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放課後。

あの場所へ足を運んだ。
あの場所とは勿論、あの忌々しい思い出が残るあの場所。

裸になった事が頭によぎり頭を振る。
何も余計な事は考えないようにその場所へ足を踏み入れた。
ドアを開けて、中に進んでいけば目的の場所と、目的の人。

その人が見える位置、声が聞こえる位置まで足を進めて立ち止まった。


「決めた様だな」


低い声が響く。
目の前にいる目的の人。紬さんは腕を組んで窓枠にもたれかかっていた。
顔は此方を向けずひたすらに外を見ている。

紬さんの赤髪が窓から差し込む夕日の光を吸い込んで、より赤さを増している。
綺麗だと思った。

相手は外を見るのをやめて、私の方へとゆっくり顔を向ける。
私はそれに目をそらさず向き合った。

私は今日、今から、運命を決める。












22












「言え」



ふう、と一つ息を吐く。
紬さんは真っ直ぐに私を見つめてきて、視線がそれることはない。
その目の強さが、あの空を飛んだ日を思い出して少し怖くなったが、それを今は考えない。

考えた。
散々考えた。
考え抜いて、アドバイスを頂いて、やっと出た答え。

少し息を吸った。
肺が満たされていくのが分かる。
この満たされた肺の中の空気を私の音として吐き出した。




「私は、何方か選べません」





瞬間、ジャコンと音が鳴ったかと思えば視界がぐるりと反転する。
何が起こったか理解する前に背中に衝撃を受けて、痛みと反射的に声が出る。
少し咳き込んで、痛みを感じれば、いつの間にか目の前は紬さん、私に跨がり、そして、以前突き付けられた銃。
紬さんの指はあの時と一緒で引鉄に指をかけていた。
紬さんの顔色は変わらない。
ただただ無表情で銃を突き付けている。

そして、私も前回と同様不思議と怖くなかった。
前回とは状況が違うというのに何故だろう。



「どういうことだ」


「そのままの意味です」




ダンッ!

銃口から鋭い光。
気が付いた時には私の顔の真横。
そこに銃弾が放たれていた。
間近でその音を聞いたためか耳鳴りがする。
再びガチャリと銃から音がして、弾が込められたのが分かる。
怖くないだなんて私は壊れてしまったのではないのか。
いつでも殺されてもおかしくないこの状況で私はそれでも相手を見つめれる。

相手のその銃撃は、「ふざけるな」と言われているのが良く分かる。
そりゃそうだ。
何方か決めろと宿題を出したのに、選べませんと私は告げたのだから。



「私、八方美人なんです」



ピクリと銃口が動いたのが見えた。
私の発したその言葉に紬さんは顔色を変えることなく次の言葉を待つ。

ポツリポツリと昨日まとめた考えを告げ始める。
とても身勝手な理由で彼を納得させる事なんて出来ないかもしれないが、コレが私の答えなのだ。

答えを告げた後、どうなるかは分からない。
紬さんに敵としてその場で殺されてしまうかもしれないし、これから敵として二度と話す事なんて出来ないかもしれない。
銃口は私を逃さない。
少しでも彼の納得出来ない事があればこれは再び先程のように光を放つのだろう。





「人に、嫌われないように生きてきたんです。相手の嫌な事をしてはいけない。相手が好む言葉を言わなければいけない。
昔からこうだったんですけど、此処で暮らし始めてから酷くなりました」





独白。
誰が聞きたいと思うだろう。
紬さんは何も言わず私の言葉を聞いてくれる。




「前髪を伸ばしてたのはきっと自分の心を見られたくなかったからです。
私は、真剣に何とも向き合っていなかった」


「だから何だ」



イライラしているのが分かる。
私の話が結論に至らないためか、彼の私を押さえつける力が少し強くなったのがわかった。
少し苦しくなって咳き込む。
声が出し辛くなってしまったが、それでも喋らなければ。

一つ大きく息を吸った。




「っ、皐月様は私を怒ってくださった、蟇郡さんは優しさをくださって、蛇姫様は私にいつも本音をくださる、犬牟田さんには言葉を頂けて、猿投山さんは背中を押してくださった」



一息で言い切る。

ポロポロと言葉が次々と出てくる。
ボタボタと涙が次々と出てくる。

また泣いてしまった。
ここ最近涙脆くて仕方がない。

喋るたび出る涙で紬さんの顔が見えなくなった。
勿論、いつでも私を殺せる銃口だって見えない。

そして、再び私は音を絞り出した。




「っ、流子ちゃんと、マコちゃんは、いつも、心から、笑いかけてくれるんです…」



まるで、太陽のよう。
私には皆が眩しかった。

前髪というシャッターで、私の本音を閉じ込めて、眩しい光を遮断して、私は世界を放り出した。

それをこじ開ければこんなにも暖かいというのに。
それに触れれば答えてくれるというのに。

羨ましかった。
自分を持って生きれるその姿が。
眩しくてキラキラしていて誰もが見る、その大きさ。

羨望して見上げるばかりの自分を
皆という太陽は、シャッターをこじ開けて連れ出してくれた。

私を変えてくれたのだ。

だから、お礼がしたい。
皆のようになりたい。



「だから、今度は私が支えたい」



突き出された銃口を手で掴む。
その瞬間、紬さんの押さえつける力が弱まった。
涙を拭き、身体を起き上がらせ、相手を見つめた。
紬さんは少し目を見開き私を見つめ返してくる。
その目から目を背けない。
前では考えられなかったことだ。
私は変わった。
変われた。
変えてもらえたのだ。



「何方かを選ぶんじゃなくて、
私は何方も選びます」



なんて我儘。
なんて傲慢。
私は何方も選ぶ道を選ぶ。
八方美人は脱ぎ捨てて、私はやっと自分をさらけ出す。

お互い、至近距離で睨み合う。
気付けば、私は紬さんの股の間に居て、
慌てて距離をあけた。

1m程距離をあけた先にいる彼は、私を見つめたまま動かない。
赤くなった自分の顔をペチペチ叩いて誤魔化す。

私の言葉に呆れたのか頭を抱えて深く溜息をつく姿が目に入った。
そして立ち上がり、私に近付く。



「何方も選んで、お前はどうする」



私を見下ろすその姿を見つめ返して、
その問いを考える。

確かに、その通りだ。
どうしたものか。
考えていなかった。
何方も選んで、私はそこからどうするのか。

少し笑顔で誤魔化せば相手は再び溜息をついて、私の横を通り過ぎて行く。
そのすれ違いざまに、私のおでこをペチンと触られた。



「わからねぇなら、行動で示せ」



そう優しく告げて、彼は立ち去った。

それを見届け、私は一気に肩の力が抜ける。
これは、私の意見を認めてもらえたということで良いのだろうか。
今更心臓がバクバクと鳴っている。
おでこを抑えて一息深く溜息をつく。


私の運命は決まった。

私は何方も選ばない。

流子ちゃんも、皐月様も、皆大事な人なのだ。
欲張りだとか、我儘だとか、何を言われても構わない。
世界を支配するだとか、もしそれが本当なのだとしたら、またその時どうするか決める。
こんな中立な位置を選んで、私みたいな小さい人間に何かが出来る訳ない。分かってる。

それでも、私は。


その場に残る彼の煙草の匂いは
私の決意を更に強まらせた。






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