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「ひぃいいいいいい!!!!」


帰り道。
私は今、全速力で走っています。
途中までは流子ちゃんとマコちゃんと帰っていたのだが、家の方角は反対方向のため自然と途中で分かれるのだ。
そのため、私は一人で帰る。
いつもならば何事もなく帰るだけだが、今のこの状況が状況。
暴れまくる生徒達は其処らにうじゃうじゃといるわけで。
そして私はこの服を着ているためか誤解を受けているわけで。

後ろを向けばギラギラとした沢山の生徒。

私は体力の続く限りひたすらに走った。

本当は流子ちゃんとマコちゃんに送っていくと言われたのだが、流子ちゃんは今日夜に出かけると聞いていたため気持ちだけ受け取っておいた。
お出かけするならばそれの準備とかもあるだろうし。

息が切れる。

流子ちゃん達と別れてからかれこれ二時間半は経過したろうか。
私はまだ家にたどり着けていない。

何故か私の家の周りに結構な数の生徒がいて、たどり着けないのだ。
いなくなるまでこうして外にいるわけだが、この服が目立つのか次から次へと襲われる始末。
泣きたくなった。

裏路地へ入り込み、影に隠れて上がった息を整える。
胸が苦しい。


「見つけたぁ…!!!」


その声に気付いた時にはもう遅かった。
瞬間、身体を貫く衝撃。


「っくは!」



お腹が痛い。
一瞬何が起こったのか全く分からなかったが、私は今蹴られたのだろう。
その威力たるや、蹴り飛ばされた先の地面で嘔吐してしまうほど。
襲いかかる痛みと気持ち悪さに鞭打って、何とか逃げねばと一生懸命体を動かす。
しかし、それも無駄でスカートを捕まれてしまった。
薄れそうな意識の中で見たのは沢山の一ツ星の女子生徒の内の一人。



「これ二ツ星極制服よね…!?寄越しなさい…!」



そんなのお断りだ。
これは伊織さんがわざわざ私のために誂えてくれた一張羅なのだ。
絶対に渡さない。

睨みつければ、今度は頬を平手で殴られる。
拳じゃないだけ有難かった。
しかし、平手でも充分な威力で、口の中を切ったのかポタポタと血が滴る。
それでも服は渡したくなくて、掴まれているその手をはたき落とす。
それに苛立ったのか、女子生徒は私のお腹を再び蹴り上げた。

気付けば、日は沈み、周りは暗くなっていた。

その暗さと同じように、私の意識も遠のきそうになる。
目の前が霞んで、今にも目をつむってしまいたい。
しかし、ここで気絶すればこの服は他人の手に渡る。それだけは嫌だ。
何とか目を開けて、お腹の痛みに耐える。



「なぁによ、二ツ星のくせにてんで弱っちぃのねぇ〜?」



そりゃあ、なんちゃってですから。

そう言ってやりたかったが、息をするのがやっとで声が出ない。
相手が再び拳を振り上げたのが見えた。
私は来る衝撃に耐えるため思い切り目を瞑った。



「何をしている貴様等ぁぁあああ!!!」



とても大きくて逞しい声が耳をついた。
それと同時に大きな衝撃音が鳴り、女子生徒達の悲鳴が響き渡る。
その様子を見るため、私は顔を上げた。

意識半分のためか、誰が来たか分からず何とかお礼だけを言いたくて口を開く。
瞬間、フワッと身体が浮いた。
身体が温かくなる。
人肌だろうか。
その温かさにとても安心し、私は意識を手放した。











25











目が覚めた。
身体の痛みでなかなか身体が動かず、首だけを動かして状況を把握する。
車の後部座席だろうか。
とてもフカフカだ。
右を見ればハンドルやミラー。いよいよここが車であることが確定した。
すると額に冷たい布がペチョリと置かれたのが分かった。
少し染みて痛い。おでこも怪我をしているようだ。
助けてくれたであろう相手にお礼を言うためそちらを向く。



「目が覚めたようだな」

「がっ!!!!???まっ!??」



なんたる事。
私を助けてくださり、さらには介抱までしてくださっている人はまさかの蟇郡さんだった。
あまりの衝撃に私は舌を噛み静かに悶える。

雄っぱいが、雄っぱいが、近い。

オープンカーの外から私の様子を伺うように顔を覗き込んでくださる。



「ウチの生徒がすまない事をした」



蟇郡さんが謝る事じゃないです。

そう言いたかったのだが、怪我のせいで声が思うように出せない。
それを見て蟇郡さんは「無理して喋るな」と優しく制してくださった。
その優しさはまるでマリア様のようだ。
本当に。

ふと身体を見れば、所々に包帯が巻かれている。
どうやら応急処置までしてくださったみたいで、本当に頭が上がらない。

首だけでもペコペコと上下にさせてお礼を伝えていれば、私が何を言いたいのか分かったらしく「風紀部委員長として当然の事をしたまでだ」と真面目な顔で仰った。
どこまでも実直で素敵な方だ。
思わず笑えば、蟇郡さんは少し目を丸くしてジイッと私を見つめた。



「ほう、苗字の笑った顔を初めて見たな」



ふむ、と噛みしめるように私を見つめて仰る蟇郡さん。
そう言えば、私はそんなに笑っていなかったのだろうか。
皆さんに会うたび、失礼のないよう顔色ばかり伺っていたから確かに笑うなんて事はそんなにしなかった気がする。
蟇郡さんはそう言うと少し満足そうに私のおでこに絆創膏を貼ってくださる。
「これで良い」と小さく呟いたのが聞こえた。

また再び首をペコペコさせてお礼を伝える。



「送ろう。家まで案内出来るか?」



そう蟇郡さんは呟いて、運転席へと乗り込む。
お世話になりっぱなしで本当に申し訳ない。今度何かしら菓子折りとか持ってお礼しなければ。
何とか身体を起こし、指で家の方向をさせば、蟇郡さんが車を発進させようとエンジンをつけた。
蟇郡さんが途端に振り向き、私の様子を見つめる。
ひとしきり私の様子を見た後「寝ていろ」と一言だけ呟いて携帯か何かしらの機械で何処かへ連絡を取り出した。
そのお言葉に甘えて座席へ寝転がる。
起き上がっているのは少しキツイ。
蟇郡さんの喋る声を耳にしながら星空を見つめていれば、いつの間にか意識を手放していた。


「ああ、よろしく頼む。犬牟田」


ポチと通信を切り、再び相手からの連絡を待てば瞬間に蟇郡の携帯が鳴った。
流石は犬牟田、仕事が早い。
そう思いながら、携帯で犬牟田から送られてきた内容を確認する。
後ろで寝転がる苗字の家の地図がそこにはあった。

場所も分かり、蟇郡は出発しようと後ろの彼女にシートベルトの着用を促すため振り向けば、そこには痣だらけで眠る彼女の姿。

蟇郡が苗字に出会った経緯はこうだ。
纏達を途中まで送り届けたその帰りにも、様々な生徒達が蟇郡に襲いかかってきた。
それを全て返り討ちにした所、蟇郡に叶わないと思った生徒達が逃げながら言ったのだ。

「メイド服の二ツ星に変更だ」と。

瞬間、蟇郡の頭に思い浮かんだのは掃除をする彼女の姿。
彼女は学園の生徒でもなければ、ただの一般市民。
蟇郡は慌てて車へ乗り込み、彼女の姿を探す。
やっと見つけた彼女はボロボロの姿で集団に囲まれていた。
ボロボロの姿になりながらも、服を脱がされまいと身体を縮こまらせる彼女を見た。
その後の事は蟇郡はよく覚えていない。



(無理もない。生身の身体で一ツ星の攻撃を受けたのだ)



お世辞にも鍛えてるとは言えないその身体には至る所に痣が目立つ。
服の上から見えている部分しか治療出来なかったが、喋れない様子を見ると恐らく腹部の攻撃が一番酷いのだろう。
しかし、女性の服を脱がして治療する、ということが蟇郡には出来るハズもなく。
蟇郡は一つ溜息をついて車を発進させた。


(随分と僻地に家があるな)



地図を確認しながら蟇郡は車を進める。
彼女の家は本能町の町並みとは少し離れた所にあった。
またその場所というのが不思議で、住民が要らない物を捨てるような空き地にその家はあったのだ。

蟇郡は疑問に思ったが、ふと納得した。
彼女はここの世界の者ではない。
家など借りれるハズもないのだ。
蟇郡は後ろで眠る彼女を一瞥して再び前を向いた。

数十分車を飛ばして、目的地へと到着する。

そこには数人の学園の一ツ星の生徒達が集まっていた。
瞬間、彼女が家へ帰れなかった理由はこれか、と蟇郡は納得する。
ここは町並みから少し離れた場所。
一ツ星が二ツ星と戦うにはそれなりの数と作戦が必要だ。
それを考えるとここは、人目にも付かず、作戦会議の場所としては最高の場所というワケだ。

彼女の姿が見えないように配慮しながら蟇郡は車を止めた。
その音に気付いたのか集まる生徒達が一斉に蟇郡に襲いかかる。

それを鞭で一蹴し、彼女を見る。

被害を受けていない事を確認し一息ついて彼女が起きないように優しく抱える。

蟇郡からしたらとても小さいその身体には、やはり筋肉などなかった。

家と言うには随分と頼りない彼女の家へと蟇郡は足を運ぶ。
家のドアには鍵などなく防犯設備が全くなっていない。


(女子の一人暮らしだというのに不用心な)


蟇郡は女子の家に勝手に入るワケにもいかない、と思い自分の腕の中で眠る彼女を見る。
その顔は少し青かった。
蟇郡は慌てて彼女の額に手を当てれば、その額はとても熱い。

(攻撃を受けた際に骨を折ったか)

蟇郡が応急処置した所では、その様子はなかった。
自分が確認出来ていない場所。
つまりは腹部。
そこの骨が折れている可能性が高い。

直ぐに病院へ運ぼうと車へ向かった。
車へ向かう途中にもぞりと腕の中の人物が動いたのが分かった。


「…っ」

「!、目を覚ましたか。病院へ行くぞ」


蟇郡は短くそう告げると、彼女は目を見開きそれを拒み暴れる。
その抵抗は怪我の痛みで直ぐに静かになった。
抵抗が終わった瞬間、蟇郡を見つめ、ジェスチャーで必死に何かを訴える。
蟇郡はそれを理解するため、彼女のジェスチャーを食い入るように見つめた。
それを何回か繰り返し、蟇郡は理解する。



「…なるほど、健康保険証がないから病院へは行けない、と」



つまりはお金が彼女にはない、という事。
そんな事か、と蟇郡は溜息をついて車へ再び足を運ぶ。
途端に彼女はまた暴れ、痛みに悶えていた。
優しく車へ寝かせ、運転席へ乗り込み車を発進させる。


「学園の生徒の不始末は俺の責任。
病院代如き、俺が出す」


そう蟇郡が告げれば、後ろからドタンと何かしらの音。
車を止めて後ろを向けば彼女は後部座席と前列シートの間に落ちていた。
慌てて彼女を座席へ再び寝かせれば、物凄い形相で首を横に何度も振っていた。
その必死たるや、蟇郡の動きを一瞬止める程。



(こいつの事だ。迷惑がかかるとでも思っているのだろう)



蟇郡は溜息をつき、再び運転を再開する。

必死に首を横に振り、抵抗する彼女に蟇郡は溜息をつきながら、病院へと車を走らせた。






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