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「……」


ここは音楽室。
この時間はここでの授業がないため、めったに掃除出来ないこの教室を丁寧に掃除する。
音楽室のためか、防音設備がしっかりしているのが良く分かる。
扉がとても重厚なものだ。
その音楽室の窓を新聞紙で拭く。

拭けば拭くほど綺麗になる窓とは裏腹に、私の心には変なモヤがかかってしまった。
それもこれも先生のあの言葉のせいだ。

人類を支配するだなんて、あの皐月様がそんな事をする筈がない。
そんなまるで何処ぞの悪役みたいなこと。

悪役。
そうか、皐月様は流子ちゃんにとっては悪役だった。
蟇郡さんも、蛇姫様も、犬牟田さんも、猿投山さんも。
流子ちゃんにとっては悪。
でも、私には悪には思えないのだ。

蟇郡さんは私の身体を労ってくれるし、蛇姫様は私に気合いをくれる、犬牟田さんだって私に優しい言葉をくれたし、猿投山さんも強くなるための一歩をくれた。
何より、皐月様は、私を受け止めてくれたのだ。

これが全て、悪だなんて。


ぐしゃり、と拭いていた新聞紙を潰した。
ダメだ。
何を信じたら良いのか分からなくなってきた。

大きく溜息をついて、別の新聞紙を取りだす。
掃除をして忘れるしかない、そう思いだした時音楽室の扉が開いた。

慌ててやって来た人物に掃除中の旨を伝えようとしたが、その相手に私は目を丸くした。



「紬さん!?」











20









突然の来訪者、紬さんによって私の先程までの悩みは吹っ飛んだ。
紬さんは堂々とその場に立っていて私を見つめてくる。
私はただそれをおずおずと見つめ返すしかなかった。

紬さんはズカズカとそのまま足を進め私の音楽室の机に腰掛ける。

ここに来られた意図が全く分からない。
そもそも、ここは学校内なのだが警備は一体どうなってるんだ。


「美木杉の言った事は事実だ」


すぱりと言い放った紬さんのその言葉に目を見開く。
新しく取り出した新聞紙をまた潰した。

紬さんの言葉に俯き、考えを巡らす。

先生も紬さんも、嘘を言ってるようには見えない。
しかし、だからと言って、その言葉を真っ直ぐ受け止める事は出来ないのだ。

紬さんは煙草を咥え、火をつける。
モクモクと煙が彼の周りを覆った。

途端に外から轟音。
慌てて外を見れば流子ちゃんが沢山の部活を相手に大乱闘をしていた。
勇ましく戦う彼女を見て、昨日、彼女の手を握った事を思い出す。

紬さんは私の隣にやってきて同じように外の様子を見る。


「あれが生命繊維だ。
ここにいる生徒は生命維持ナシじゃあもう生きられねぇ。
そうしたのも鬼龍院皐月だ」


外の光景を見つめる。
生徒達は極制服を頼りに流子ちゃんに立ち向かう。
みんな流子ちゃんにあっという間にやられていた。



「纏も神衣に依存してやがる。
人間は服からは逃れられねぇ。
お前もそうだろう」



その通りだ。
私も極制服の力に頼ろうとした。
服が消えた時だって私は服を求めた。
服からは逃れられない。
その逃れられない服を、私は壊せるのだ。


「決めろ」



短く、その言葉だけを言い放った紬さんを見つめる。
ビクリとその身体を震わす。

決める。
つまりは、どちらを信じるか。
それを決めろというのだ。

冷や汗が止まらない。
頭がぐるぐる回る。
考えがまとまらない。



「…っ、待って頂けませんか」



決められなかった。
その場を取り繕うためにそう言えば、紬さんは煙草をふうっと吐く。
そして「明日また来る」と一言呟いた。

待って頂けた事に一安心して、外を見つめた。
明日まで。
勝利したであろう流子ちゃんがマコちゃんと抱き合ってはしゃいでいるのが見える。
その姿を見て愛おしさを覚えた。
そして頭をゴツンと窓にぶつける。

悩め。

溜息を一息つけば首元をグイッと引っ張られた。
何度目か分からないその感覚に慣れてしまって慌てて引っ張った相手を見つめる。
紬さんは黙って私を見つめる。
何なんだろうか。

そして私のおでこをパチンと叩く。
変な声が出た。


「二つ良い事を教えてやろう」


スタスタと出口に向かって歩く紬さんの背中をおでこを撫でながら見つめる。
痛かった。


「一つ、初対面の人間を殴れる強さを持つお前なら決められる」


落ち着いた声だった。
予想外の言葉に目を見開いた。
重厚なドアがガチャリと音を立てる。

その言葉が嬉しくて、一気に顔が赤くなる。

紬さんはあの時の事を怒ってた訳では無かったのだ。むしろ私の事を認めてくれていたのだ。
なんと嬉しい事だろう。
嬉しくて思わず顔が破顔する。

紬さんはそのまま入り口に佇み、少しだけ此方を向いた。


「二つ、…誰から送られたか分からない物を気安く着ない事だ」


そう言って紬さんは出て行った。
紬さんがそう言った意味を考える。
誰から送られたか分からない物?
この服は伊織さんに作ってもらった大事な服だ。
誰からか分からない物なんかじゃない。

では何に対して言ったんだ?

少し考え、自分の着用しているものを確かめる。
そして結論に至る。
一気に顔に熱が集まるのが分かった。



「下着っ…!!」



服の上から下着を抑える。

何故紬さんがこの下着を知ってるのか。
何故誰から送られたか分からない事を知ってるのか。
先程の首元を引っ張って下着を確認したのは勿論、そんな理由は決まってる。



「この下着、紬さんが…!!?」



その場にヘナヘナと座り込んだ。

下着を見られた羞恥心と送られた相手が判明して顔の赤みが引かない。
恥ずかしくて死んでしまいそうだ。

ふと、気が付いた。

先程まで悩んでいて辛かったのに、少し楽になっている。
少し笑ってしまった。
なんて、変な励まし方だ。

励まし方が不器用な彼に
明日決意を告げる。

私の運命は明日で決まるのだ。







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