん!走れメロス!!」



スポットライトが止み、マコちゃんが満足そうに立っている。
マコちゃんの言葉に私と流子ちゃんは目を丸くして顔を見合わせた後、思わず笑ってしまった。
マコちゃんのワケが分からない説得にはいつも感心する。
真っ直ぐな彼女にだから出来る事なんだろう。

戦いではない、か。

火の海になった大阪を見つめる。
これは確かに戦争で、戦いで、悲しい。
それを巻き起こし、その中心にいる皐月様。それに付いて共に戦う四天王の皆様、学生達に大阪の皆さん、先生や紬さん。
みんな戦っている。

その中に皐月様に奪われた鮮血を取り戻しに来た流子ちゃん。
誰かを傷付けに来たワケではなくて、
友達を助けに来たのだ。

流子ちゃんだけが、違う。

私は流子ちゃんを見つめた。
流子ちゃんも私を見つめる。



「お友達、取り戻してきてください」



私がそう言えば流子ちゃんは力強く笑って「ああ!」と頷いた。

流子ちゃんが鮮血に話しかける。
鮮血の言葉は全く聞こえないが流子ちゃんは優しく鮮血に語りかけている。
会話こそ聞こえないが、流子ちゃんと鮮血の間に確かな信頼関係があるのは伝わる。


「お前は私に着られたいんだろ?
だったら遠慮するな。
アタシももう恐れない。
お前も友達ならマコや名前のように私を信じてくれ」


歩きだす流子ちゃんと鮮血。
二人の影が一つになり、その瞬間、二人から光が走る。あまりの眩しさに思わず目を瞑る。
目を開けば流子ちゃんは変身していて、その背中は既に遠い。
私はその背中を見つめる。

どうか、二人が怪我をしないように。

鞭から解放された手は箒を握る。



「マコさん」

「ん?なーに?」

「私、ちょっと行ってくるね」



箒を握り締めてマコちゃんに向かって笑う。
マコちゃんはそれに首を傾げたが「わかった!いってらっしゃい!」と笑ってくれた。

流子ちゃんは友達を取り戻しにきた。
それだけをしにこの戦場へ来た。

私は戦いを止めたいという漠然とした意思しかなくて。
それじゃ駄目だ。
流子ちゃんが、友達を取り戻すために先ずは戦場へ来たように、私も戦いを止めるために先ずは何かをしよう。

戦ってる人、一人だけでも止める。

そんなちっさな欲で良い。
目の前の、出来る事から。




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