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「肋の骨が折れてますね。暫く入院した方が良いかと」


医者からの診断結果。
やはりか、と蟇郡は溜息をついて、隣に横たわる彼女をチラ見すれば、変わらずの形相で必死に首を横に振っていた。
医者もそれを見て思わず苦笑する。
蟇郡は再び溜息をついて彼女に向き合った。


「入院代は気にするな。俺が出す」


そう蟇郡が告げれば、名前は更に必死で首を横に振り続ける。

なんと頑なな。
そもそもこれは学園側の不始末だ。
学園の生徒ではない彼女をまきこんでしまった責任が自分にはある。
その責任を取ろうとしているだけのこと。

蟇郡はそう思い、医者に入院の手続きを頼む。
名前の意思とは反して、着々と話が進んでいく。
横たわる彼女は涙目でその様子を見るしかなかった。












26













「はぁ?バイトが入院したですってぇ?」


音楽室にて楽譜を確認していた蛇崩に蟇郡は告げた。


名前の入院が決定した次の日、蟇郡は学校にいた。
名前はここで働いている身。
雇っている側として四天王達には知らせなければならないと蟇郡はそう思った
ためだ。

蛇崩の反応に頷けば、彼女は立ち上がり、詳細を聞いてくる。
入院した経緯を告げれば蛇崩は眉間に皺を寄せた。
そして、腰に手を当て顔を逸らす。



「…蟇君、バイトの力、他の生徒にバレてたりしないんでしょうね?」

「無論だ」

「あら、そう、なら良いのよ」



蛇崩はそう言って、再び楽譜と向きあう。
ひとまず蛇崩には告げれたため蟇郡はその場を後にしようと踵を返し、入り口へと足を進める。
その時、蛇崩から「そういえば」と声が発せられた。
その声に反応した蟇郡は振り向き、彼女の次の言葉を待つ。
彼女の顔は帽子で見えず、唇だけが見える。
その唇は少しとんがっているように見えた。

そして、彼女は小さく、やっと拾える大きさで呟いた。


「…どこに入院してるわけ?」


その質問に、蟇郡は少し目を丸くした後、少し笑う。
そして、メモ紙に病院名を書き、蛇崩が見ている楽譜に置いて、その場を静かに立ち去った。
立ち去った後、蛇崩はメモ紙を手に取り病院を確認していた。



(次は…体育館へ行ってみるか)



蟇郡は音楽室を出て、次の場所、体育館へと足を運ぶ。
体育館なら、彼がいるだろうとそう踏んだからだ。
途中で生徒に襲われるが、なんてことはなく全て一蹴し、足を進めた。

体育館へとつき、その大きな扉を開き
中に入れば案の定、彼…猿投山渦は其処にいた。
瞑想しているのだろうか、猿投山は正座をして静かに其処にいた。


「蟇郡か」


体育館に、落ち着いた猿投山の声が響いた。
蟇郡は黙って近付いていけば、猿投山も立ち上がり、蟇郡へ向きあう。
蟇郡は要件を猿投山に伝えるため口を開いた。


「苗字が昨日、生徒に襲われ入院した」

「…なに?」

「肋の骨を折ったようだ。暫く学園には来れんだろう」



蟇郡の言葉に猿投山の空気が少し変わった。
それを感じ取った蟇郡は猿投山を見つめる。猿投山は何も言わずその場に佇んでいた。
そして、唐突に歩き出し、蟇郡の横を通り過ぎる。
思わず蟇郡は「何処へ行く」と声をかけた。
その問いかけに猿投山は振り向かず
静かに答えた。


「決まってるだろ。今は壊惨総戦挙中だ」


そう一言告げて、体育館を後にした。
瞬間、外で生徒の悲鳴が響き、蟇郡は静かに溜息をつく。
蛇崩も猿投山も不器用な奴等だと、蟇郡は一人考えながら、体育館を後にする。


(昨日の礼も兼ねて伝えねば)


そう思いながら、最後の四天王の彼がいそうな場所へ足を進める。
彼がいるとしたら放送室あたりだろう。あそこならば、それなりの機器も揃っている。
そう結論付け、放送室へと足を運んだ。

扉を開けば、学園の設備にしては整い過ぎている機器の数々。
蟇郡にはワケの分からない機器が並ぶその奥に進む。
探し求めていた人物、犬牟田宝火はそこにいた。
彼はパソコンを弄りながら、蟇郡が来た事を一瞬確認して再びパソコンに目を戻した。


「昨日はすまなかったな。礼を言う」

「ああ、気にしないでくれ。既に調べていたものを送っただけだからね。
それよりも、今日来たのは彼女の入院の事だろう?」


犬牟田には全てわかっているようで、メガネをクイッとあげながら蟇郡にそう言ってきた。
ならば話は早い、と蟇郡は口を開く。


「お前の言う通り、暫く学園には来れん、一応報告をしておこうと思ってな」


「ああ、理解しているよ」


他の二人とは違い、犬牟田は至極冷静に蟇郡にそう伝える。
犬牟田の冷静さを見て蟇郡は感心しながら、その場を後にしようと踵を返した。
すると、犬牟田に声をかけられる。
蟇郡が彼の近くへ再び近寄れば、犬牟田は黙ったままだ。
蟇郡は疑問に思い、犬牟田に声をかければ、彼はフッと顔を上げ蟇郡に書類を渡した。


「これが彼女を襲った生徒達のリストだ。壊惨総戦挙後、どうするかは君にお任せするよ」


どうやら彼もそれなりに不器用らしい。
蟇郡は溜息をつき、大人しくその書類を丁寧に折り畳み懐へとしまう。
軽くお礼を告げて、蟇郡は放送室を後にした。

そして、静かになった放送室で一人。
犬牟田は蟇郡に渡したものとは違う書類に目を通す。
先程、本当ならば蟇郡にこれを渡そうと思っていた。
しかし、渡せなかった。
何故ならこれはあくまで仮説の段階。
書類を粉々に破りゴミ箱へ捨てる。
そして、再びパソコンへ向き合った。



「本当に、君の身体はどうなってるんだ。苗字」



そう犬牟田は小さく呟いて、パソコンの電源を切った。






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