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「見つけた、やはり皐月様も共に戦っているようだね」


足を進める中、犬牟田さんがそう呟いた。
その言葉に強く反応したのは蟇郡さんで、犬牟田さんの指の先を確認する。
そうすれば、彼はバッと走り出し、皐月様と猿投山さんの方へと一目散に駆け出して行った。
蛇姫様は走りだした蟇郡さんの肩にヒラリと軽やかに乗る。
犬牟田さんはやれやれと言った感じで肩をすくめて、後に続いた。
私も置いていかれまいと走る。

皆さん足が早すぎる。


しかし、遠くに見えるあの金ぴかの蟹は一体なんだろうか。

息を切らしヘロヘロになりながら今は三百メートルは離れたであろう皆さんについて行くのがやっとの中、私の視界にそれは現れた。

ゼエゼエと満身創痍の私にでさえ気を惹かせるその異様な蟹。
一体何なんだと見つめていればその蟹からいきなり放たれる砲弾。

いきなりの事に目を見開く。
その先にいるのは誰かはわからないが、
皆さんが向かっている先に皐月様と猿投山さんがいるのは確かだ。
そして、段々蟹との距離が迫っているのも確か。
つまり、あの砲弾の向かう先には皐月様と猿投山さんがいるわけで。

私は、危機感を感じ張り裂けそうな肺の事など気にせずに走るスピードを上げた。











40










「この蟇郡苛有る限り!皐月様には傷一つつけさせん!!」



辿り着いた其処には声高らかに勇ましく皐月様を御守りした蟇郡さんの姿があった。
皆さん無事なようで安心した。

しかしあの蟹、ロボットだったとは。
良く良く見れば人がいる。
あの人が宝多さんという方なのだろう。

箒を握り締めて少し離れた所で皆さんを見つめる。



「調子に乗るのもいい加減にしなさい!浪速ザル!」

「この新しい三ツ星極制服のデータ。取らせて貰うよ」



蟇郡さんの肩からヒョコッと姿を現した蛇姫様とスマートに蟇郡さんの影から姿を現す犬牟田さん。
これだけの人数相手にあの宝多さんという方はどうする気なのだろうか。
まだ戦う気なのだろうか。

すると蟇郡さんはスッと皐月様に向かって膝を付き敬意を現す。
そして、神戸と京都を制圧した旨を伝え、皐月様からも「御苦労」と労いの言葉をいただく。
素晴らしい程に美しい主従関係。



「受け取れ猿投山!君の新しい極制服だ!」


再び何処からか伊織さんの声。
今度は見失わず、空を見る。

其処にはヘリコプターに乗った伊織さんが猿投山さんに向かってキャビネットを降ろした所だった。

その瞬間、猿投山さんが意気揚々に「待っていた!」と叫ぶ。
そして、何故か先程から大きくなっている蟇郡さんの手と肩を借り、降ってくるキャビネットへと跳躍すれば犬牟田さんの時と同様光が走る。
その光は一瞬で終わり、次に猿投山さんの姿が見えた時には彼は変身を遂げていた。

今まで猿投山さんの変身した姿を数回見たが、今回のは今までのとはまた違う。

今までのはこれぞロボットというように全身が大きく威圧感がある外見だったのだが、今のそれは猿投山さんの身体のサイズと沿われた様にフォルムもデザインもかなりスタイリッシュになっていた。



「なんやねん!その安手のヒーローショーは!」

「ツッコミ無用!
本能字学園四天王の内、猿投山渦!
推して参る!」



そして、猿投山さんは相手に竹刀を振り下ろし戦闘が始まった。
私は不安で取りあえず皆さんに近寄る。
皐月様が私に気付き目線だけ此方を向けた。
私はそれに気付き慌てて深く頭を下げる。
すると皐月様は何事もなかったかのように目線を元に戻した。
それを確認して、慌てて四天王の皆さんの側に寄る。



「あーあ、張り切っちゃって」

「大阪攻略は奴の任務、奮起するのは当然だろう」



それで皆さんは猿投山さんを見ているだけなのか。
私はオロオロと猿投山さんを見るしか出来ず箒を握り締めていれば、蟇郡さんが私の前に立つ。
気付けばコロコロと石や小さな瓦礫が足元に飛んできていて、蟇郡さんが私を守ってくださっているのだと分かった。

申し訳ない気持ちで蟇郡さんを見上げる事しか出来ない。




「北関東の猿対大阪の猿。猿の頂上決戦だね」

「あら!ワンちゃんにしちゃ上手い事言うじゃない!」

「蛇崩語録の応用さ。流石は蛇。チラチラと覗かせる舌の毒は半端ないからね」

「アリガト」



蛇姫様と犬牟田さんが嫌味を言い合っているのを他所に戦いの激しさは増す。
見た所、猿投山さんが押しているように見える。

すると、相手がヤケクソと言ったように、大量の砲弾を撃ち放った。
しかし、そのとてつもない量の砲弾を猿投山さんは全て打ち落としていく。

なんて鮮やか。

空いた口が塞がらない。



「ふん!貴様の小汚い瓢箪のシャワーなどこれ以上浴びるかぁあ!!
終わりだ!!」



面!!
叫ぶ猿投山さんの竹刀が蟹に一直線に振り落とされる。

終わった。

そう思った瞬間、猿投山さんの上から金ぴかなドロドロしたモノが降り注ぐ。
降り注ぐ元は蟹のお尻。



「そいつは蟹味噌スライムや!一度纏わり付いたらぜーったい取れへん!
あんさんの機動力は封じたでー!」



猿投山さんのピンチに慌てて前に出ようとすれば蟇郡さんが私の襟を掴みそれを阻む。
何故だと思い見上げれば、蟇郡さんはひたすらに猿投山さんを見つめていた。
その目は真っ直ぐで、何も疑っていない綺麗なもの。

猿投山さんを信じているのか。

私はそう感じ、蟇郡さんと同じく大人しく見つめる事にした。

そうか。
犬牟田さんを助けた時もそうだ。
だから彼は怒っていたのか。
助けようとするなんて、私は彼を信じていなかったのと一緒じゃないか。
バカだ私は。
本当、いつまでたっても成長してない。



「トドメや!
食い倒れファイヤー!!」



その掛け声と共に猿投山さんに炎をあびせる。
思わず出そうになる身体を抑え
猿投山さんをひたすら見つめた。





「貴様の味噌など被る俺だと思ったか!」




燃えるそれをいつの間に避けたのか、猿投山さんは宝多さんの後ろへ回り込み、蟹味噌が出ていた所を思い切り竹刀で突き刺す。
何回も何回も突き刺し、いよいよ宝多さんの身体のみとなった時はいろんな意味で思わず顔を逸らしてしまった。

途端に爆発音がして、気付けば宝多さんはほぼ裸の状態で這い蹲りながら逃げていた。
それを逃すまいと皐月様は刀の鞘を宝多さんの頬へと押し付ける。

絶対絶命だというのに宝多さんは皐月様相手に啖呵を切り続ける。
なんて度胸のある人なんだろう。



「たかだか学生相手にこれだけの戦力を投入する私だと思ったか」

「まさか!?貴様!?」

「極制服に対するその力。誰に貰った?」



話が全く飲み込めず、二人の会話に耳を傾ける。
つまりはあの蟹は宝多さんが作ったものではないという事だろうか。
何故それを追及する必要が?

足りない頭で考えていれば、
宝多さんの後ろから現れた真っ赤なバイク。
それに乗っているのは私の友達。

無事なのが嬉しくて安心して思わず大声で二人の名前を呼んだ。
すると、蟇郡さんによって思い切り口を塞がれ睨まれる。

怖いがしかし友達が無事だったのだ。
素直に喜びたい。
怖くても喜びたい。
流子ちゃんはいつものセーラー服ではなくて赤いジャージを着用していた。
鮮血さんがバラバラになったというのはやはり事実なようで、一体何があったのか伺いたい所だが今はそんな所ではない。
流子ちゃんは格好よくサングラスをのけて皐月様を睨み付ける。



「街一つぶっ壊しやがって。
あんまり酷すぎるんじゃないか?」

「そんな事を言うために此処に来たのか?だとしたら無駄な旅だったな。
私に逆らう者の運命は決まっている」

「その運命。私が変えてやるよ!
鮮血を返して貰うぞ!」



そう言ってハサミを構えた流子ちゃんに対して皐月様は不敵に笑う。
そして左手を見せつける。
そこにあったのは普段流子ちゃんが変身するときに使用している手甲。

あれも鮮血の一部なのか。

今にも始まりそうな新たな戦いに私はまたもや戸惑う。
今回ばかりは二人共大事な人故に戦って欲しくはない。
しかしこの二人を私なんかが止められるのだろうか。

皐月様は猿投山さんに宝多さんを連れて行くよう命じる。
猿投山さんは宝多さんを担いでこちらへと戻ってきた。
遠目からではわからなかったが宝多さんはかなりボロボロで、こんな姿で皐月様に啖呵を切っていたのだと思うと私はとてもこの人を尊敬した。
とても芯が強い人なんだろう。

猿投山さんに放り出され痛そうに猿投山さんを睨み付ける宝多さん。
猿投山さんはフンと宝多さんを見下ろしている。

何か出来ないかと思い、恐る恐る近付いた。
伊織さんには大変申し訳ないが服についているスカーフを外し、宝多さんの怪我が一番酷い所へ巻き止血する。
これしか出来ない事に非常に申し訳なくなる。
すると猿投山さんが私の襟を掴み宝多さんから引き剥がした。



「おい、貴様何を考えている!」

「す、すみません…!で、でも何か傷酷いし…」

「そいつは敵だろうが!」



おっしゃる通りなのだけれども、
芯が強くて尊敬に値する人だし、放っておけない。

猿投山さんに申し訳ないのと怒られていることで思わず背中を丸くする。

ひたすらに謝っていれば後ろからガシャリと音が聞こえた。
そちら側を振り向けば、其処には宝多さんが惚けた顔で此方を見ている。
何かあったのだろうかと思い、話しかけようと少し近寄れば彼は身体を起き上がらせ膝たちで私に勢いよく近付いて来た。
思わず「ヒッ!?」と上擦った声が出てしまった。

そして、彼から出てきた言葉に私は我が耳を疑った。







「惚れた!!!」








世界が静止した気がした。
いきなり宝多さんの口から出てきたその単語に私は思考を停止させる。

宝多さんはそんな事など気にも止めず私との距離をどんどん縮める。
それに私は意識を覚醒させ相手をひたすらに押し距離を置く。

いきなり何を血迷った事を仰っているんだこの方は!



「この血も涙もない戦場で、ワイは天使に会うた…!!
分け隔てなく相手を労わるその姿!
戦場のナイチンゲール再びや!!」



駄目だ。この人頭打ってる。

何を仰っているのか全く理解出来ず、とりあえず相手を横にさせようと促せば宝多さんは「名前は!?」だの「ワイとお付き合いせえへんか!?」だのワケの分からない事ばかり。
生まれてこの方こんなアプローチ受けた事がなくて恥ずかしくて段々と顔が真っ赤になる。
そうすれば宝多さんは「照れてはる!!脈アリやな!」とニマニマとしだした。
それは誤解だと弁明しても宝多さんには効果はなく「照れ隠し」の一言で終わる。
どうすればいいものかと悩んでいれば、真横からもの凄いスピードで何かが飛んできた。
ビュッと耳をきったそれが何か全く理解出来なくて真横に視線をやればそこには竹刀。
相手は誰かなどと言わずもがな。



「さ、猿投山さん…!?」



竹刀を突きつけた相手。猿投山さんを見れば、彼は何も言わず今まで以上に下唇を尖らせていた。
先程の突きで気絶したのか宝多さんは起き上がる気配がない。

大丈夫かと思い駆け寄ろうとすれば、腕を掴まれた。

そちらを向けば案の定猿投山さんで。



「あ、あの、さ、猿投山さん?」

「………」



掴まれた腕が少し痛い。
少し力を緩めて貰えるようにおずおずと言うが猿投山さんの力が弱まる事がなく。
一体どうしたのだろう。
仮面をしているから顔の表情は口元でしか伺えない。
下唇を以上に尖らせているから不機嫌なのだろうとは思うのだが。

あまりにも反応がないので、もう一度名前を呼べば猿投山さんはピクリと肩を揺らした。

するとおでこに手をかざされる。
何事かと思いそれを見つめていれば、
瞬間おでこに衝撃が走る。

あまりの衝撃に私は後ろに転けた。

痛みとワケが分からないのでおでこを抑えながら猿投山さんを見上げた。
やはり、宝多さんを治療しようとしたのに怒っていらっしゃるのだろう。
しかし、あのままではあまりにも可哀想だと思い何とか治療をさせて貰えるよう食い下がろうと心に決めた。

そして、私は次に出てきた猿投山さんの言葉に目を見開く。






「何顔を赤くしてやがる!!」






はい?

思わずそう聞き返してしまった。
まさかのお言葉すぎて面食らったとはこの事だ。

予想外すぎて頭がついていかなくて、そのまま惚けた顔で猿投山さんを見つめていれば、彼はハッと我に返ったように身体を反応させる。
そして、今まで見た事がないくらいに顔を赤くした。

どういうことだ。
全然ついていけない。

猿投山さんの反応と言葉に全く理解出来なくて頭にクエスチョンマークを乱立していれば、猿投山さんはバツが悪そうに頭をグシャグシャとかきながらフイッと顔を逸らして他の皆様の元へと戻られた。


一体何だというのだ。


惚けていた私も意識を取り戻し、とりあえず宝多さんの介抱をしようと気絶している彼に駆け寄った。


後で改めて猿投山さんに謝ろうと思う。





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