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「名前!!!」


けたたましいドアを開ける音に眠りかけていた意識を取り戻す。
音の方を向けば、そこには青い顔をした流子ちゃんと険しい顔をしたマコちゃん。
私は思わず目をパチパチとさせた。

入院して一日目の今日、先生に鎮静剤を打ってもらい痛みもなく、優雅に過ごしていた。久々のフカフカのベッドが心地よ過ぎてうたた寝をしていた時に、二人は現れた。








27












二人はバタバタと私の近くまで近寄り、ワシっと頭や身体を触る。
ちょ、流石に痛い。



「っ、襲われたって聞いてよ…!本当に悪い…あの時、やっぱり送るべきだった…」

「そ、そんな!送らなくて大丈夫って言ったの私だから…!流子さんが落ち込む必要なんて…!」



落ち込む流子ちゃんを慌てて慰め顔を上げさせる。
流子ちゃんは本当に申し訳なさそうに再び私に謝り、私が止める。
ひたすらそれを繰り返していれば、マコちゃんが手を上に上げてクロスさせる。
途端に彼女にスポットライトが当たった。


「流子ちゃん!名前ちゃん!お互いそんなに頭を下げあってちゃ首がおかしくなっちゃうよ!おかしくなったらご飯が喉を通らなくなるんだよ!美味しいご飯のためにも首は大事にしなくちゃダメ!だから二人共!首を振るのはやめて!美味しいご飯を食べよう!」


パッとスポットライトは消えて、マコちゃんがポーズを決めている。
流石はマコちゃん。話が全く違う。

マコちゃんのおかげか流子ちゃんと私は思わず笑ってしまう。
マコちゃんは大きな目をパチクリさせて首を傾げていたが、私達の様子を見てかニコニコと笑い始めた。
二人を立たせておくのも何なので、其処らにある椅子を出して二人を座らせる。

蟇郡さんの計らいか、
部屋はとても綺麗な個室で、自分の家より大きいためか少し落ち着かない。
マコちゃんもキョロキョロしている。


「そういやぁ、何処を怪我したんだ?」

「あ、肋の骨を、ちょっと…」


流子ちゃんの問いにそう答えれば、彼女は目を見開いてバシンと左の手の平を右拳で殴り「そいつら見つけたらタダじゃおかねぇ…!」と低く唸った。
マコちゃんはそれとは対照的に「早く良くなるといいね!」と笑顔で私を見つめてくる。
二人が心配してくれていることが嬉しくて思わず笑ってしまう。

それにしても、昨日の今日だというのに、私が入院したという情報が回るのが早すぎやしないだろうか。
ふと疑問に思い、二人に尋ねてみることにした。



「…そういえば、私が入院したって誰からお聞きしたんですか?」

「蟇郡先輩と猿投山先輩だよ!今日いきなり目の前に現れて教えてくれたの!」



意外だった。
てっきり、蟇郡さんだとは思っていたのだがまさかの猿投山さんまでとは。
目をパチクリさせていれば、流子ちゃんは忌々しそうにケッと悪態づいた。



「猿投山の野郎、本当腹立つぜ。なぁにが、「それで友達とは、よく言えたもんだな?」だ!
あー!腹立つ!」

「猿投山先輩の後に蟇郡先輩が来て病院の名前教えて貰ったんだー!私、こんな綺麗な病院来るの初めてだよー!病院ってワサビみたいなツーンとした匂いがするんだね!」



あなたの家も一応病院だろうに。
そうツッコミたかったが、マコちゃんに突っ込んでも暖簾に腕押しだろうと思ったので苦笑いをしてやめた。
マコちゃんの独特な感想を耳にしていれば、流子ちゃんがゴソゴソと何かを取り出した。
どすんっとベッドに風呂敷に包まれた大きな箱が鎮座する。
よく見ればそれはお重で、一瞬で何かを理解した。


「これ、見舞いだ」


風呂敷を開けてお重の蓋を開ければ、そこには満艦飾家のコロッケ。
まん丸とキツネ色をした美味しそうなコロッケ達がビッシリとお重いっぱいに敷き詰められていた。
嬉しくて思わず頭を下げて何回もお礼を言う。
そうすれば、二人はニッコリと笑ってくれた。


「あのね、あのね!母ちゃんに名前ちゃんが入院した事を伝えたらね!怪我治すのにはいっぱい食べるのが一番だって言ってたの!だからコロッケだよ!」

「悪ぃな。本当は花とかの方が良かったんだろうけどさ」



二人の気持ちが嬉しくて涙が出そうになる。
その様子に気付いたのか流子ちゃんが「大袈裟なんだよ」と言って頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
決して大袈裟などではなく本当に嬉しくて仕方がなかった。

しかし、量が量だ。
一人で食べきるのにはきっと時間がかかる。
そう思い、二人も一緒に食べないか提案すれば、二人は嬉しそうにその案に乗ってくれた。
あらかじめ好代さんが備えてくれたであろうお箸を手に取り、三人で食べだす。
好代さんのコロッケはやっぱりとても美味しかった。

三人で談笑しながら食べていれば、ふと流子ちゃんが私を見つめる。


「そういやぁ、どれくらい入院するんだ?」

「あ、私的には今すぐにでも出たいんですけど、蟇郡さんが治るまでは出てくるなと…」



そう言えば、流子ちゃんが目をパチクリさせた。
マコちゃんはモグモグとコロッケを食べる手が止まらない。ほっぺたがぷっくりしてとても可愛らしい。
パチクリさせる流子ちゃんにどうしたのか尋ねれば彼女は少し考えながら再びコロッケを口にした。




「ん〜…、いや、なんかな、やたら四天王の奴等、名前に過保護になってねぇ?」



モグモグと咀嚼しながら、
流子ちゃんはお箸で私を指す。
流子ちゃんに言われた事を頭に入れて考えるが、自分はそうは感じない。
むしろ、迷惑をかけまくっているので、皆さんに煙たがられているのだろうなぁ、と思っていたぐらいだ。
そう改めて考えれば、自己嫌悪で少し頭が痛くなった。

流子ちゃんの指摘に落ち込みながら否定すれば、流子ちゃんは顎に手を添えて首を傾げる。
マコちゃんはそんな事お構いなしにコロッケをモグモグしていた。


「そんな事ねぇと思うんだけどなあ。
特に猿投山と蟇郡は過保護だと思うぜ?二人と何かあったのかよ?」


そう尋ねられ、二人との出来事を振り返るが、失礼な事や迷惑をおかけした事しか思い浮かばない。
猿投山さんは、いつも背中を押して元気付けてくださるし、蟇郡さんはいつも私に優しい。
それに比べて私はなんてこと。
頭を抱えて自己嫌悪に陥れば、慌てて流子ちゃんが慰めてくれる。
それに顔を上げて苦笑すれば、流子ちゃんは溜息をついて私の頭を撫で、そして茶化すようにニヤリと笑った。


「ま、念の為に言っておくけど、間違っても恋なんてすんなよ?」


そう言われ、目を数回瞬いて、慌てて否定する。
そうすれば流子ちゃんは愉快そうに笑い「冗談だって」とケラケラと笑った。
そんな流子ちゃんを少し恨めしそうに見つめれば、彼女は再び私の頭をわしゃわしゃと撫でて「ごめんごめん」と笑ってくれる。
その笑顔に怒る気なんて湧くはずもなく、つられて笑ってしまった。

さて、コロッケ食べるか、とお重に目をやれば、そこには綺麗になった空箱。
マコちゃんに目をやれば満足そうにお腹を膨らませてポンポンと撫でていた。

私、まだ二つしか食べてない。


「マ、マコ!お前!全部食っちまってどうすんだ!名前の見舞いだろ!?」

「あー!!そうだったー!!ご、ごめんねごめんね!コロッケが美味しくてついー!!」


二人がドタバタと言い争うのを見つめて、お箸を置く。
コロッケを食べれないのは本当に残念だが、二人を見つめている方がより元気になるなぁ、とそう思いながら笑った。







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