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「わぁあ…」


はじまりました。
三都制圧襲学旅行。
今現在、私は犬牟田さん率いる情報戦略部隊の方達が頑張っている車の中にいます。
見渡す限り機械ばかりで空いた口が
塞がらない。
これら全て犬牟田さんは扱えるのかと考えたら改めて犬牟田さんの凄さを
思い知らされた。

情報戦略部隊の方に案内され、少しあいた空間の所に椅子が設置されており、そこに座っておくよう言われる。
とりあえず言われるがままそこに座り皆さんの様子を伺う事にした。

沢山のモニターには四天王の方達のお姿。
蟇郡さんは神戸、蛇姫様は京都、猿投山さんは大阪へと向かっているようだ。
どうやら、犬牟田さんのこの部隊も大阪に行くらしい。

まるで近未来のような車の中で、私は一人箒を握りしめていた。









38









機械音がひたすらに響く。
犬牟田さんの仕事振りを拝見しようと思い犬牟田さんを見ていればスピーカーから伊織さんの声が聞こえた。



「生命繊維耐性の強い生徒をチョイスし、神衣鮮血の各パーツを配布しています」


我が耳を疑った。
鮮血といえば流子ちゃんがいつも着ているあのセーラー服の事ではないか。
その服のパーツってどう言うことだ。
なんでバラバラになってるんだ。
流子ちゃんに何かあったのでは。

思わず立ち上がり伊織さんの声が良く聞こえるように近寄る。



「襲学旅行用極制服に装着し、それぞれの能力のパワーアップアイテムとして使用出来るかを実戦で確認します」




流子ちゃんの安否について全く言われず、私の中の不安が一気に拡がる。
いても立ってもいられなくなり、何とかここから出ようと周りをウロついていれば学生に座るよう促された。

揺れる車内でただただ流子ちゃんの安否だけが心配だ。
犬牟田さんに聞こうとも思うのだが、彼は座って仕事をしていてとても話しかけられる雰囲気ではない。

箒を握りしめて立ち尽くしていれば、
車内が揺れその反動で再び椅子へと逆戻り。

椅子から立ったり座ったりを何度も繰り返し、ふとモニターを見ればいつの間やら戦闘は始まっていて沢山の人達がそれぞれの武器を手に戦っている。
一つ攻撃を仕掛ければ誰かが吹き飛び、それをやり返せばまた誰かが吹き飛ぶ。
それの繰り返しだった。
あまりの光景に眉間に皺が寄る。
これは戦争なのだと改めて思い知らされた。



「おや、相手方も中々にやるようだね
四神相応の陣か。ふむ…」



犬牟田さんがポツリと呟いた。
四神…?なんて…?

目線をやれば、モニターには蛇姫様。
人より数十倍は大きな亀や龍やら大きな生き物がドームのような場所で所狭しと暴れていた。

あんな大きな生き物と戦うなんて蛇姫様が怪我をしてしまう…!

犬牟田さんを見つめれば彼は楽しそうに大きな生き物を見てブツブツと呟いていた。



「面白い連中だね
ちょっと相手をさせてもらっていいかな?」



彼はカタカタと機械を弄る。
そうすれば、見ていたモニターの端に目の前にいるはずの犬牟田さんがいた。
思わず犬牟田さんとモニターを交互に見つめる。
蛇姫様も驚いたようで「うわッ、犬牟田!?」と隣にいる犬牟田さんを見つめていた。
私も目の前にいる犬牟田さんを見つめる。
犬牟田さんが、二人いる…!?

きょとんとしていればモニター越しの蛇姫様がもう一人の犬牟田さんに話しかける。


「あんた大阪でしょ!?何故ここに!?」

「驚く事はない。
映研が投写しているホログラムだから」



犬牟田さんだけ近未来を行き過ぎてる。

ホログラムの性能の良さに目を丸くするばかり。



「武装美術部!前へ!」



犬牟田さんの掛け声と共に美術部の方達が何やらペンのような物を持ち構える。
その瞬間犬牟田さんは両手にカードを掴み大きく広げ美術部の方に見えるようにする。
その瞬間、美術部の方が持っていたペンがロケットランチャーぐらいの大きさに変わりまたも目を丸くした。



「これは数学部が計算した非ユークリッド空間成立式。
美術部諸君!これを元にパラドックスペインティングだ!」


ぐるぐると、一定の速度でカードを回す。それに合わせて美術部の方もペンを回せば、目の前には大きな手が円を描くように描かれ、それと同時回る。
回る速度が段々と増し、何が描かれているか分からないぐらいになった。

そして、ホログラムの犬牟田さんはそれを暴れ回る生き物に向かって勢い良く投げつける。

描かれたモノはブーメランのように飛び、暴れ回る生き物を次々と消し去っていった。
なんていう威力。
あんなデカイ生き物が一瞬で。

消え去った生き物に合わせてキラキラと青い何かが弾け空から降り注いでいる。
モニター越しの蛇姫様はそれを惚けた顔で見つめていらっしゃる。
私も蛇姫様のお気持ちが良く分かる。
何故こうなったのかワケが分からない。


「エッシャー・トポロジーアタック」


「…何それ?」


「四神相応の陣は地磁気を応用し、この場所を特殊な電磁波で包み、人間の神経信号に混乱をもたらすモノ。
今、美術部が描いた絵でこの異相空間を変化させ、地磁気を混乱させた!
結界を無効化したという事だよ!」




犬牟田さんの説明にまったく理解が出来ない。
それは蛇姫様も同様なようで、呆れたような顔をされながら犬牟田さんを見つめている。




「まっったく分かんないけど、イヤミな連中にはイヤミな奴が効くって事ね」


「だったらここからはキミの独壇場だね。ほら。」



モニターの端で敵であろう方が、大きな声を出して指示を出す。
それと同時に弁慶のような格好をした沢山の人達が薙刀を持ち蛇姫様の前に現れた。
あまりの人数の多さに目を見開く。
このままでは蛇姫様が危ない。

しかし、犬牟田さんもいればきっと怪我もなく無事に切り抜けられるはず。



「ああいうのは趣味じゃないんで。後はよろしく」



まさかの犬牟田さんの言葉。

そんな。あの数相手に蛇姫様一人だなんて。
不安になり犬牟田さんに一緒に戦って貰えるようお願いしようとすれば、彼は私の前に手を出し言葉を止める。


「蛇崩一人で十分さ」


そう呟いた瞬間、モニターから盛大な音楽が聞こえる。
この曲は、蛇姫様から頂いたCDに入っていた。


「…威風堂々」


その曲は襲いかかる敵を跳ね飛ばし
壁へと叩きつける。
次々と吹き飛ぶ敵の方達を見て、また眉をしかめる。
人が怪我するのなんて、見ていて気持ちの良いものじゃない。

次々と人は吹き飛び地面には人の山が出来ていく。

私はそれを見る事しか出来ない。
どちらも選ぶと、私は決めたのに。
今こうしてなにもしていない自分に嫌気がさす。

私に力があればと箒を握り締めた。




「君が今考えていることを当ててあげようか」



犬牟田さんがポツリと呟いた。

彼は仕事をしながら話しているから
顔は見えない。




「君は出来る事なら敵も味方も誰も傷付いて欲しくないと思っている。
それを願いながら何も出来ない自分の非力さを実感し、悔しく思っている。
まあ、こんなところだろうね」




見事に的中され、私はさらに箒を握り締めた。
何も言えず俯き、改めて自分の非力さを実感する。
他人から言われ更に現実を叩きつけられ、泣きたくなった。



「ここまでは君の考え。
さて、今からは僕の考えを聞いて貰おうか」



俯いた顔を少し上げれば、犬牟田さんの後頭部が見えた。
彼は仕事を淡々とこなしながら呟く。



「君自身が思う通り、君には戦う力なんてない」



ズバリと一息で言われ更に落ち込んだ。
私が落ち込むのを他所に犬牟田さんはカタカタと仕事を続ける。
何故改めて事実を叩きつけるのだろう。
泣きたくなってきてしまった。

泣きそうになるのをグッと堪えて犬牟田さんを見つめる。



「だけど、君は自分と戦った」



続けてきた犬牟田さんの言葉。
泣きそうになったのは何処かへいき、
犬牟田さんの言葉が頭に響く。

箒を握り締めていた手が緩む。
手に一気に血が通い、温もりが増した。



「昔のキミなら、こんな戦場、絶対来なかった。来れたとしても人とも目を合わせられない臆病者が、こうしてモニターを見て、誰かが戦い傷付いていくのを見れるワケがない
だけど、今はどうだ。
モニター越しに戦いを見て、蛇崩を助けるように僕に意見しようとした。
これは著しい変化だ」



カタカタとしていた音がいつの間にか止み、犬牟田さんの手が止まっていた。
背中を向けたままで、顔は見えない。
犬牟田さんの言葉に俯いていた私はいつの間にか顔を上げていた。



「自分を変える事は何よりも力がいることだ。
今は戦えなくて良い。
ただ、今は戦う時じゃないだけの話だ。
変われた力があるなら、君は戦える力を得るようになる。
以上が僕の考えだ」



犬牟田さんは淡々とそう続け、再びカタカタと仕事を始めた。

犬牟田さんのお言葉に、涙が溢れる。

情けない自分が犬牟田さんのお言葉で救われた気がした。
安全地帯でぬくぬくと戦いを見るしか出来ない自分のこの感情を綺麗にしてくれた。
箒を抱き締めて涙が出ないように耐える。
視界は歪んで、犬牟田さんの姿なんて全く見えないけれどそれでも涙は流さない。
泣いてしまったら犬牟田さんの言葉が消えてしまいそうな気がするから。



「…ありがとう、ございます」



深く頭を下げて礼を言う。
顔を上げれば犬牟田さんは此方を向いていて笑っていた。

その犬牟田さんと目が合えば彼は肩をすくめる。
何事かと首を傾げれば彼は溜息をついて再び笑う。



「また君の泣き顔が見れるかと思ったんだけどね。
予想が外れたみたいだ」



からかうように笑いながら言われ、
思わず先程出かけていた涙はひっこみ思わず顔を見せないよう隠した。
そうすれば再び犬牟田さんからカタカタと機械を弾く音が聞こえる。

目線だけそちらを向ければ彼は何事もなかったかのように仕事を再開していた。

犬牟田さんは意地悪な事を言う事が多いけれど、いつも困った時には助け舟を出してくれている。
それがとても嬉しかった。

顔をあげてモニターを見つめる。

今、戦えないのだとしても、私は私の出来る事を探そう。
もしかしたら、この戦いの中で出来る事があるかもしれない。

モニターを見つめながら、
私はそう決意を固めた。






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