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「解散総選挙?」

「いや、壊惨総戦挙だ」



一緒ではないか。

思わずそう心の中で目の前にいる犬牟田さんに突っ込む。

昨日はあれからマコちゃん家でお泊りをし、流子ちゃんとマコちゃんととても楽しい時間を過ごせた。
ご家族の方にまさかお風呂を覗かれるとは思わず、思い切り叫べば流子ちゃんがすかさず来てくれて、惚れそうになった。


そしてその翌日、
学園の三階の廊下を雑巾で拭いていた所に現れたのは犬牟田さん。
彼が現れた事により私の周りは一気に閑散として、ある一定の距離から沢山の生徒が私達の様子を伺っている。
変に注目を浴びてしまって非常に辛い。

解散総選挙とは、
先程説明を賜ったのだが、皐月様が考えたイベント行事らしい。
また内容というのがこれはまた乱暴なもので、簡単に言えば、全校生徒バトルロワイアル的な事をするそうなのだ。
今朝、皐月様が全校生徒の前でそれの開催宣言を行ったらしい。
掃除に夢中で聞いてなかった私。
通りで、今朝からやたら生徒達が喧嘩をしていると思った。
現に今も窓の外の校庭を見れば沢山の生徒達が争っている。



「7日間、この学園や街全ては戦場と化す。
だから君はどうするのか聞いておこうと思ってね」

「えと、どうするも何も…お仕事をさせて頂きますが…」



犬牟田さんは「そう言うと思ったよ」と一言呟いてパソコンをカタカタと弄りだす。
そして、パソコンを私に見せてきた。
そこにあったのは地図。
しかも学校から私の家までのもの。
そして、いつも通る道とは別に赤い線がそこに引かれていた。

思わず首を傾げる。



「あの、これがなんですか?」

「おや、僕の言った意味が理解出来なかったかな。この学園と街は戦場と化すと言ったはずだが」



そう言われ、意味を考え、気付いた。
犬牟田さんは安全な道を教えてくださっているのだ。
万が一、私が襲われでもしてこの力が知られてしまっては大変だ。
そのための対策をしてくださっているのだろう。
なんて申し訳ない。忙しい時間を割いて
わざわざ私なんかのためにこれを調べてくださったなんて。

慌てて頭を下げてお礼を言えば犬牟田さんは「それじゃあ、これで失礼するよ」と呟いてパソコンを閉じ、そして立ち去って行かれた。
その背中を見送りながら、ハッとする。

私、まだ地図覚えていない。









24













犬牟田さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
こんな失態を侵すだなんて。
慌てて追いかけるが既に犬牟田さんのお姿はなく、深く溜息をついた。
なんて情けない。

トボトボ掃除場所に戻り、仕方なく掃除を再開する。
先程の犬牟田さんの登場で閑散としていたハズの廊下は、とても煩くなっていた。
所々で喧嘩をしている生徒達の姿を見かける。
本当に、全員こんな事をするのか。
思わず生唾を飲んだ。
しかし、私は掃除をしなくては。
そう思い、喧嘩をする人達の傍ら私は掃除をする事にした。
そもそも、この学園の生徒ではない私には関係のない話。
昨日も伊織さんから頂いたこの服で掃除を行ったのだ。
間違われる事はないだろう。

そう安心して掃除を続けていれば、私に影が差す。
今度は何事かと思い顔を上げればそこにはまったく知らない男子生徒が私を見つめていた。
服を見る限り一ツ星だ。
変に嫌な予感がした。
その瞬間、彼から振り下ろされる拳。

嫌な予感が的中して、私はそれに何とか反応してギリギリ避ける。
拳は壁に当たり、少し凹んでいた。
壁が凹むってどんな力だ、そう考えると身体がゾッとする。

逃げなければ。

そう思い振り向けば後ろには似た風貌の一ツ星の生徒達ばかり。
全員が全員、私を見ていた。


「四天王と話してたぞ…」

「制服も俺たちとは違う…」

「どこの部長だ…」

「あれは二ツ星極制服じゃないのか…」



ボソリボソリと、生徒達から声が聞こえた。
聞こえた内容を整理すれば分かる通り、生徒達は私を「二ツ星極制服の何かの部活部長」と、勘違いしているようだ。
犬牟田さんの馬鹿野郎。

全員の目がギラギラとしていて恐怖を覚える。目先の欲に駆られた人間は冷静な判断が出来ないらしい。
思わずデッキブラシを構えるが彼等には全く効果がない。
何とか逃げなければと、生徒達の波の隙間を探すが隙間なんてなく、ジリジリと窓際に追い詰められる。

背中に窓が当たり、いよいよ逃げ場はない。
迫る生徒達に何も出来ず、泣きそうになる。
でも、ここには私一人。
何とかしなくては。

ジリジリと迫る生徒達から逃げたい余り、私は窓を開ける。
そこからは一瞬だった。
何の躊躇いもなく私はそこから飛んだ。
三階なのは分かっていた。
だけど、ここにいるよりマシだと、そう感じたのだ。

落ちていく中で後悔したが、後悔先に立たず。
私はそのまま戦場の校庭へと落下する。
どうか骨折ぐらいで済むように目を瞑り祈り、衝撃を待つ。

トス。

待っていた衝撃は何とも気の抜けた音だった。痛みもなければ、衝撃も大した事はない。
恐る恐る目を開ければ、太陽の眩しさに一瞬目が眩んだ。
段々と目が慣れ、ゆっくりと現れたその姿に私は思わず目を見開いた。



「…」

「さ、猿投山さ…!?」



顔が一気に赤くなるのが分かった。
所謂、お姫様だっこというものをされているのだ。
私は慌てて猿投山さんの腕から逃れる。
慌てて頭を何回も下げて謝罪すれば猿投山さんから聞こえたのは溜息。

なんたる失態。

なかなかひかない顔の熱をペチペチも手で叩く。
こんな重い身体をあんな勢いつけてお姫様だっこさせてしまった。
情けないないのと恥ずかしいので私は死にたい。
重かったハズなのに平然としている猿投山さんを見て、流石は四天王だと感心してしまった。

感心していればいきなり猿投山さんに腕を引っ張られる。
突然の事についていけず、気が付けば私は猿投山さんの胸の中にいた。
そして、私の後ろから「ぎゃあ!」と悲鳴が聞こえる。
慌てて顔を上げれば沢山の生徒が猿投山さんと私を囲んでいて、私は先程の恐怖を思い出し目眩がした。

とりあえず握り締めていたデッキブラシを自分の胸近くに引き寄せる。
それに気付いた猿投山さんが「なんだ、お前も参加するのか」と呟いたため、私は全力で首を横に振った。

瞬間、大きな声と共に生徒達が一斉に襲いかかる。

猿投山さんはそれと同時に私を思い切り押した。
私はそれに受け身が取れず、見事に転ける。転けた痛みを忘れ慌てて猿投山さんの方を見れば、彼はそこに何事もなかったかのように立っていた。
襲って来た生徒達は猿投山さんの周りに山のように積み重なっていて、状況が全く理解出来なかった。
あの一瞬で全て倒したのか。
本当にお強いのだ、と改めて思い知らされた。


「さ、猿投山、さん、お怪我は…」

「こんな奴等を相手に怪我なんざするワケねえだろ」


それを聞いて一安心して、猿投山さんにお礼を言わねばと思い、デッキブラシを支えに立ち上がろうと踏ん張った。
三階から落ちた恐怖と先程の生徒達の奇襲で私の腰は限界だった。

瞬間、デッキブラシが空を舞った。

原因は一つ、デッキブラシに力を入れすぎて、ズルンと滑ったのだ。
結果デッキブラシは見事に空を舞い、私は顔面から転けた。
そして、「ぶふっ!」と真後ろから声が聞こえたのだ。

何故人の声が?

そう思い打った鼻を撫でながらそちらを向けば、そこにはデッキの棒の部分が見事に顔にめり込んだ見知らぬ男子生徒の姿。

生徒はそのまま後ろに倒れ、カランカランとデッキブラシが地面に転げた。


「やるじゃねぇか」


猿投山さんがニヤリと笑い私を誉める。
慌ててこれを否定すれば猿投山さんは「運も実力の内なんだよ」とそう言って愉快そうに笑った。
なんて事だ。
彼には全く恨みがないのにこんな事を…。
成り行きで気絶させてしまった生徒を見つめていれば、目の前に差し出される手。

見ればそれは猿投山さんで、
先程の立てない私を見かねたのか手を差し出して来てくれた。
顔は笑う事も無く、怒っている事もなく、普通で、一ついつもと違う所と言えば下唇を尖らせている事だろうか。
お言葉に甘えようと思ってその手を恐る恐る掴んだ。



「てんめえぇええええ!!!猿投山ぁああああ!!!!」




真横から落下音。
その衝撃は私動きを止めるのに十分なものだった。
ズドンッと尋常じゃない音と共に砂埃が立ち込める。
戸惑っていれば掴んだハズの猿投山さんの手をバシンと誰かに離される。
何事かと思いそちらを向けば、そこには眉間に深く皺を刻んだ流子ちゃんの姿。
思わず口をあんぐりと開けてしまった。



「猿投山!!!名前に何してやがる!!返答次第じゃタダじゃおかねぇ!!」



ズビシッと猿投山さんに指をさして私を自分の背中に追いやる流子ちゃん。
あまりの格好良さに惚れてしまいそうだ。
しかし、流子ちゃんは勘違いしているようで、私は慌てて流子ちゃんの足を掴んだ。


「ち、ちがうんです!さ、猿投山さんは私を助けてくれて、それで今も私を起こしてくれようとして…!」

「な、なに!?そ、そうなのか!?」



何とか身振り手振りで慌てて説明すれば、流子ちゃんは気恥ずかしそうに猿投山さんに「悪かった」と謝った。
私なんかのせいで変な誤解を生んで本当に申し訳ない。
猿投山さんは何も言わず流子ちゃんと私を見つめていた。
それに流子ちゃんも違和感を覚えたのか、身構えていた。


「……知り合いか?」


猿投山さんがそう言った。
その質問に流子ちゃんが「なんだよいきなり!」と返せば、猿投山さんは「纏!てめぇには聞いてねぇ!」と一蹴。
それに対して流子ちゃんはヤンキーのように睨んで猿投山さんに殴りかかりそうになったため、慌てて足を抑えて流子ちゃんを止める。
真顔で見つめる猿投山さんに、私は目を逸らさずに答えた。



「大切な、お友達です」



そう言い切れば、流子ちゃんは大人しくなり気恥ずかしそうに頬をかいていた。
質問してきた猿投山さんを見つめれば、
彼は暫く真顔で私を見つめた後、頭をガシガシとかいた。
そしてポケットに手を突っ込み、ゆっくりと私に近づく。
流子ちゃんは慌てて身構えるが、私はそれを止める。
近づく猿投山さんをひたすら見つめていれば、彼は私の目の前に来て私の手を掴み無理やり立たせてくれた。
それにキョトンとすれば、猿投山さんは少し愉快そうに口元を緩ませる。



「迷いが消えたな」



そう小さく呟いて、私の横をそのまま通り過ぎて行く。
すれ違い様に私のおでこを軽く拳でコツンとやられ、おでこを抑えながら彼の背中を見つめた。


「あ、あの、いろいろ、ありがとうございました!」


そう彼の背中に向かって言えば、彼は手を軽く上げて答えてくれた。
それに嬉しくなって思わず笑う。

流子ちゃんが「なんだ?あいつ」と不思議そうに首を捻っているのを見て更に笑う。流子ちゃんにもお礼を言えば、彼女は綺麗な笑顔で微笑み返してくれた。
私は本当に幸せ者だ。


「さてと!まずはここから避難しねぇとな!」


流子ちゃんはそう言って駆け出す。
私はその背中を追いかける。
そして、戦場と化した校庭を後にした。






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