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「………あれ」



目を覚ませば見慣れない天井。
ここは何処だろうか。
ボーッとする意識の中、
これまでの経緯を何とか思い出そうと
頭を使う。
身体中が痛い。
頭が特に痛い。
何故か。


「!!流子さん!」


ガバッと起き上がれば途端に
頭と身体中が悲鳴を上げる。
あまりの痛さに声にならない。
涙目になりながらも、状況を把握しようと周りを見渡せば、清潔な部屋。
見たことのある間取り。
ここは、病院だ。

私がここにいるなら流子ちゃんも
ここにいる可能性がある。
あんな血を出していたのだ。
きっと大怪我で苦しんでいるに違いない。
病室は何処だろうか。

ベッドから立ち上がる。
ギシリと身体が軋むがなんてことはない。
スリッパを履いて入口まで壁に手をつきながら進む。
やっとの事で入口までたどり着き
取手に手をかけた瞬間扉が開いた。
予想だにしないことで、バランスを崩し転ぶ。
その衝撃で身体に表現しきれない痛みが駆け巡った。

無言で悶えていれば、頭上から溜息が
聞こえる。
涙目でそちらを見れば水色ジャージ姿の犬牟田さんが其処にいた。

彼は眼鏡をキラリと光らせて
顔を横に向けた。



「蟇郡、脱獄犯がここにいるようだよ」




告げ口良くない!!











37











「数日眠ったままだったというのに!何を考えている!!」



只今、ベッドの上で蟇郡さんに説教を受けています。

あれから数日もたっていたとは思わず、思わず変な声をあげてしまった。
私、そんなに眠っていたのか。

流子ちゃんの事を聞きたくてたまらないのだが、ガミガミと私を説教する蟇郡さんに向き合う。
蟇郡さんも犬牟田さん同様にジャージ姿で、その色は黄色。
ジャージは少しゆとりのある作りをしているハズなのに、全くそれを感じさせないピチピチ感が蟇郡さんの素晴らしい雄っぱいを強調していてたまらない。
チャックをちゃんと上まで上げているものだから尚更だ。
肌を殆ど見せていないというのに逆にいやらしく見えてしまうとは何と罪作りな。
そのせいで説教は右から左で、必死で顔のにやけを抑える。


「蟇郡。説教はそれくらいにして、本題に入るべきだと思うよ」

「む、それもそうだな」


犬牟田さんの静止に蟇郡さんは説教をピタリと止める。
本題とはなんだろうか。

犬牟田さんはPCの画面を此方に向ける。
其処に書かれていたのは「三都制圧襲学旅行」というもの。
修学旅行ではなくて襲学旅行なあたり、
良い予感はしない。

犬牟田さんがパソコンの画面で
修学旅行…じゃない、襲学旅行の説明を
してくださった。
関西の学校を制圧しに行くとの事だが、何故そんな制圧しに行かねばならないのか…。
他所はよそ。ウチはウチではダメなのだろうか。
喧嘩しないならそれに越した事はないじゃないか。

そもそも、私には何故この学園がそんな戦争紛いな事をしているのかも分からない。
一瞬、先生が以前言っていた「人類生命繊維化」という言葉が頭によぎったが、首を横に振る。
自分の目で確かめなくては。



「…そういえば…何故私にその説明を?学園行事なら私には関係ないハズでは…」

「関係大アリさ。
この間、君の監視が誰一人としていなくなるのは非常に危険だからね。」


「え、ちょ、え、ま、待ってください。
私、行くんですか?」


「だからそう言っているじゃないか」



今初めて聞きました。

どうしよう。
私本当闘う力皆無なのだけど、どうにかして直ぐ強くなれる方法はないのだろうか。
蟇郡さんがくださった防犯グッズでは不安だ。
光線ぐらい撃てるようにならないと
生き残れる自身はない。



「因みに、変な勘違いを招いているようだから言っておくけれど、君は僕と一緒に行動するから戦う必要は一切ないよ」


「へ」


「苗字は犬牟田が率いる情報戦略部隊にて匿う事が決定している。
戦いから一番遠い部隊なのでな」



惚けた私に蟇郡さんが優しくフォローを
くださる。
そうか、私、戦う必要はないのか。
それはそれで、皆さんが傷つく所を見ないといけないから辛いものはある。
私が皐月様や流子ちゃんや四天王の皆さんみたいに強ければ、皆さんを守れるのに。



「あの、流子さんは…!?怪我は…!?」


戦いという言葉から一番気になる流子ちゃんの事を二人に尋ねれば、怪我も治り無事とのこと。
それを聞いて酷く安心した。

少し溜息をつけば、蟇郡さんが優しく頭を撫でてくださる。
それに驚いて顔を上げれば蟇郡さんは静かに首を横に振り「気にするな」と声をかけてくださった。
本当に天使なんだけど。

私が蟇郡さんにキュンキュンしていれば、犬牟田さんが開いていたパソコンを閉じて私の名前を呼んだ。
同行させていただくにあたり、何か準備しなければいけない物でもあるのかと思い慌てて犬牟田さんに向き合う。

彼は私を数秒見た後、口を開いた。



「…そういう君の怪我の治りは?」

「あ、はい、お陰様で。
ここのお医者様の腕は素晴らしいですね!」

「…そうか。
…まあ、あれだけ惰眠を貪っていたのだから当前と言えば当前だね」



なんとも痛い指摘で言葉も出ない。

そういえばここの病院代はどうしようか。
私お金持っていないのだけれど、どうしよう。

ソワソワしていれば、蟇郡さんが私の様子に気付いたのか大きく溜息をついて「病院代は俺が出した」と私に語り掛ける。
二回目の入院まで面倒見ていただき本当に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで頭が上がらない。
思わずベッドの上でいろいろな意味を込めた土下座を決め込めば蟇郡さんが「やめろ」と言って私の首根っこを持って持ち上げた。
力持ちだ。

するとガラリと病室の入り口が開く音が聞こえた。
そちらに目をやればそこには蛇姫様と猿投山さんと伊織さん。

思わぬ来客に目を見開く。



「なぁによ、やっと起きたの?
豚じゃあるまいし寝過ぎにも程があるんじゃない?ホント、迷惑だわー」



出会い早々厳しめのお言葉をくださった蛇姫様を見て思わずほっこりする。
蛇姫様から厳しめのお言葉をいただいてもご褒美にしか思えなくなってきた。
変態ではないと、思う。

普段のお姿も麗しいというのに、今の格好は上がピンクの長袖ジャージに下がブルマだというお姿。
こんな可愛くて本当に大丈夫なのだろうか蛇姫様。

あまりの可愛さにニヤニヤしていれば、蛇姫様が指揮棒で私の頭を叩き「気持ち悪いのよ」と吐き捨てた。
痛みでさえ嬉しくなってきた。
私は、変態では、ない。

殴られた頭をさすっていれば、隣で様子を見ていた伊織さんが紙袋を私に差し出した。
いきなりの事に目を見開いていれば
伊織さんが紙袋を開けるよう促す。

そのご指示の通りに紙袋を開ければ
そこには私の制服。
ボロボロだった所が修繕され、新品同様になっていた。
しかもデザインも少し変わって、動きやすいようにか足元まであったスカート丈が膝までになっている。
装飾も減り、変わりに所々に綺麗な刺繍が入っていた。
あまりの嬉しさと可愛さに言葉を失い、伊織さんに土下座をする。

こんな素晴らしいものをいただいて良いのだろうか…!



「言ったろう。服の事ならば任せてくれと。
君はよく騒動に巻き込まれるようだから少しでも逃げやすいよう動きやすく改良させて貰った。
後は…猿投山あれを頼む」


「ああ」


伊織さんに呼ばれ猿投山さんが出てくる。
彼は手にやたら長く包装された物を持っていて、
それを私に渡してくれた。
何が何やら分からず渡された物を見てオロオロしていれば猿投山さんから「開けろ」のご指示。
言われるがままにそれを開ければ、
そこには私がよく使っていた箒。

何故箒?

使っていた頃より少し綺麗になった箒を見て首を傾げれば今度は伊織さんが再び指示をくれる。


「これも、よく騒動に巻き込まれる君の装備品だ。
犬牟田と協力して蟇郡の縛の装を元に、その箒を少し改造させて貰った。
箒の柄の先端にあるボタンを押してみてくれ」


ご指示の通りにボタンを押した。
すると箒の穂体の部分が瞬時にゴムのように伸びて目の前の猿投山さんの全身に絡み付いた。
足首まで巻き付かれ歩く事もままならない。
猿投山さんは予め伊織さんから言われてたのか黙ってそれを受け止める。
猿投山さんが力を入れてもがくが箒はビクともせず猿投山さんを拘束していた。

何が起きたかワケが分からず箒と猿投山さんと伊織さんを順番に見ていれば、伊織さんから再びボタンを押すよう指示。
慌ててボタンを押せば箒は猿投山さんを拘束した部分と本来の箒の形に切り離される。
猿投山さんが転けた。

箒を握りしめて惚けていれば、
伊織さんは私に近寄り箒を指差す。



「自分の身に危険が起きた時はコレを使うと良い。
敵を拘束し自由を奪う。
拘束した後はボタンを押せばご覧の通りだ。
相手は拘束したまま放置して君は逃げれる。」



私のためにこんな凄いモノを作ってくださった事に感動して伊織さんと犬牟田さんに頭を下げる。
これがあれば、皆さんにご迷惑をおかけする事も減るハズだ。
本当に良かった。



「おい!伊織!!これを!どうにかしろ!」


「申し訳ないが外からの力で外れるようには設計していないんだ。
一時間程立てば自然に外れる。
それまではそのままだ」


「なに!?聞いてないぞ!!」


「お似合いじゃなぁーい、おサルさん」



クスクスと蛇姫様が転がっている猿投山さんを指揮棒で指して嘲笑う。
それに腹を立てた猿投山さんはもがもがと激しく暴れだした。
拘束具はビクともしない。
一時間もあのままなら、結構遠くまで逃げれる事が出来そうだ。
箒をギュッと握りしめて、この箒を大事にしようと決めた。

猿投山さんをからかっていた蛇姫様は飽きたのかピタリとからかうのを止めて
私の方を向く。
思わず姿勢を正した。


「バイト。襲学旅行の出発は明後日。明日には退院して準備しときなさい。いいわね」


指揮棒でビシッと指され、何回も呟く。
本当に可愛らしい。



「分かればいいのよ。
じゃ、アタシはこれで帰るわ。おサルさんの事ヨロシク」

「ならば俺も帰るとしよう。
極制服のチェックもある」




蛇姫様の言葉を皮切りに、伊織さんも帰って行く。
病室には拘束された猿投山さんと
パソコンを弄る犬牟田さんと蟇郡さん。
猿投山さんは下唇を尖らせ酷く不機嫌な様子だ。
犬牟田さんは無言でカタカタとパソコンを打ち込む。
蟇郡さんは散らかった包装紙を片づけてくださっていた。



「ふむ、礼を言うよ。猿投山。
おかげで良いデータが取れた」


「…………」



どうしたらいいか分からず二人を見守る事しか出来ない。
猿投山さんは私のために実験体になってくれたワケで。
なんとかして助け出したいのだが外からの力ではビクともしないというのであれば、私がどうこうした所で意味はない。
とりあえず、謝罪をすれば猿投山さんは下唇を尖らして「フン」と呟いた。
怒ってらっしゃる。



「きっと襲学旅行で箒を使う事はないだろうしね」


「当たり前だ。情報戦略部隊で避難していれば巻き込まれる事なんて先ずはないに決まっている」


「違う。猿投山。そうじゃない」



犬牟田さんは、パソコンを触るのを止めて立ちあがる。
猿投山さんがどういう意味だと睨みつければ、犬牟田さんは猿投山さんを一瞥して不敵に笑う。





「僕が側にいるからに決まってるじゃないか」





その言葉に一気に顔が赤くなるのが分かった。

彼にとっては仕事でも、さらりと遠回しに守ると言われ、赤くならない人なんているのだろうか。
犬牟田さんは目だけを此方に向けて楽しそうに笑う。
ああ、からかわれている。
本当に犬牟田さんはタチが悪い。



「さて、僕はこれで失礼するよ」

「ふむ、確かにこれ以上いても苗字の身体に障る。俺も失礼するとしよう。」



犬牟田さんの言葉に蟇郡さんも立ちあがる。
蟇郡さんは拘束された猿投山さんを傍らに抱える。
力持ちだ。

背を向けて病室を後にしようとする三人に礼を言って見送った。

一気に静かになった病室で一人箒を見つめる。

少しでも迷惑をかけないように頑張ろうと決意を決めて私はベッドに潜り込んだ。





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