昨日あれから紬さんの隣で寝てしまった私は、日がまだ昇りきっていない時間に目が覚めた。 そこに紬さんはいなくて、変わりに鈍く輝く鍵がそこにはあった。 何だろうと鍵を取り周りを見渡せば壊されたハズの扉が綺麗に直されていて、南京錠のような鍵が増えていた。 防犯対策だろう。 とても有難かった。 そして、私はいつもより遅めに学校へ向かう。 時刻はお昼過ぎだ。 蟇郡さんに「完璧に治るまで来るな」と言われていたが、そういうワケにもいかないので、いつもよりかは遅めに向かう事にしたのだ。 これで万が一怒られた場合は少しは言い逃れ出来るかもしれない。 学校は何処が汚くなっているだろうか。 皆さんに会ったらお礼を言わねば。 選挙はどうなったのだろうか。 いろいろ考えながら本能町を歩く。 途中で電気屋さんが見えて、そこに沢山の人達が集まっているのが見えた。 何だろうと覗き込めば人だかりの原因はどうやらテレビのようで、テレビには流子ちゃんが戦闘を繰り広げている姿が目に入る。 どうやら相手は蛇姫様のようだ。 これが、解散総選挙? 投票日でさえ闘うのか。 テレビに写るお二人の姿を見つめていれば、最前列にいるのはマコちゃんのご家族ではないか。 挨拶でもしようかと考えていればフワリといい香りが鼻を掠めた。 「ふーん、面白そうな事やってるじゃない!」 甘ったるい可愛い声が隣から響く。 綺麗に巻かれた金髪は彼女のピンク一色の甘ロリファッションに良く似合うように高い位置で二つに結ばれている。 お顔もパッチリお目々の非常に可愛らしいお顔だ。左目は何やら眼帯のような物で隠されている。 肌も透き通るように白くてまるでお人形のようだと思い見惚れてしまう。 私の熱烈な視線に気付いたのか、彼女は此方に顔を向ける。 バチリと目が合ったかと思うと彼女はニッコリと笑ってその場を後にした。 その場に残った香りはいつまでも消えなかった。 ![]() ![]() ![]() ![]() 「えええええええええ」 久々の学校に気合いを入れて校庭へと足を進めれば、そこにはスタジアムのようなものが建設されていた。 それを見て思わず口に出たのが上記の台詞である。 学校とは一体。 「凄い音が聞こえる…」 ワーワーと高くそびえたったスタジアムのような場所から沢山の声が聞こえる。 そして破壊音のような轟音も響いてくる。 そして何故かクラッシック音楽も。 この曲は、運命? 確か今日は総選挙の投票日だったはずでは? 疑問が頭をよぎり思わず首を傾げた。 とりあえず、仕事しようか、と校舎へと足を進める。 「犬牟田のデータ通りだ。今来たようだね」 「!、伊織さん!」 入ろうとした学校の入り口から出て来たのは久しぶりの伊織さん。 慌てて頭を下げて挨拶をすれば伊織さんは軽く頷いて返事を返してくださった。 伊織さんは私に近付いて私の足元から頭の先まで目を通す。 何事かと思いそのまま固まっていれば、彼はしゃがみ込みスカートに触れた。 「少し動かないでくれ」 そう呟くと彼は何処からか針と糸を取り出してスカートにそれを通す。 通したかと思えば一瞬で立ち上がり、満足そうにスカートを見つめていた。 「少し解れていたようだから直しておいたよ」 「あ、ありがとうございます…!」 なんていう神業。 あんな一瞬でスカートの解れを直してしまうだなんて。 伊織さんは天才だ。 感激していれば、伊織さんは再び私を足元から頭の先まで見つめる。 また何処かおかしいのだろうかと、自分でも確認していれば伊織さんは「いや」と呟いた。 「蟇郡から聞いたよ。 その服を狙った生徒達に襲われて入院していた、と」 「あ、はい、恥ずかしながらいろんな方に助けて頂いて…」 そう言えば伊織さんの色付き眼鏡の奥の目を見開いた。 その様子に気付いて伊織さんを見つめていれば、伊織さんは直様いつもの半目に戻り私を見つめた。 「…それだけなのか?」 「え、な、なにがでしょう…?」 伊織さんは溜息をつく。 全く意味が分からず変な汗が出て来た。 何故呆れた感じなのだろうか。 何か失礼な事でもしてしまっただろうか。 一生懸命考えていれば伊織さんは再び溜息をついて顔をスタジアムの方へと向けた。 「今、闘兵場で纏流子と四天王達が闘っている」 「…え?」 「見るかい?」 伊織さんにそう問われ、私は悩む。 大切な人達同士が闘い合う姿を見なくてはいけないのだ。 私はそれに耐えれるだろうか。 いや違う。 耐えなければならないんだ。 伊織さんの問いかけに頷けば、彼は「犬牟田の言った通りだ」と再び呟いて軽く笑い足を進めていった。 それに私は慌ててついて行く。 伊織さんに付いていけば、段々とスタジアムの観客席に近付いて来たのか歓声が大きくなってくる。 ドキドキとこれから目にする光景を想像していればいつの間にか目の前にボロボロのスタジアムと沢山の人がそこにはあった。 スタジアムはボロボロではあるが実に立派なもので、ラッパ状の形をしてそびえ立っていた。 その周りをグルリと観客席が囲んでいる状態だ。 その観客席もボロボロで、戦闘の被害にでもあったのだろうか。 スタジアムには電子掲示板も備え付けられていて、そこに流子ちゃんの名前と猿投山さんの名前が見える。 猿投山さん、目が見えないのに大丈夫なのだろうか。 流子ちゃんも喧嘩慣れしているからと言って無茶しなければ良いが…。 余りにも大掛かりな舞台を見上げて、今から行われる事を想像し、眉をしかめた。 「さて、と…」 伊織さんがキョロキョロとして何かを探し始めた。 私はそれを黙って見守っていれば、彼はいきなり私に向き合う。 そして指を指した。 指した先を見れば、ブルマ姿が大変麗しい蛇姫様に、何故か半裸の蟇郡さん、ジャージ姿の犬牟田さんそしてその間にマコちゃんがいらっしゃった。 一体どういう状態なんだあれは。 「あそこなら安心して観れる上、満艦飾もいる」 「あ、ありがとうございます」 頭を下げてお礼を言えば伊織さんは私に近寄り右手を掴む。 そしてその右手の手首にそっと何かを通した。 「シュシュ…?」 「ああ。囁かだがせめてものお詫びだ」 伊織さんは一言そう呟いてその場を立ち去られた。 頂いたシュシュと伊織さんの背中を交互に見つめ惚けていた意識を取り戻した私は慌てて大声で伊織さんの背中へお礼を告げた。 何のお詫びだか全く分からないが頂いたシュシュが嬉しくて思わず顔が綻ぶ。 喜びも束の間、歓声が一気に湧き立った。 スタジアムに目を移せば猿投山さんと流子ちゃんが向かい合っているのが見えた。 私はマコちゃん達がいる所へ急いだ。 「あーっ!!名前ちゃんだー!」 「ま、マコちゃん…!」 私に気付いてくれたマコちゃんが、座席の上に立って大きく手を振ってくれる。 駆け寄れば、マコちゃんの後ろにいた蟇郡さんが物凄い顔で此方を見ていた。 その顔に思わず身がすくむ。 「苗字、貴様…ここにいるということは怪我は完璧に治っているのだろうな…!?」 「あ、いや、その…」 「返事はハッキリと言え!!」 あまりにも迫力のある蟇郡さんが怖いのと、目の前に迫る素敵な雄っぱいに興奮して思わず顔を伏せてしまった。 怒られているのににやけてしまう。 なんて魅力。 蟇郡さんの大声に被せるように蛇姫様が蟇郡さんに煩い、と一言言って蟇郡さんは黙った。 「バイトもさっさと座りなさい!邪魔なのよ!」 「へ、蛇姫様、お怪我は…!?」 「うっさい!殴るわよ!」 余程イライラしていらっしゃるのかいつも持っていらっしゃる指揮棒を取り出して私に突きつけて来られた。 元気そうで何より。良かった。 「随分と早い退院だね」 「あ、はい、おかげさまで、治りが早かったみたいです」 「…そうか、それは良かったね」 私の姿を見ていた犬牟田さんがふいに口を開いた。 そんな彼にお見舞いのお礼を言えば、肩をすくめて再びパソコンに向き合い、スタジアムを指さした。 見れば猿投山さんと流子ちゃんはお互い変身していた。 今から戦闘が始まるのか。 スタジアムを見ていると、マコちゃんが腕を引っ張って隣へと導いてくれる。 されるがままにマコちゃんと犬牟田さんの間へ座りスタジアムを見つめる。 流子ちゃんと猿投山さんがお互いに武器を振りかざし迫った瞬間、その間に影が降り立った。 これは演出か何かなのだろうか、と目をパチクリさせていれば、皐月様が猿投山さんに逃げるよう命令する声が聞こえた。 「皐月様が狼狽している…!?」 「あんなの、見たことない…!」 皐月様の声はとても動揺していて、蟇郡さんと蛇姫様もそれを見るのは初めてのようで戸惑っていた。 マコちゃんが「でも、可愛い子だよ」と言っていて、スタジアムに降りた影を良く見れば、それは本能町で見た女の子で、私は目を見開く。 カタカタと犬牟田さんがパソコンを打つ音が聞こえて其方を見れば犬牟田さんでさえ彼女の事を知らない様子だった。 「何をしに来た。針目縫」 皐月様が凛とした声で彼女の名前を呼ぶ。 名前を呼ばれた彼女はニッコリと笑って、皐月様に話しかける。 「ズルイなぁ、皐月様。僕に黙ってこんな面白そうな事してるなんて!」 「貴様に知らせる義務はない」 「あー、冷たい!僕とアナタは一心同体じゃない!昼も夜もー!」 かなり変な事を想像させる彼女の声に蟇郡さんと蛇姫様がとても狼狽えている。 私も変な事を想像してしまってとても狼狽えた。 二人の関係性が全く見えなくて犬牟田さんを再び見れば、彼はパソコンに手を付けず今スタジアムに起きている事を凝視していた。 犬牟田さんでさえ彼女と皐月様の関係性は分からないのか。 私も再びスタジアムに目を移せば、変身した猿投山さんが大きな竹刀を彼女に突きつけている姿が見えた。 流子ちゃんとの闘いを邪魔されて怒っている様子の猿投山さんは痺れを切らしたのか彼女に武器を振りかざした。 思わず私は目を瞑り顔を伏せてしまう。 あんな生身の女の子があんな大きな武器をくらって無事でいられるハズはない。 ボロボロになった女の子の姿と悲鳴を見たくなくてそのまま目と耳を伏せていれば、猿投山の悲鳴が微かに聞こえた。 思わず顔を上げてスタジアムを見れば、裸の猿投山さんがスタジアムから落ちていく姿。 思わず目を見開いた。 「たった一本の糸で三ツ星極制服が!?」 「どういう事だ…!?」 「こういう時に解説すんのがアンタの役目でしょ!?」 「駄目だね、データがなければ解説できない」 皆さんの会話を耳にしながら私は立ち上がる。 落ちていった猿投山さんが心配だ。 あんな高さから生身の身体で落ちてしまったら…。 それを想像して顔が青ざめるのが分かる。 マコちゃんと蛇姫様が言いあっている声を耳にして私はその場を後にした。 Top |