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「……あの、紬さん」

「……なんだ」

「その、もう大丈夫ですから…座ってもよろしいでしょうか…」

「ダメだ」



猿投山さんが帰ってから、ずっとこの調子だ。
先程の事で肋は痛い、ストレスで胃は痛い状態になってしまった私は紬さんに強制的に横にさせられている。
そこまで酷くはない。酷くないのだ。
なのにやたら紬さんは過保護になってしまっている。
一体どうしたというのだ。


「おやおや…これはこれは」


ふと聞こえてきたイケメンボイス。
寝転んでいるので姿は見えないがこの声は先生のハズだ。
すると視界にイケメンモードの先生が写り込む。
私と目が合った途端先生はにこりと笑い紙袋を私に見せてきた。
御見舞いに来てくれたのだと理解して、慌ててお礼を告げる。
そうすれば先生はまた笑い紬さんの横にドサリと座った。

紬さんは先生を訝しげな目で見つめている。
先生はそんな紬さんにニヤリと笑う。
まるでからかっているような、そんな雰囲気だ。



「苗字くん。紬と何を話していたんだい?」

「………おい」



紬さんがとても怖い顔で睨みつける。
その瞬間、先生は肩をすくめて降参のポーズをした。
一体今の先生の質問に何か可笑しい事でもあっただろうか。
ましてや紬さんが怒るような事は何もないような気がするのだが。
先生は降参のポーズの後持ってきた紙袋を取り出して中味を取り出した。
私は取り出されたその中味に思わず目を輝かせ、「ふぁあ!」と喜びの声を上げてしまった。
そりゃ喜びの声を上げてしまうだろう。
何故ならその中味はケーキだったから。



「はは、そんなに喜んで貰えるとは思わなかったな」

「…け、ケーキ…!?い、いいんですか!?こんな、こんな贅沢なもの…!?」

「ああ、もちろん。御見舞いなんだから」



あまりにも嬉しくて起き上がれば、紬さんが私の頭を鷲掴んで無理矢理ベッドに押し戻した。
今ぐらい良いじゃないか!と叫びたくなった。



「紬、そんなに過保護にならなくても良いじゃないか」

「…何処が過保護だ」

「なるほど、無自覚か。厄介だな」



先生はケーキを取り分けながら、紬さんに語りかける。
紬さんは先生の過保護という適切なツッコミに目を見開いて、私を押さえつけていた手を慌ててのけた。
解放されたため、遠慮なく起き上がる。
何ヶ月振りのケーキだろう。
嬉し過ぎて涙目になる。
先生が取り分けてくれたショートケーキを受け取りそれを見つめる。
ショートケーキの輝きに私は目が霞んで見えない。
本当に美味しそうだ。
先生をチラ見すれば先生は「食べて良いよ」と促してくれたので、私は目の前に輝くケーキに手をつけた。













31













「っ、っ〜!」


「………落ち着いて食べろ」



ケーキを一口食べれば暫く味わっていなかった最高の美味しさが口の中に広がった。
その美味しさに私は顔をおさえて震える。
それを見ていた紬さんが真顔で冷静に諭してきた。先生はその様子を見てニヤニヤと笑っている。
そんなことなど気にならずに味を噛み締める。もう暫くは味わう事がないのだ。
この味をしっかり覚えねば。
もぐもぐとひたすら咀嚼していれば、いきなり紬さんが立ち上がった。
そちらを見れば、紬さんは「便所だ」と短く呟いてそのまま病室を後にした。
病室に先生と私。
先生は今まで紬さんにやっていた目線を此方へ向ける。
私がひたすらケーキを食べる姿を見つめてくる。
何かおかしい事でもしたのだろうか。

ケーキも半分食べ終わり、幸せを噛み締めていると、先生が紬さんが座っていた席へと移動した。



「どちらとも、選ぶんだって?」



先生がそう呟いた。
主語のないその台詞は言わずもがな紬さんに伝えた私の決意の事だろう。
その言葉に私は無言で頷けば先生は一つ溜息をついて私を見つめた。



「また、難しい選択をしたものだね」



少し困ったように先生は笑う。
私はケーキを食べる手を止めて先生に真剣に向き合った。
先生は私のその様子を見て、笑っていた表情を真面目なものに変えた。
そして、椅子から立ち上がり私のベッドへと腰をかける。
先生が座りやすいように私は少しスペースを空けて、ケーキを安全な場所に置いた。
これでケーキは大丈夫だろう。

さっきより距離が縮まった先生を再び見つめ直せば先生は至って真面目な顔だ。
真剣なお話でもするのだろうか。




「君の選択した答えだが、僕は賛成出来ない」



きっぱりと、先生から放たれた言葉に私は目を見開く。
先生は真面目でふざけた様子もなくて、如何に今の言葉が真剣なものかひしひしと伝わってきた。



「君は、自分の力がどれだけ貴重なものか…全く理解していない。
君の力さえあれば、世界が救えるかもしれないんだ」



ギシリとベッドが鳴った。
気付けば、先生の上の服がだんだんとはだけていて乳首の輝きがチラチラと私の目を刺激してくる。
真剣な話なのに何故服を脱ぐんだ。
乳首が眩しくて目をシパシパさせていれば、先生の身体がだんだんと近付いてくるのが分かった。
それに気付き、私は慌てて後ろへ後ずさる。



「鬼龍院皐月は敵だ。名前君、君はそちら側にいては危険なんだ。我々の組織へ来れば衣食住も安全も全て保証する」



以前も聞いた同じ内容の説得。
先生はどうしても私に納得して欲しいのだろう。
じりじりと、先生が近付いてくる。
それと同時にはだけていく服から目線がそらせない。
ベッドの幅にも限界はある。
その限界を向かえて、私の背中は壁とくっついた。
先生はこれまでにないくらい顔を近付けさせる。鼻と鼻がくっついた。
あり得ない近さに私の顔はすぐ真っ赤になる。
先生はそんな私の事など気にせずに、そのまま綺麗な口を開いた。





「君を守りたいんだ」





目があった。
真剣に言われたその言葉を耳にしながら先生の目を見つめた。
綺麗な二重まぶたで切れ長な綺麗な目だ。目の奥に吸い込まれそうな綺麗な色。
吸い込まれた先は真っ黒で、きっと何も見えないのだろう。
何も答えない私に対して紡ぎ出した最後の言葉に、どこか違和感を覚えた。
何故こんなにも彼は私を説得するのか。
何故こんなにも私の重要性を説くのか。
答えは簡単だった。

そして、私は反射的に口が開いた。




「嘘、だ」




先生が目を見開くのが分かった。
私はその目を見つめたまま、反射的に出た言葉から続けて言葉を紡ぐ。



「…先生が、守りたいのは、私じゃない。
私の力なんじゃ、ないですか」




そう言えば、先生は更に目を見開かせて顔色が少し変わった。

いつだって、先生から出た説得の言葉は私の力に対する事だけだった。

私の重要性を説いてくれるのはありがたい。私を守ろうとしてくれているのもとてもありがたい。
けど先生の瞳が見ていたのは私ではなくて、私の中にある力だ。
私が力を持っているから守るというだけで、もし、私が力を無くしたりしたら先生はきっと私を見捨てる。

あくまで憶測でしか過ぎないが、そう思うと少し怖くなった。

私の言葉に対して先生は何も言えず目線を逸らし言葉を探している様子だ。


「…………」


「……図星、なんですか」


そう聞けば先生は、なんともいえない笑顔になって少しだけ顔を離した。
それでもとても近いが、やっと先生の端正な顔がハッキリ見える。
その顔のなんと切ない事。

私は本当に失礼な奴だ。
先生のお言葉を無下にしてしまった。
でも、力だけが目的ってそんな、物みたいな扱いは嫌なのだ。

離れた先生はベッドの上で頭をポリポリとかく。
そして、気まずそうに笑って私の頭を軽く撫でた。
私は先生をひたすら見つめる。
かっこいい顔は切ない笑顔を携えたまま、私の頭をひたすら撫でていた。
撫でて欲しくなくてその手を嫌がれば先生は笑顔をやめてまた少し距離をあけた。

そして、ジャコンと聞き馴染んだ音が先生の頭から聞こえる。
そちらに目線を移せば、真顔で先生の頭に銃を突き付ける紬さんの姿がそこにはあった。
全く気づかなかった。
先生は少し目を見開き、苦笑した後私から手を離しそのまま肩まで上げる。



「…何をしてる?」

「やあ、紬。君が思うような事は何もしてないからそのミシンガンを下げてくれないか?」


ご立腹であろう紬さんに冷静に語りかける先生はとても冷静だ。
それに対して紬さんは乱暴に銃をしまい、先生の襟を引っつかんでズンズンと病室のドアへと向かって歩いて行く。
すると紬さんはピタリと立ち止まり顔だけ此方に向けてくる。



「…ベッドの下にあるものは好きにしろ」


そう静かに呟いて再びズンズンと歩いて行った。
美木杉先生は私を見つめ再び微笑み引きずられながら去って行った。
ピシャリとドアが閉まり、お礼を言い損ねた事に罪悪感を覚える。
とりあえず紬さんが言っていたベッドの下にあるものとは何だろうかと気になって下を覗き込めばそこにはスーパーの袋。
それを取り出して中を見れば思わず笑ってしまった。


「コンビニスイーツだ」


袋にはスイーツが数個乱暴に入れられている。
一つ一つ取り出して、先程先生から頂いたケーキの横に置く。
そして再び笑ってしまう。

種類は一緒でも、何処か違う。

再び笑って、先生から頂いたケーキの続きを口に入れた。
私が気付いた事が嘘であれば良いのに、と少し落ち込んだまま食べたその味は少ししょっぱかった。






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