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けたたましい音。
崩壊音に混じった友達の声に
出そうになる涙を堪える。

おぼつかない足を叱咤して
ひたすら前に進む。

遠まきに友達の姿が見える。

あと少し。
あと少し。

飛んできた瓦礫が腹部に直撃した。
治り切っていない肋がミシリと
再び音を立てる。
あまりの痛みにその場にうずくまる。
それでも、負けるかと顔を上げて友達を
見れば、その周りで起こる爆発。

爆風で後ろに転がる。
耳鳴りが酷い。
目の前が赤い。
意識が飛びそうだ。
聞こえるハズの爆発音が聞こえない。

けど不思議と、友達の声は聴こえた。












36










満艦飾マコは、車に乗っていた。
運転するのは父、薔薇蔵。
共に乗車する母の好代、弟の又郎とペットのガッツ。

頭にあるのは血飛沫を上げる友達を助ける事のみ。
ひたすら前を向くその瞳はとても強い。

飛んでくる瓦礫や、爆発など気にも止めず変にデコレーションされた軽トラックはスピードが落ちることはない。


「おい!マコ!!彼処に倒れてるの友達じゃねぇのか!?」


薔薇蔵の声に、探している友達の事かと思い、言われた方を向けば其処にはボロボロに横たわるもう一人の友達の姿。
マコは言葉にならない叫び声を上げて、運転する薔薇蔵のハンドルを無理矢理回す。
向かう先は倒れている名前。
猛スピードで側に車をつけ、マコは慌てて側に駆け寄った。

名前はまたボロボロで、今度は血で赤く染まっていた。

車から家族も降りて名前に駆け寄る。
マコが抱える彼女を見て薔薇蔵が慌てたように救急箱を持って来た。



「名前ちゃん!名前ちゃん!」


血塗れの彼女を抱えたマコは彼女の無事を確かめるよう身体を揺する。
すると、閉じられていた目が薄っすらとあき、目が合った。
マコは泣きそうになった顔を綻ばせ、再び彼女の名前を呼ぶ。
呼ばれた名前はマコを確認し、力なく微笑んだ。

その笑顔を見たマコは彼女をおんぶして立ち上がる。

治療を始めようとしていた薔薇蔵が、目を丸くしてマコを見つめた。
背負っている名前を降ろすよう促すが、マコは目をキリッとさせ口を固く結び何も言わず再び車へと戻って行く。
薔薇蔵はワケも分からず自分の娘に付いて行くしかなかった。

名前を車に乗せれば好代が慌てて治療を始めた。
治療を始めるのを確認して再び車は動きだす。

何も言わない娘に薔薇蔵は声をかけた。



「お、おい、マコ。
名前ちゃんは連れて行かねえ方がいいんじゃねぇのか?」


その言葉にマコは黙って首を振った。

彼女の怪我は酷い。
見た限りでは頭に受けた怪我はかなり深いのか血が止まらないし、身体中痣だらけで意識を失っていたのだ。
そんな怪我人を連れてあの戦場真っ只中の所へ行くだなどと。
薔薇蔵は顔を少しだけしかめた。

すると、マコは「ダメだよ」と呟いた。



「名前ちゃんも流子ちゃんを助けに来たんだよ。マコと同じ気持ちなんだよ。だからここで引き下がったら、きっと名前ちゃん、凄く後悔しちゃう。マコがそうだもん!」



ぎゅっと、拳を握る。
薔薇蔵はその姿を黙って聞く。
娘の目の強さは変わらない。
むしろ、更に強くなった。




「一緒に行く!
だって私達、友達なんだから!!」




その言葉を聞いて、誰が止められよう。
薔薇蔵はニカッと笑い決意を固めた。



「よっしゃ!父ちゃんが二人を絶対流子ちゃんの元へ送り届けてやるからな!」

「ありがとう!父ちゃん!!」






赤と白の光がぶつかり合い
激しく火花を散らす。
綺麗な火花とは裏腹に巻き起こるのは
破壊のみで、瓦礫の嵐は止まない。

鬼龍院皐月と友達がぶつかり合うその真ん中へ車は進む。

再び赤と白がぶつかり合いそうになった
その時、マコが叫んだ。




「ダメーーーーー!!!
流子ちゃーーーーーん!!!!」




その声に名前の意識が覚醒した。激しく揺れる車体など気にもせず、
怪我した身体など気にもせず、
彼女は起き上がった。

前を向けば、もう眼前には友達。


車体から身を乗り出し、
ありったけの声で呼ぶ。




「流子さん!!!」




瞬間、赤と白はぶつかり、星の海のような物が溢れだした。
それに車は飲まれ後方へと弾きだされる。
その衝撃で乗り出していた身体は放り出され星の海へと沈む。
何て熱い海だ。
沈む身体をなんとか水面へと浮かせようとするが、身体が痛くて思うようにいかない。
息がもたない。
そう思えば、不思議な事にいつの間にか星の海は消えていた。

慌てて周りを見れば、友達が友達を抱き締めている。

軋む身体を何とか起き上がらせて、
二人へ近づく。



「ダメだよ!流子ちゃん!!こんなの、流子ちゃんらしくないよ!!」



マコちゃんと流子ちゃんから
音が聞こえる。
何かを熱い物に押し付けたようなその音が友達から聞こえ、耳を疑った。
その熱はきっと流子ちゃんのもので、
彼女の血で、彼女の怒りと悲しみで、それは出来ているのだ。
我を失い、姿形を変える程の怒りと悲しみなんて想像だに出来ない。
流子ちゃんは苦しんでいる。


「流子ちゃん言ってたじゃない!お父さんの仇を取るんじゃない!お父さんの事が知りたいんだって!」


マコちゃんの口から語られる流子ちゃんの事実に耳を傾ける。
身体を引きずりゆっくりと二人に近寄る。


「でも、今のまんまじゃただの怪物だよ!吠えて暴れて学校壊して!これじゃマコと一緒だよ!喧嘩部で舞い上がってたマコと!」


何度も何度も払われ、その度にマコちゃんは流子さんに抱き着く。
目から涙を流しながら、彼女は、友達のためにそれをやめない。


「あの時、流子ちゃんは私を正気に戻してくれた!だから!今度は私の番!
私が!流子ちゃんを!取り戻すーーー!!!!」


スポットライトが当たったマコちゃんによって繰り出された攻撃は
流子さんに当たり、ボキリと何かが
折れた音が聞こえた。
その瞬間、流子ちゃんからバシンと何かが弾ける音と軋む音が聞こえ始め、その音と同時に姿が変わる。

変わるその姿はまさしく流子ちゃんで、
涙が溢れてくる。


元に戻った流子さんに気付いていないのかマコちゃんは次々とビンタを繰り返す。
その勢いで倒れこんで、やっとマコちゃんは気付いた。



「はっ!流子ちゃん!!」

「……ありがとう」



元に戻った。
本当に良かった。

二人の側に辿り着く。
やっと辿り着いた。

流子ちゃんが私を見て目を見開き、
私の怪我を心配した。
あなたの方が酷い怪我だろうに。
本当に、なんて優しい子なんだろう。

足に力が入らなくてその場に座り込んだ。
それと同時に溢れていた涙がとめどなく流れだして、地面を濡らす。




「っ、良かっ、だぁ…」




汚いぐちゃぐちゃな顔。
流子ちゃんはそれに対して驚くわけでも謝るわけでもなく、微笑んで私の手に触れた。


あの時、私のために私を拒否した彼女は、私の手を慈しむように握る。


私はその握られた手をやっと握り返す。


あれから何日かかったのだろう。
やっと、やっと、友達の手を、握り返す事が出来た。

更に出る涙を流子ちゃんがそっと拭ってくれる。
拭ってくれた彼女を見れば、まるで天使のように優しい笑顔で私を見つめていた。





「名前も、ありがとう」






流子ちゃんは握り返した手を更に強く握ってくれる。
そして、マコちゃんが泣きながら抱き付いた瞬間、意識を手放した。
それを見て、私もその場に倒れる。

マコちゃんが流子さんと私の名前を呼ぶ声を最後に意識を手放した。







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