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揺れる車内。
外から聞こえる爆音。
如何に外の戦闘が激しいかがよく分かる。

モニターを見つめる。
各所で沢山の人達が戦っている。

蛇姫様と蟇郡さんの所は戦闘が終わったようで、残るは猿投山さんのみとなったようだ。

大阪は一般の人達まで戦闘に参加して、本能字学園の生徒達を圧倒している。
猿投山さんは学生達より先頭に立って戦っていた。
神戸や京都とは少し違い、全ての武器や人員においてかなりの労力が使われていると分かる大阪の戦い。
猿投山さんは少し苦戦しているように見えた。
するも、今までモニターを見ていた犬牟田さんが立ちあがる。


「さてと、そろそろ行くとするかな」


犬牟田さんも戦場に出るのだろうか。
猿投山さんを助けてくださるのだろうか。
少し期待に満ちた目で見つめれば、彼は「勘違いは良してくれ」と肩をすくめる。


「僕は皐月様に合流するだけだよ。
猿投山を助けに行くワケじゃない」


車のドアを開け放つ。
すると目の前には真っ赤に染まった大阪が広がった。
モニター越しに見ていた物と同じ物とは思えないほどその光景は悲惨だった。
今やその面影はない街並みは火に呑み込まれひたすらに赤い。
熱気と共に聞こえる人の悲鳴に私は思わず自分の腕を抱いた。

その街を見ても全く怯んだ様子はない犬牟田さんは少しだけ此方を向き私に尋ねる。



「さて、君はどうする?」













39











「っ、あつい…!」


「そりゃそうさ。周りは火の海だからね」



前へ進む犬牟田さんの後ろを付いて行く。
彼はパッドを操作しながら足取り軽くひたすらに進む。
火の海の中進んでいるというのに涼しい顔をしている彼の身体能力の高さに只々驚くばかり。
そんな私は汗まみれになりながら付いて行くのがやっとだ。



「もう少しで蛇崩と蟇郡も合流する頃合いだね。
僕の計算が正しければ伊織の制作している極制服の完成も間近といった所かな」



彼に分からない事なんてないのではないだろうか、そう思うくらいに彼は何でも知っている。
感心していれば、犬牟田さんはいきなり私の腕を引いて自分の方へと引き寄せる。
いきなりの事に驚き、勢いに任せて転ける。
何事かと思い、慌てて犬牟田さんの方を見れば私の歩いていた場所に大阪の一般市民の方が倒れていた。
手にはチェーンソーを持っている。
私はゾッとした。

犬牟田さんが助けてくださらなかったら、私は殺されていたかもしれない。



「こういう荒っぽいのは好きじゃないんだけどね」



手をパンパンとさせながら犬牟田さんは私に近付く。
慌ててお礼を言えば彼は肩をすくめて「これが仕事だから当然だよ」とあっけらかんと返事をくれ、手を差し出してくれた。
スマートにそれをやってのけるのだからこの人は本当にすごいとひたすらに感心する。



ガチャリ



手を借りて立ち上がろうとした時、かすかに音がした。
視界の隅に先程倒したハズの人が犬牟田さん越しに立ちあがるのが見える。
チェーンソーを振りかざした瞬間、私は犬牟田さんの前に出た。

犬牟田さんかららしくない取り乱した声が聞こえたが、そんなのは気にせず箒のボタンを押す。

瞬間、箒は相手を捉え、
そして相手は転ける。
相手は驚いたようにもがき、
それを外そうとするがビクともしない。

ドキドキと心臓が恐怖で鳴り響く。

へたり込み、未だ鳴り止まない心臓を落ち着かせるように胸に手を当てた。

すると襟を思い切り上に引っ張られ首が締まる。
思わず変な声が出た。

引っ張ったであろう方を向けば、そこにはやはり犬牟田さんがいて、雰囲気から怒っているのが伺えた。



「あ、あの、犬牟田さん…」

「僕があの敵に気付いていないとでも?」



私の襟を掴む力は弱まる事はない。
とても怒っていらっしゃるようでその目はとても冷ややかだ。



「あの、その」


「言い訳があるなら、納得のいく説明をしてもらおうか」



そのまま襟を引っ張られ無理矢理立たされる。
腕を組み此方を見つめる犬牟田さんからは逃れられないと確信した。

ハッキリ言った話、納得のいく説明なんて出来ない。
咄嗟の事で自然に身体が動いていた。
理屈じゃないのだ。
理由をつけるのであれば、それはきっと「犬牟田さんを助けたい」という思いのみで。
でも、頭の良い彼の事だ。
其れ相応の理由でなければきっと納得いかない。

でも、嘘はつけない。

私は意を決した。



「い、犬牟田さんを、助けたかったんです」



恐る恐る相手の目を見てそう告げる。
嘘はない。
「理由になってない」と怒られるかもしれない。
でもこれは真実だ。

犬牟田さんは数秒私の目を見て頭を抱えて大きく深く溜息をついた。



「…そうだった。
君はそういう人間だったね」



犬牟田さんの様子を伺う。

確かに私なんかより断然お強い犬牟田さんにかなり失礼な事をしてしまった。
そういえば、私は守られる立場の人間なのだ。
だから彼はこうして私の側で私の力がバレないよう守ってくれているというのに。
出過ぎた真似をしてしまった。
でも、犬牟田さんが万が一傷付いてしまったらと思うと居ても立ってもいられなかったのも事実で。

肩を落として落ち込んでいると、犬牟田さんが溜息をつく。



「本当に君は馬鹿だな。
もし君が死んでもしたら怒られるのは誰か分からないわけじゃないよね?」

「す、すみま、せん…」

「そもそも、今は戦う時じゃないと、そう言ったハズだけど?
僕の話を聞いてなかったのか、若しくは理解出来なかったのか。なんにせよ君が馬鹿なのに変わりがないのは確かだと分かったよ」



戦う時じゃないと言ったのは例えではなかったのか。
なんたる。
散々に降り注ぐ犬牟田さんのお叱りの言葉に返す言葉もなく只々受け止める。




「…はあ、君に箒を使わせないと言ったのに」




溜息をつきながら犬牟田さんは呟く。

この台詞はてっきりからかったつもりで言ったものだとばかり思っていた。
まさか本気で言ってくださってたなんて。

犬牟田さんは本当によく分からない。
しかし、他の方達と同様、とても優しい人だという事は分かる。



「…ありがとうございます」



私がそう言えば、犬牟田さんは目を丸くして一瞬だけ目を逸らし「やはり君は馬鹿だな」と呟いた。

馬鹿なのは事実なので言われても全然平気です。




「ちょっと、お二人さん、なぁーに戦場のど真ん中でイチャついてんのよ」



いきなり後ろからかけられた声。
そちらを振り向けば、そこにはブルマ姿ではない煌びやかな新しい極制服に身を包んだ蛇姫様がいらっしゃった。
以前とは違い装飾が金色に輝きとても美しい。
その蛇姫様の後ろには同じく装飾が金色に輝く新しい極制服を着た蟇郡さん。
此方も凛々しくかっこいい。
そして雄っぱいが素晴らしい。



「犬牟田!君の極制服だ!受け取れ!」



いきなり伊織さんの声が響いた。

蟇郡さんと蛇姫様の方にいらっしゃるワケでもなく、何処からか全く分からない。
キョロキョロと探していればズドン!と犬牟田さんの目の前にキャビネットが降ってきた。
あまりの衝撃に私は驚いて尻餅をつく。



「すまないね、伊織」



そう言うと犬牟田さんはキャビネットへ向かう。
すると身体は光に包まれ、眩しくて見えなくなる。
しかしそれは一瞬で、目を開けた瞬間、先程までジャージだった犬牟田さんは見事に新しい極制服へと着替えていた。

なんたる早業。



「苗字!!貴様何故ここにいる!!?」



そしていきなり飛んできた蟇郡さんの怒号に驚いて後ろに転ける。

びっくりした。

慌てて蟇郡さんに向かい姿勢を正し正座をする。

そうすれば蟇郡さんは仁王立ちで腕を組み私にお説教をしてくださる。
駄目だ。やはり雄っぱいが全てを邪魔をする。

そうやって説教を受けていれば
蛇姫様がうざったそうにそれを止めてくださった。
蟇郡さんは仕方がなさそうにそれに従う。
なんかすみません本当に。




「さぁーて、後はお猿さんだけね」


「どうやら予想以上に宝田が粘っているそうだよ。皐月様まで参戦しているようだ」


「なに!?皐月様が!?
ならば直ぐにでも馳せ参じ皐月様の御身を御守りせねば!」




皆さんのお話に黙って耳を傾ける。
すると一斉に歩き出し、私はそれの邪魔にならないように後ろをついて行く。

火の海でも、戦場でも、前の三人を見ていれば不思議と怖いという感情は出てこない。

頭の片隅にいる流子ちゃんの安否を気にしながら、私は戦場を進んだ。





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