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「猿投山さん!何処ですか!?猿投山さん!」


ガラガラと崩れる足場、モウモウと立ち込める砂煙。
視界も何もかも不自由な中、私は足を進める。
猿投山さんはご無事だろうか。
流子ちゃんも心配だが、今は猿投山さんを助けないと。
きっと大怪我をしてる。あんな高さから落ちてしまったんだ。助けなければ。

猿投山さんの名前を呼ぶ度に砂煙が口に入り咳込む。
もっと大声で名前を呼びたいのだがそれが出来ない。とてももどかしい。

目を凝らして周りを見渡す。
猿投山さんは見つからない。



「…猿投や…!?」



もう一度名前を呼ぼうと口を開いた時に聞こえた崩壊音。
音がした真上を見れば自分よりも一回りも大きい瓦礫が私に向かって落ちてくる。
足が竦み動かない。

防衛本能で頭を手で覆い少しでも衝撃を和らげるため屈んだ。
その瞬間、クンッと首元が引っ張られる感覚。
本来なら苦しいハズのそれにスッカリ慣れた私は、引っ張った相手を冷静に見る。
それは、私が探していた人物だった。



「う、うわぁああ!?」

「うるさいぞ!貴様、せっかく人が助けてやったと言うのに何だその反応は!」



そりゃあ叫びますよ。そりゃあ目を覆いますよ。
何故裸で堂々としていられるんですかこの人は。

私が探していた人もとい、私を瓦礫から救ってくれた人、猿投山さんは今私の目の前で堂々と裸体を晒している。
何故恥ずかしくないんだろうかこの人。
むしろ私が恥ずかしくて堪らなんだけど。

目を隠したままで、猿投山さんに怪我はないかどうか伺えば「自分で確かめろ」ととても機嫌の悪い返しを頂いた。
それが出来ないから聞いているんです私。



「…そういえば、何故ここにいる?」

「あ、あんな高さから落ちていくのを見て、心配で…猿投山さんを、探しに…」



聞かれた事に素直に答え、そして再び怪我の有無を聞けば「…大した怪我はしていない」と先程より少し和らいだ声が聞こえた。
怪我がなくて何よりだ。
しかし、あんな高さから落ちて大した怪我しかしていないなんて、流石は四天王。



「なんにせよ、ここは危ない。おい、上へ行くぞ。
…何目を隠してやがる!」

「し、下!猿投山さんは下を隠してください!」



私が目を隠したままなのが気にくわないのか猿投山さんは私の腕を引っ掴んで目を開けさせようとする。
私はそれを最大限の力で拒み必死で目を守る。
この人露出狂かなにかなのか凄く疑いがかかってきた。

私が頑ななのに痺れを切らしたのか、猿投山さんは私の首元を掴んで歩き出す。
私は必死で猿投山さんの下半身を見ないように努めた。

するとスタジアムから音が響く。

爆発音でもなければ、瓦礫が崩れる音でもない。
それはまるで何か生物が吠えた音。

これは一体なんだ。

疑問が頭に残る中、猿投山さんに連れられるがままに私は歩いていった。







35










「あれが…!流子さん…!?」



皆さんの元へと戻り、スタジアムを見て真っ先に目に着いた血を噴き出すこの世のモノとは思えない生き物。
先程の吠えた音はあれからかと一瞬で理解して、あれは何かを問えば犬牟田さんから発せられた信じがたい言葉。

私の頭によぎる流子ちゃんと今スタジアムにいるあの生き物が一緒だなどと、誰が信じよう。
でも、犬牟田さん、蛇姫様、蟇郡さんの顔は真剣で否が応でもその現実を叩きつけられて泣きそうになった。


「!、あ、あの、マコさんは…!?」

「劣等生なら駆け出して行ったわよ」


いつの間にかいなくなった友達の所在を聞けば、またも耳を疑う言葉。
あんな崩壊していくスタジアムの方へマコちゃんは駆け出して行っただなんて。
ガラガラと崩れていくスタジアムを見て恐怖を覚える。

私も行かなくては。
友達が彼処にいるのに。

心とは裏腹に震える足が私の身体を引き止める。
目の前に見える明らかな危険に平和ボケした生身の鈍臭い人間がいきなり飛び込めるワケがない。

でも、でも。



「苗字。我々は皐月様の側へ行く。貴様はここにいろ。良いな!」



蟇郡さんがまるで私の考えを見透かしていたように言葉をかける。
手を肩に置かれ震える身体を確認したのか、蟇郡さんは少し安心したように眉根を下げた。
そして、そのまま他の方達と一緒に飛び出して行く。


その姿を見送って、ヘナヘナとその場に座り込む。
足に力が入らない。
私みたいな奴には無理なんだ。
皆、駆け出して行ったのに。
いざと言う時動けない。


流子ちゃんが吠えた。
闘っているのか流子ちゃんの周りに砂煙が立ち込める。
血飛沫がスタジアムを赤く染めていく。
尋常じゃないその量と勢いのある血は私のいる所まで飛んできた。
その血は私の手間でピシャリと弾ける。






『だめだ、名前は、アタシに関わっちゃ、いけねぇよ…』






飛んできた血を震える手で触った。
それはとても熱くて熱くて熱くて火傷しそうなぐらい熱くて悲しくて。







『こんなに、震えてるじゃねぇか』








いつだったか。
私のために私を拒否した私の友達は
今私の目の前であんなに泣いている。


決めたじゃないか。



「流子ちゃーーん!!!」




触った血を握って、足を殴り叫んだ。
震える身体は止まって、私は無我夢中で駆け出した。
考えなんてない。
流子ちゃんの所に辿り着く自信だってない。
けど、ここで走らないで何が友達だ。
友達が泣いてるのに、側にいないで何が友達だ。



「流子ちゃん…!流子ちゃん…!」



ドタドタと情けない足取りでスタジアムへ走る。
どんどんと崩れる足場に恐怖を感じながら走る。
近付くにつれて流子ちゃんの声が近くなるのと一緒に聞こえてくる破壊音。
そして爆発音が響きはじめた。

あの爆発は嫌でも見覚えがある。
紬さんだ。
何故こんな所に。


爆音に耳を塞ぎながらその爆発の中心へと足を進める。
足場が不安定過ぎて何度も転ける。
腕や肘から血が出るが流子ちゃんに比べればこんなの傷の内には入らない。
中心に行くにつれて目の前から拳ぐらいの瓦礫からそれ以上に大きい瓦礫が飛んでくる。
それを避けきれるワケなどなく身体中にそれらを受ける。
視界が赤く染まった。
何かと思いそれを拭えばそれは血で、一瞬流子ちゃんのかと思ったが拭っても拭っても落ちないそれは自分のだった。

クラリと視界が歪んでその場に座り込む。
それでも身体に鞭打って立ちあがる。


友達まで後少し。





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